壁の破壊を目論む者

 耳を劈くような轟音。胃が浮遊する妙な感覚。腹の奥深くまで響く振動。地平線に雲の如く瓦礫と砂塵が飛び散る。ナマエたちは城が倒壊する中、巨人化したユミルの髪に掴まってどうにかやり過ごす。けれども暴風の衝撃に曝され硬い石畳へ身体を打ちつけてしまう。
「う、うう……」
 ナマエは全身に痛みを感じた。痛みで覚束ないけれど、手足は動かせたので大丈夫そうだった。全員がユミルに守られ、大きな怪我はしていないようだ。
 朝露を含む湿った風が砂埃を追い払うと、少しずつ視界は開けてきた。ウトガルド城は巨人との攻防戦に耐え切れず一夜で崩壊した。古城は見る影もなく大量の瓦礫の山が積み上がっているだけ。
「私たち……助かった、の……?」
 ナマエは生きた心地がせず本当に自分の脚で立っているのかも覚束ない。昨日から切迫した状況に曝され続け、十分な睡眠を摂れないまま朝を迎えた。
 背後から厭な音がする。
「そんな、巨人が……!」
 クリスタが小さな悲鳴を上げた。まだ終わっていない。終わるわけがない。巨人は項を削がない限り何度だって再生するのだ。
「おいブス!早くとどめ刺せよ!」
 コニーの呼びかけと同時にユミルは俊敏に駆け出した。ユミルは次々と巨人の項を噛み千切っていくが、遂に巨人たちに捕えられてしまう。瓦礫の山から這い出る巨人は多く、ユミルひとりで対処出来る数ではなかったのだ。
 巨人たちはユミルに群がって手足を千切り、頭や腹に齧りつく。本能のままに肉を貪る様子は、さながら野生の猛獣のようだ。
「ああ……!」
 高温の蒸気が立ち込める中、全員が無言で立ち尽くしている。ナマエは同期が喰われる光景を見て、何も出来ない自身の不甲斐なさを呪った。
 巨人の正体は人間だ。
 目の前でユミルが巨人になり、ようやくナマエは幼い頃の荒唐無稽な自論が輪郭を成していくのを感じたのだ。トロスト区で巨人の項からエレンが出て来た時は半信半疑だった。でもエレンの存在で、巨人の正体は人間の可能性も想定出来るようになった。実際にナマエは女型の巨人を見ていないが理屈は同じはずだ。
 目の前で彼女の欲する答えは喰われている。助けることも真実を知ることも出来ないまま。
「そんな、そんな……!待ってよ、ユミル……まだ、話したいことあるから……っ」
 クリスタは半ば泣き叫びながら脇目も振らずにユミルの元へ駆け出した。
「まだ!私の本当の名前!教えてないでしょ!」
「クリスタ!待って!」
 ナマエは反射的にその背中を追いかけた。体力も気力も限界なのにどこにそんな力が残っているのだろう。瓦礫の山を縫うように駆けて行く。脚が縺れそうになっても構わなかった。いつどこから巨人が襲って――。

 巨人は鮮やかで鮮烈な飛沫を上げて物言わぬまま物陰へ倒れていく。そして聞き慣れた声がした。
「クリスタ、ナマエ。皆も下がって。後は私たちに任せて」
「ミカサ!?」
 地平線の眩い朝日を浴びながら、四方八方から大勢の調査兵団が躍り出る。彼らは自由の翼を翻して一斉に巨人へ襲いかかり項を削いでいく。立体機動装置を自由自在に操り、手慣れた手つきで瞬く間に討伐する。項を削がれた巨人たちは、何が起きたのか理解する前に瓦礫の山へ伏せる。そこには幼い頃のナマエが夢見た、理想の調査兵団の姿があった。
 砂埃塗れの朝の光に舞う鮮血は眩しく、ナマエは目を瞬いた。後方から馬の蹄や掛け声など雑多な騒めきが交差する。
「後続は散開して周囲を警戒!他すべてで巨人が群がっている所を一気に叩け!」
「了解!」
 助かった。ナマエはようやく長い夜が終わった気持ちになった。
「おい!エレン!」
「お前ら、無事だったか!?」
 コニー、ライナー、ベルトルトはエレンの元に駆け寄って無事を報告している。こちらに視線を向けるエレンも、ほっとした様子だった。ウトガルド城に群がった全ての巨人たちは、駆けつけた調査兵団員に討伐された。
 上官たちは熱い蒸気が昇る中、周囲の警戒を続けている。ひときわ大きな瓦礫の山に巨人化を解いたユミルが横たわっていた。傍らにはクリスタが寄り添う。ユミルは腹部を抉られ右の手脚も喰われ、目も当てられないほど酷い有り様だった。
「気休めかもしれないけど……しないよりマシだから」
 まずは出血を止めなければ命に関わる。ナマエは手早くユミルに止血を施していく。見渡す限りだだっ広い草原と樹木が点在するだけで、付近に病院のような建物はない。大した医療器具は持ち合わせていないので止血帯を巻くだけで限界だった。そもそもユミルが普通・・なら、とっくに死んでいた。今も辛うじて息をしているのは巨人化能力のおかげだろう。
 エレン以外にも巨人化可能な人間はいた。
 その事実は全員を驚かせるには十分すぎた。
「ユミル。私の名前……ヒストリアっていうの」
 クリスタもといヒストリアは優しく語りかけるように身の内を明かす。ユミルは満ち足りた表情のまま、ゆっくりと目を閉じた。

 太陽は顔を出したのも束の間、曇天に覆われた空から濡れるほどではない雨がぽつぽつ降り始めた。ひとまず安全を確保するため、一同は壁に登って休むことになった。ナマエは巨大で堅牢な壁に登り、やっと生きた心地を覚えた。人類は偉大な壁によって庇護されているのだ。
 ナマエは周囲の様子を見回す。ちょうどエレンがライナーに手を差し伸べるところだった。たった一晩で四名の上官を失ったが、どうにかナマエたちは生き残った。その前にトロスト区攻防戦と壁外調査も生き延びたのだから、我ながら悪運が強いと思う。
 出来ることなら兵営に戻って眠りたい。けれど未だ壁に空いた穴の位置と規模は不明瞭だし、どこまで巨人の侵攻を許しているのかも分からない。まだ何ひとつ解決してないのだ。やるべきことは山積みだ。
「ところで、ナナバやゲルガーたちの消息を知っている者はいないか?」
「ハンジ分隊長、百四期調査兵のナマエです。四名の上官たちの消息のご報告ですが……昨晩、多くの巨人が襲来し上官たちはガスとブレードが尽きるまで戦い……最期は――」
 ナマエは口端をきつく噛む。何も出来なかった。喰われる様子を眺めていただけだった。あの状況を打破する手立てはあったか問われても、ナマエは答えに窮してしまう。上官たちが死んで四方を巨人の大群に囲まれた時、ユミルの巨人化がなくては生き残れなかった。将来有望な歴戦の上官たちを見殺しにしたも同然なのだ。
「殉職しました」
 ハンジは仲間の結末を静かに聞き、祈るように両目を閉じる。しばらくして目を開けると、既にハンジは明日を見ていた。
「……そうか。ナナバたちは役目を果たし、君たちは生き残った。それを忘れないで」
「はい。それと……一つ不安要素があります。の巨人です」
「さる……?」
 ハンジが不思議そうに首を傾げる。ナマエは多少違和感を覚えたが報告を続けた。
「獣のように毛むくじゃらな巨人です。その巨人が多くの巨人を引き連れて、私たちは夜通し応戦することになったのです」
 長い両手と尖った両耳。獣のように毛むくじゃらの巨体。他の巨人とは一線を画す異様な風体のそれは、ウトガルド城に目もくれず壁の方へのっそり歩いて行った。人間に興味を示さない奇行種かと思ったが、そうではなかった。
「そんな巨人がいたのか!?」
「はい。こちらに向けて岩を投げてきました。あの巨人は明確な殺意を持っていました。物体を投げて人間を殺す行為は知性がないと――」
「君の噂は聞いているよ、ナマエ!会って話してみたかったんだ!」
「あ、あの……!?」
 噂とは何だ。ナマエはハンジの激励に面食らい報告内容を飲み込んでしまった。がっしりと両肩を掴まれ動けない。すると耳元で声がした。
君の自論・・・・は危険だ」
「どうして――」
 ナマエの自論を知っているのだろう。調査兵団に入ってからハンジとは一度も話したことはおろか、巨人について話す機会もなかったのに。壁外調査後に赴いてみようと思っていたが、終ぞその機会はなかったのだ。ナマエはハンジを二度見する。
 この違和感は何だろう。まるで牽制をかけられたような、その先を言わせないような絶対的な意図を感じる。眼鏡の奥から厳しい灯火を宿す瞳に困惑するナマエが映っていた。
「あ……」
 背筋が寒くなる感覚。昨日から疑問に思っていたことが確信に変わった瞬間だった。
 一昨日から立体機動装置の着用が許されぬまま隔離され、昨夜は古城で巨人の大群と籠城戦を強いられた全ての原因は――。考えるまでもない。やはりまだ壁外調査は続いているのだ。ナマエが意図に気づいた時、既にハンジは踵を返していた。
「先にユミルの容態を確認しよう」
「は、はい!」
 ナマエは背中に誰かの視線を感じた。

「ハンジ分隊長、どうか信じて下さい!ユミルは私たちを助けるために、正体を現して巨人と戦いました!自分の命も顧みないその行動が示すのは、我々同志に対する忠誠です!」
 ヒストリアはユミルの有用性を主張する。
 本当にユミルは我々人類の味方なのだろうか。ナマエはヒストリアほどユミルを理解していないので、自信を持って同意は出来なかった。ユミルが正体を現して命懸けで戦った理由は決して壁の世界の存続を願っているわけでもなくて――ナマエは必死に弁明を続ける同期の姿を見る。
「恐らく、それまでは自分の身を案じていたのでしょうが……」
 ユミルは人類にとって重要な情報を秘匿していた。その事実は無視出来ないけど、エレンの巨人化が明らかになった時の中央の対応を見ればやむを得ないかもしれない。ナマエもそう思う。
「しかし彼女は変わりました。ユミルは我々人類の味方です!ユミルをよく知る私に言わせれば、彼女は見た目よりずっと単純なんです!」
「もちろんユミルとは友好的な関係を築きたいよ。これまでがどうであれ、彼女の持つ情報は我々人類の宝だ。仲良くしたい」
 ユミル本人が望むに望まないにしろ調査兵団は保護する方針らしい。調査兵団にとって切り札は多いに越したことはないし、仮にユミルが壁の破壊を目論む諜報員ならば確保したも同然である。巨人化されても逃げられないように拘束して地下深くに幽閉すれば良い。ヒストリアは表裏一体の意味に気づいていないのか、ほっと息を吐き出した。
 ナマエには同じ釜の飯を食べ苦楽を共にしたからと言って、ユミルを信じるかは別だと考えている。多少の情はあれど、穿った物の見方と考え方しか出来なくてほとほと厭になる。
「本名はヒストリア・レイスっていうんだっけ?」
「……はい、そうです」
「レイス家ってあの貴族家の?」
 ヒストリアが気まずそうに頷くも、ハンジは特に何も言わなかった。ただ、改めて彼女を迎え入れただけだ。
「よろしくね。ヒストリア」
「はい……」
 レイス家は絶大な力を持つ貴族ではないが、ウォールシーナ北部の領主である。どうして貴族の娘であるヒストリアは名前を偽り、わざわざ調査兵になったのか。何らかの理由はあるようだけど、ヒストリアが言いたくなさそうだったのでナマエは何も聞かなかった。
 誰だって探られたくない過去の一つ二つはあるから野暮な真似はしない。自分と相手の間に明確な線を引いておけば不用意に巻き込むこともない。
 ナマエは海を見る夢を叶えるために名字を棄て、ミーナに協力してもらって孤児であると話を合わせてもらっていた。ミーナの祖母を通して祖父母と手紙のやり取りは可能だったけど、家を出てから一通も便りは出さなかった。そして解散式の夜にミーナへ初めて夢を語り、希望を抱かせて――翌日彼女はトロスト区攻防戦で巨人に喰われて死んでしまった。きっと深い絶望を感じたはずだ。

 死んだら何も残らない。死者に対して、ああでもないこうでもないと決めるのは生者だとアニに諭された。あれはアニなりの慰めだったのだろう。ナマエは考えても仕方ないと分かってもミーナを振り回したことを後悔している。
 もうあんな思いはしたくない。しっかり線線引きすれば相手を振り回すこともない。ナマエなりの下手くそ・・・・な処世術だ。
「モブリット。ユミルの状態は?」
「依然、昏睡したままです」
 ナマエは傍らで眠るユミルの様子を眺めた。怪我をした箇所から出血は止まっており絶えず蒸気が昇り続けている。巨人の治癒能力と同じ性質のものか、調べてみないと分からない。幸い出血多量は免れたようだが、一向に目覚める様子はなかった。体力の消耗が激しいのか、巨人化の後遺症なのか。巨人化後のエレンも同様の症状になるのかもしれない。懇々と眠り続ける彼女の顔色は、先ほどより良さそうだった。
「とりあえず、トロスト区まで運んでまともな医療を受けてもらわないとね」
「ハンジ分隊長。私もユミルに付き添っても良いでしょうか?巨人化について色々調べたいことがあります」
「ねぇ、ナマエ。ユミルを調べるってこと?」
「うん。巨人化能力者ユミルと巨人の違いを調べたら何か分かるかもしれない」
「ユミルを傷つけないよね?」
「そっ、そんなこと……しないってば!」
 ナマエの悪癖は物事に集中すると周囲が見えなくなってしまう。自覚はあれど、ユミルを傷つけない自信は――ない。ヒストリアから送られる疑いの眼差しが痛い。
「ユミルの件はニファとヒストリアに任せる。このまま壁を伝ってトロスト区に向かってくれ。頼んだよ」
 残念だけどハンジの判断に従うしかない。ナマエに巨人を調べる機会はなかなか巡ってこないらしい。
「さて……ナマエ。我々は穴を塞ぎに来たんだ。巨人発生から今まで、どんな状況だったのか教えて欲しい。情報は多いに越したことはないからね」
 ナマエは記憶を巻き戻しながら順を追って報告する。昨日のことなのに、もう何年も前のように感じた。
「巨人がやって来た方角から一番近い村……ラガコ村に向かいました。コニーの故郷なので。そこには動けない巨人が一匹いました」
「動けない巨人?」
「はい。その巨人は大きな頭と胴体を持ち、四肢が細くて起き上がれないんです。家屋を押し潰すように仰向けになっていました」
 ラガコ村は誰ひとりおらず、ナマエたちは更に馬を進め――壁の間際で西班と合流したのだ。
「既に日は暮れていたので、私たちは古城で休んでいました。その時……」
「巨人の大群が襲来したというわけか」
「はい」
「ありがとう、ナマエ」
 風は壁の上を滑っていく。ハンジはしばらく考えた後、全員に呼びかけた。
「ユミルの件はひとまず後だ。それからコニー。あんたの村には後で調査班を送る手配をするから、今はとにかく壁の修復作戦に集中してくれ。良いね?」
「はい!」
「しかし、現場はもっと巨人だらけだと思っていたんだが……」
 ハンジの言う通り、眼下に巨人の気配はない。だだっ広い野原に点々と生える木々と、かつて古城だった瓦礫の山があるだけ。昨夜の巨人襲撃と打って変わり静かだ。ナマエはだからこそ余計に不安を覚えた。まるで嵐の前の静けさに似ている。

 すると壁の下から、馬が駆けて来る音が聞こえた。穴の位置を知らせに来た駐屯兵団の先遣隊のようだ。
「穴がどこにもない。夜通し探し回ったが、少なくともトロスト区からクロルバ区の間の壁に異常はない」
 一同はハンネスの報告に唖然とした。クロルバ区の兵士とかち合ってここまで引き返し、一度も巨人に出くわさなかったという。昨夜のナマエたちも同じ状況だった。
 不安を煽る厭な風が全員の間を擦り抜けていく。アルミンも戸惑いを隠せない。
「でも……実際に巨人は壁の内部に出てるんだよ」
「昨日、私たちは南方から北上する巨人の大群を目撃しました」
 おもむろに話すナマエに全員が注目する。
「周辺住民に避難を伝えるため馬で駆け回って、壁に空いた穴の位置を特定するため更に南へ向かったけど、穴の位置は分かりませんでした。見逃した可能性も考えたけど、今の報告を聞いて穴は……ないと思います……」
「壁に穴がないのなら仕方ない。一旦、トロスト区で待機しよう」
 ハンジは悩んだ末に判断を下した。塞ぐべき穴がないならここにいても意味はない。緊張の糸は中途半端に緩み、それぞれ拍子抜けてしまう。
「異常ないって何だよ……?」
「エレン。話があるんだが」
「何だよ、ライナー」
「まさか……遂に地下を掘る巨人が現れたんだとしたら大変だ!」
「そうなると、位置を特定するのは相当困難ですね」
「俺たちは五年前、壁を破壊して――」
 幾人もの会話が紐のように絡む中、ナマエはひとり思考の海に深く潜っていく。
 壁に穴が空いた悲惨な状況を二度経験して、今回と何が違うのか考えてみる。過去二回とも巨人は絶えず侵入し、甚大な被害を被ったけど今回は巨人の数が少なすぎると思う。気になる点はラガコ村と猿の巨人だ。知らないところで良からぬことが起きているのではないかと勘繰ってしまう。
「巨人は……人間」
 もうナマエの中では荒唐無稽な子供じみた考えでもなく、しっかり輪郭を成した正真正銘の事実となっている。やはり敵を知るためにユミルとエレンを調べて――。
 風は徐々に強く吹き、分厚い雲を空から追い出そうとする。突風に煽られた旗は音を立てながら呆気なく地上へ吸い込まれて見えなくなった。ちょうど曇天の切れ間から柔らかな太陽光が地上を照らす。一瞬だけ世界から音は消えた。

 その時、背後から緊迫した声が飛び込んできた。
「やるんだな!?今……!ここで!」
「ああ!勝負は今!ここで決める!!」
 ナマエは背後から尋常じゃない雰囲気を感じ取って振り返った。鋭利なブレードは鈍色の煌めきを放ち――周囲に鮮血が舞う。ミカサは一切無駄のない動きでライナーとベルトルトへ斬り込んでいく。
「エレン!!逃げて!!」
 ミカサの鋭い叫び声。ベルトルトの喚き声。ミカサは勢いを殺さず、倒れ込んだベルトルトにブレードを突き刺そうとする。
「え……?な、に……」
 ナマエはひとり呆然とする中、周囲は異変を感じて俊敏に対処しようとしていた。どこかでアルミンの切迫した声がこだまする。
「エレン!!逃げろ!!」
 鮮烈な閃光で視界は白く眩み、ナマエは何が起きたのか分からないまま爆風の中へ無様に放り出された。ユミルは担架と共に吹き荒ぶ爆風に流されていく。
「ユミルッ!」
 ナマエは無我夢中で身体ごと担架に体当たりするように抱き止める。
「何で……っ、こんな所に……!」
 超大型巨人と鎧の巨人。
 五年前、初めて見た時から忘れやしない。二度も襲撃を受けた人類は一度尊厳を失い、最近それを取り戻したばかりだ。全ての元凶はこちらを見下ろしている。堅牢な壁に巨体を張りつけた醜悪な巨人は勢い良く片腕を振り上げ、再び突風が巻き起こった。
 ライナーとベルトルトは大丈夫だろうか。劈く音と閃光はあの二人がいた場所から――。
「まさか――」
「全員、壁から跳べ!!」
 信じられない事実に愕然とするナマエは咄嗟に反応出来なかった。このままではまずいと思った時、既に巨人の大きな手に掴まれて身動き一つ取れない。
「ぐっ、うっ!?」
 強く握り締められ息苦しくて視界は霞む。ナマエは意識を手放す直前、ヒストリアに名前を呼ばれた気がした。
「ユミルとナマエが捕まった!!」

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