Flagments〜散りばめられた破片〜


『アーティスト。
古代・中世では芸術を作り上げる為なら何があろうと美学を貫く創作者。』

透き通った声の少女は静かに虚空に言葉を流転させる。

『ならば今、この信仰すら欺瞞と成り下がり、前時代の偉人の皮を被った者達に煽動されて生きる私達の時代の『アーティスト』』

奇抜な色の髪の深い鈍色の目をした少年が続く。

『なる事は出来ないかもしれないにしろ、その定義を断片集が
無意識とは言え教義とするのは
何たる僥倖であろうか。』

紫陽花の花束を腕に湛えた、
漆黒の婦人(レディー)が問いを投げる。

『今、この時もこの化合物に塗り固められ本来の姿など欠片も無い大地を歩む人々。

彼等の無意識の自己防衛。

一体何が、其れを本能から人を縛る常識に昇華させたのだろうか?』

真剣な面持ちの青年が、珈琲を片手にその知的な顔を曇らせながら更に核心に踏み込む。

『異質な物を排斥する・・・。

ならその異質なモノを排斥出来る程の今、お前達が住んでる高度な世の中は何の個性も無い奴らが作り上げたと言うのかい?』

帆船の舳先で月光が流れる海原を眺めながら彼女は何をと言うわけでも無く哀れそうに語る。

『争いは良く無いと嘯きながら金が絡めば掌を返し、
愛想笑いで世の中を生き、
貶められても其れにも気付かない。

種族の性質としてコレは堕落の最高峰『ハイエンド』だ・・・。』

厳しい顔を全く崩さず、志高き怒りを燃やす美貌の男。

『是等の点から考察するに、
世の中で生き辛いと感じながら何かを創作するのが『アーティスト』と仮定すると、

彼の人種は
-争いに心踊らせながらも、
その悲惨さを魂で感じ。

-不器用ながらも全てを愛し、
納得行かずとも其れを受け止める見識を持ち。

-護るべきプライドはしかと理解している。


其れに、為政者に縋って生きる程、彼等は世を楽観視しては居ない。

何かを創り出す者は、心の何処かに傷を持つモノ。

世を生きる為の鈍感になる必要性に苛まれ、
ヒトの根幹にある大切な何かを捨て去った者には決して理解も出来なければ足元にも及ばない。

その『大切な何か』をこの世界の不条理に奪われまいと必死に抗う者だけが、

底の無い創作の世界に足を踏み入れる資格を持つ

『アーティスト』なのですから・・・。』

そう不敵な雰囲気の痩身眼鏡の男が語り終えるのと同時に、
彼等の姿は霞と消える。

-透明の万年筆-鈍色をした髑髏の髪飾り-紫陽花の花束-焼鉄色の懐中時計-漆黒をした美しい意匠の剣-真紅の絵筆-真鍮で出来た古色蒼然とした杖-

彼等が消失した後に遺された其れら総てには『Flagment』
と刻まれていた・・・。


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