冤罪


 罪、意識、追憶の物語。
罰、共感、最果ての断片。
 私の過去、現在、未来の物語。
 何処かの大聖堂、眼前には白い法衣の老人が座っている。
彼は私を見つめて満足げ表情をその皮膚に浮かべている。
記憶の中の私は微笑んでいる、不思議だ。
 以前と同じ大聖堂、白い法衣の老人は椅子から崩れ落ち涙を流しながら跪いている。
その前には剣を持った若い兵が一人。その後ろには同じく白い法衣を纏った男が一人。嬉しそうな表情をしている。
私はそれを数分見詰めた後、大聖堂を去った。椅子があった空間には椅子に座る新しい男と老人だったものと血に染まった法衣が残された。
 何処かの洋室、眼前には美しい金髪の女性が椅子に座っている。
彼女は私を見つめ て、笑っている。
私も笑っている。少しぎこちない。
 以前と同じ洋室、けれども様子は様変わりしている。
美しかった調度品は荒れ果てシャンデリアは朽ちている。残ったのは彼女の思いと私の無表情。
彼女のしていた薔薇の香水ももう香らない。
 何処かの実験室。白衣の男が私を取り囲む。
男たちは一様に難しい顔をしながらレントゲン図を見ている。
私は何も言わない、与えない。
 以前と同じ研究室。白かった壁紙は剥がれ無残な姿を晒している。
白衣の男は一人だけ。眼鏡をかけた男が歓喜している。
私はジャケットの内側からワルサーP38を取り出した。男の表情は最期まで変わらなかった。残ったのは男だった者の笑顔と数枚の書類と脳のレントゲン。
 カフェの中、 椅子の上、コーヒーカップを眺めていたら取り留めのない記憶が溢れていた。
私がカップを持ち上げるとブラックコーヒーは波紋をつくった。
 そのまま飲み干すと私は立ち上がった。行先は誰も知らない、私も知らない。
残ったのは飲み干されたコーヒーカップとソーサーとさわやかな香水の香りだった。


作品「ネメシスネットワーク」より

(12/16)


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