少年の好奇心と腹の虫

「君は外の世界を信じているの?」

その日、アルミン・アルレルトは緊張しながらも、意を決して少女――ナマエに声を掛けた。
南方訓練兵団教官のキース・シャーディスによる通過儀礼の時に感じた怯える感覚とも違うし、立体起動装置の適性検査の時に感じた研ぎ澄まされた緊張とも違う。
不安感と高揚感が綯い交ぜされた――形容することが難しい感情だろうか。

壁の外の世界の存在は、この世のどんな美しい宝石よりも輝きを放ち――アルミンの心を鷲掴んで離さなかった。商人が一生かけても取り尽くせない程の大きい塩の湖。焼け付くような暑い炎の水。視界から溢れんばかりの砂で出来た大地。凍てつく氷に張り巡らされた極寒の大地。
どれもこれもアルミンの想像を超える光景だ。
祖父が隠し持っていた禁書は、アルミンが想像したことがない世界のことが記されていた。
そして彼は、外の世界はとても広大だということを知ったのだ。

いつか自分の目で見てみたい。
王政から禁書に指定されている本を、何故祖父が持っていたのかは解らない。祖父だけでなく、アルミンの両親も外の世界に興味を持っていたという。
彼の両親は“気球”という空を飛ぶ乗り物を作り、壁の外へ行こうと試みた。しかし、どこかから情報が漏れたのか――憲兵に勘付かれて飛び立つ寸前にその場で射殺されたという。

当時アルミンはあまりにも幼かったから、両親の記憶が曖昧だ。全て祖父から聞いた話だ。
祖父は目元の皺を深くしながら、“髪は母親、眼は父親に似ている”とアルミンは幼い頃よく言われて育った。今でも鏡で自分を見る度に、遠い記憶の彼方にいる両親の面影を探す。

壁の外に強い興味を持っていた両親の遺伝なのかどうか解らないが――アルミンも外の世界に強い関心を抱く子供に育った。
しかし、壁の中の世界は厳しかった。外の世界の話をすれば、周りの子供達から異端者だと揶揄されて。町のいじめっ子達の標的にされた。
『負けっぱなしで良いのかよ?』
『僕は負けてないよ。僕は逃げてない』
どんなに痛め付けられても、馬鹿にされても。アルミンは自分の考えを曲げなかった。
壁の外の世界について本気で取り合ってくれたのは、同じ町に住むエレン・イェーガーだけ。

異端者だと苛められていた自分に理解を示してくるのはエレンだけでも十分だと思っていたが、自分以外にも外の世界の存在を信じている人間がこの世界にいたなんて。

一週間前。二年間の過酷な開拓地での生活を終えたアルミン、エレン、ミカサは訓練兵団に入団した。
「貴様は何者だ!?」
そこで待っていたのはそれまでの自分を否定される“通過儀礼”という恫喝だった。
キースの腹の奥底から響く怒鳴り声に自分を含めた新兵達はすっかり蒼冷めてしまっていた。左胸に右手の拳を乗せる敬礼ポーズを取りながら、いつ自分の所に教官が来るのか固唾を呑んで窺っている。
怯えている新兵達を鋭い眼光で見渡すキースがアルミンの前で立ち止まり、何度も繰り返された通過儀礼が始まるのだ。
「シガンシナ区出身!アルミン・アルレルトです!」
「アルレルト!貴様は何しにここに来た!?」
「人類の勝利の役に立つためです!」
教官はアルミンの頭を片手で鷲掴みする。
「それは素晴らしいな!貴様は巨人の餌にでもなってもらおう――三列目、後ろを向け!」
こうして鬼教官の恐ろしい通過儀礼は続く。各々が自分達の言葉でここに来た理由をそれぞれ述べるが、彼らの本心は別のところにある。

二年前の惨劇以降、十二歳になっても訓練兵団に入団しない者は腰抜けだという世論が湧き上がっている。憲兵になって内地で安全に過ごしたいだけ。例え憲兵になれなくとも、駐屯兵団に所属すれば食いっぱぐれることはない。

案の定、憲兵団に入って内地で暮らすためと宣言する馬鹿正直な者もいれば、王の側で王のために身を粉にして働くと宣言する者もいた。そう声高に叫んだ少年は本気でそのつもりのようだ。
何故なら、王へ敬意を示していることに嘘偽りを感じなかったし――何より、瞳の輝きが他の子供達と違ったから。
「貴様は何者だ!?」
「ウォールローゼ・カラネス区出身のナマエです!」
キースは恫喝する相手を少女に変えたようだ。
「そうか、ナマエ、貴様は何しにここに来た!」
「壁の外に出るためです!」
「この壁の外には貴様を喰う巨人しかいないのだぞ!」
「外の世界に行くために、ここで巨人殺しの技術を学びに来ました!」
“外の世界”という単語を口にした少女の声にアルミンは自分の耳を疑った。こんな大勢の人間の前で声高に“壁の外に行きたい”と宣言するなんて。
壁の外のことに興味を持つことは王政で禁忌タブー視されているのに。

異端者。
脳裏に過ぎる、異端者呼ばわりされた過去。その痛みはどんなに時間が経とうとも、未だにアルミンの胸をチクチクと刺す。自分と同じように、壁の外の世界を信じている人間に出会ったことがなかった。
だから、ほんの少しの興味が湧き上がったアルミンはその人物を見てみたくなった。

逸る鼓動を抑えて窺うと、彼女は黒髪を一つに三つ編みにしていた。色白な肌に映える涼しそうな黒い瞳がとても印象的だった。見た目は優しそうなのに、瞳には揺るがない何かがある。
彼女はアルミンの視線に気付く様子もなく真っ直ぐ前を見据えていた。
キースは少女の返答に対して、特に何かを言うことはなかった。射抜くような瞳で少女を一瞥した後、恫喝する相手を品定めし始めた。

その後も通過儀礼は続き、心臓を捧げる敬礼が左右逆の者がいた。調理場から蒸した芋をくすねて食べ出した食いしん坊まで出た。食いしん坊の少女は、キースから死ぬ寸前まで走れと命令された時よりも、今晩の夕飯はなしと宣言された時の方が悲壮な顔をしていた。

入団式が終わると、教官達からここでの暮らしについて話を聞いたり、訓練所の内部を案内される。その後兵舎に移動して荷物の手解きをしている内に夕飯の時間になっていた。
空は夕焼けに染まり、長い一日の終わりを知らせる。空を飛んでいる鳥も、自分達の巣に帰るのだろう。
今日は訓練兵初日ということもあって、新しい住居と環境、そして新しい仲間達との出会いにアルミンの心は少しばかり張り詰めていた。兵舎のバルコニーで佇むと漸くホッとすることが出来た。
「オイ、あの芋女まだ走らされてるぞ」
誰かが運動場を指さす。その先を見ると、食いしん坊が未だに走らされていた。足元が覚束ない様子だ。

あんなにピリピリした空気を全く読まずに蒸した芋を頬張る姿は、これから先何があってもアルミンは忘れない。他の子供達もそうに違いない。本名よりも“芋”のイメージが定着してしまった彼女は、まだまだ走らされるのだろう。

「お前さ、壁の外に行きたいのか?」
ふいに、そんな声が聞こえた。
「そうだよ。そのためにここに来たんだもの」
会話の出所を目の端で確認してみると、二人の少年とナマエがいた。
「巨人がうじゃうじゃいる壁の外に出て何するんだよ。外に行きたいなんて自殺願望の人間位だろ」
「……外の世界に行けば何か解るかもしれないから」
「お前、故郷で異端者だって言われなかったか?」

シガンシナ故郷のいじめっ子達と同じ蔑む声音。
「……異端ってそんなに悪いことなの?」
「はぁ?」
「他の人達と考えが違うだけなのに、耳を貸すことも、理解しようともせずただ非難する。そっちの方が頭を使わなくて楽だから。……違う?」
凛とした物言いで言い返すナマエに、少年達は一瞬だけポカンとする。徐々に――ナマエの言葉の意味が解ったようで――顔を真っ赤に変化させた。
「……ッ憲兵に言い付けるぞ!異端者がここにいるってな!」
一人の少年が癇癪を起こしそうになったので、周囲も何事かと視線を投げる。このままでは、喧嘩に発展しかねないと危惧したアルミンが止めに入る前に。
「何してるの、ナマエ!」
「ミーナ……」
ミーナと呼ばれた少女が慌てたようにナマエに駆け寄った。
「初日に問題起こしたら、キース教官に目付けられるでしょ!」
「まだ問題は起こしてない。彼らが喚いてるだけ」
「そうじゃなくて……!さっきみたいに怒鳴られるし、サシャって子と一緒に走らされちゃうよ」
先ほどの入団式を思い出したのか、ミーナが身震いすると少年二人も怯え出す。
「私は構わないけど……」
ナマエがさらりと言った。
「……い、行こうぜ。また教官に怒鳴られるのはごめんだ」
そう言って少年二人は周囲の視線が集中している中、人目を避けるように去って行った。何とか大きな騒ぎにならずに済んだようだ。
「アルミン……、おい、アルミン!」
「あ、ああ……。どうしたの、エレン?」
エレンの声が聞こえたのでアルミンは生返事をする。
「さっきから名前呼んでんのに全然反応しないしよ。一体どうしたんだ?」
目の前にいるエレンが心配そうにアルミンの顔を覗き込む。
「ううん、何でもないよ」
「なら良いけど。そろそろ食堂行こうぜ。腹減った」

徐々に空が暗くなって行く中、二人は肩を並べて食堂へ向かって歩く。
「それにしても、さっきのアイツ。変なヤツだったな」
エレンが言う“アイツ”とは、きっとナマエのことだ。アルミンは何て答えて良いか解らなかったから、簡単な相槌だけ打つ。
初日の夕飯に配給されたパンと具の少ないスープは、開拓地で食べていたものより味がした。色んな意味で印象深い一日が終わった。

入団からあっという間に一週間が経った頃、漸くここでの生活に慣れて来た。アルミンはエレンとミカサ以外の同期達とも話しをするようになった。同室のライナーとベルトルトとは故郷を追われた者同士という共通点が判明した。
エレンは考え方の不一致でジャンと衝突することが多くなったし、ミカサのエレンに対する過保護っぷりも以前に比べて増した。エレンはとても迷惑そうに顔を歪めている。

本日最後の講義が終わると、意を決してアルミンはナマエに話し掛けた。きょとんとした顔でこちらを見返して来る彼女とミーナを見て少しだけ後悔した。
話し掛けるにしても尋き方が不味かったかもしれない。何もいきなり、“外の世界を信じているか”と切り出されたら何て返して良いか解らないだろう。
「あ、えっと――」
言葉に詰まってしまい、アルミンは気まずい気持ちになった。
「ごめん、ミーナ。先に食堂に行ってて。後で合流するね」
もごもごしているアルミンに、ナマエがどうやら何かを感じ取ったらしい。
「うん、解った。でも早く来ないとサシャにご飯食べられちゃうよ」
「私の分の夕飯取っておいてよ?」
「うーん、気が向いたらね?」
そう言って戯けたミーナも、他の同期達と一緒に講義室を後にする。事前にエレンとミカサには、先に食堂へ行ってくれと伝えておいたから、講義室はアルミンとナマエだけになり静かだった。
先程までの喧騒が嘘のようだ。

「アルミン、だっけ。エレンとミカサの幼馴染だよね?」
ナマエの黒い瞳がアルミンへ注がれる。
「ごめん、急にあんなこと聞いて……ビックリしたよね。でもどうしてもナマエに聞きたくて」
気まずい心境のアルミンだが、ナマエは特に気にしていないようだ。どうやって話を繋げようかとアルミンは頭の中で思案する。
「外の世界に興味を持つことっていけないことなのかな」

ナマエがぽつりと呟いた。
「え?あ、いや……いけないことではないと思うよ。僕も――君と同じように壁の外の世界を見たいと思っているから」
「……そうなの?」
ナマエが驚いたように目を丸くした。
「つい先週、他の子に初めて異端者呼ばわりされたから私と同じ人がここにいるなんてびっくりした。大半が外の世界に興味なんて持ってないから」
そう言う彼女の様子は、“異端者”と言われたことにあまり傷付いているように見えない。
最初から自分自身の存在が異端であると認めているかのようだった。

「集団を一つの思想に染め上げれば統治しやすいからさ。暗示に掛かりやすくなるんだよ。“壁の中は安全だ”と教えられ、“外の世界に興味を持つ人間ははみ出し者”だと教えられる内に、外の世界について考えさせなくするんだ。“壁の中の安全”を脅かす人間がいればそれを排除しようする。
はみ出し者を公開処刑すれば、集団に対して良い・・見せしめになる。それも、とても残忍で残酷な方法であればある程民衆は――」
目の前にはポカンとしたら顔をしたナマエがアルミンを見つめていた。沈黙の空気が痛い。
「大きな力を発揮する反面、一度タガが外れると暴行事件やトラブルに発展する可能性もあるから、集団って怖いよね」

アルミンが更に気まずい気持ちになって戯けたように言うと、ころころとナマエが軽く笑う。
「アルミンって大人しい印象だったけど、本当は結構喋るんだね。親近感湧いたよ。集団心理にも詳しいなんてすごいなぁ」
姑息で陰湿な手段ばかり考えていると、エレンに言われたことがある。シガンシナ区のいじめっ子達をあの手この手で返討ちすることを考えたことはあるが、実際に行動へ移そうと思ったことは一度もない。

元々読書は好きで色んな本を読んでいるが、集団心理学の造詣に深い訳ではなくてうっかり素の自分が出てしまっただけ。
「えっと、どうもありがとう……?」
ただ、褒められて悪い気はしなかった。
「ところで……君は外の世界の存在を――海を信じているのかい?」
「うん。内地から延びている運河は、この街を通って海に向かって流れているんだと思うよ。水は高い所から低い所に流れるから、外に行けば行く程土地は低いんだろうね」
「何だか見たことがあるような口振りだね」
ナマエの静かな黒い瞳が、一瞬だけ熱く燃えるような熱意が宿った。手を顔の前に組み、意味深に問われる。
「……だとしたらどうする?」
「え?」
アルミンの蒼い瞳とナマエの黒い瞳の視線がぶつかった。目の前にいる彼女が小首を傾げる。口角を緩く上げて柔和に微笑みながら。

エレンや他の同期生にはない、少しばかりの大人っぽさと近寄り難い雰囲気を持つ女。色白な肌に映える、濁りが微塵もない黒い瞳を見ても。
外見とは裏腹に、ミーナと話している姿を見ると年相応に笑ったりするから。アルミンはナマエがどんな意図を持って――何を考えているのか余計解らなくなった。暫くお互いが無言で見つめ合った後。
「それ、本気で言ってるの?それとも僕のことを揶揄ってるのかい?」
「ううん、揶揄ってないよ。前に、地形と水の流れについて書かれた本で読んだことがあったから。アルミンも海の存在を信じているんでしょう?」
「何だ、そういうことだったんだ。ビックリしたよ」

本当に海を見たことがあるなら、一大事だ。
「子供の頃ね、外の世界に行きたいって話を駐屯兵のおじさん達にしたんだけど、聞かなかったことにしておくって言われちゃったの」
「ご両親には話したことはないの?」
「……私、親に会ったことなくてさ」
ナマエが眉根を下げて困ったように笑う。まるで親からはぐれてしまった子供のようだった。

「……ごめん。無神経なこと聞いて」
アルミンは自分の配慮のなさにちょっとだけ後悔する。彼女にファミリーネームがない理由に触れたのだろう。だけど、目の前の少女は気分を害した雰囲気は微塵もなかった。
「でも一人だけ、私の話を最後まで聞いてくれた人がいたんだ」
「その人は誰だったの?」
「イェーガー先生。私が住んでいた街にも時々診療に来てくれたんだ。いつも来る度に巨人の生態の本や天気の本とか、偉人の伝記とか色々持って来てくれたよ」
「イェーガー先生はエレンのお父さんだよ」
アルミンがそう言うと、ナマエも頷いた。
「“エレン・イェーガー”って名前を聞いた時から、もしかしてって思ったの。だからこの間エレンに思い切って尋いてみたんだけど……あの惨劇以降、行方不明なの?」

あの惨劇とは、アルミン達の故郷を襲った巨人の襲来のことだ。あの日から全てが狂ってしまった。エレンの蜂蜜色の瞳には、今でも憎悪の炎が燻っている。
「……うん、そうらしい。僕も詳しくないけど」
「とにかく、誰に話しても信じて貰えない馬鹿げた話だって、先生だけは熱心に聞いてくれて嬉しかった」
「そうだったんだ……」
一瞬、二人を包む空気が重くなったのをアルミンは感じた。誰にも言えない辛さと、誰かに話を聞いてもらえる嬉しさをアルミンは知っている。馬鹿げた話だとナマエは言ったが、その馬鹿げた話自体を疑っている様子は微塵もないように見えた。

彼女も同じだと、アルミンは思った。隣には必ずエレンとミカサがいたから独りじゃなかった。彼らが側に居てくれたから、アルミンは今訓練兵団ここにいるのだ。
「アルミンはどうして海が見たいの?」
ナマエは不思議そうにアルミンを見て首を傾げた。
「想像することが出来ない景色だからだよ。いつか巨人がいなくなった時、僕はエレンと壁から外に出て、色んな景色を見に行こうって約束しているんだ。子供の頃、外の世界に興味を持つだけで異端者だなんて後ろ指さされたりしたし――」
そこで一旦アルミンは言葉を切った。
周りの子供達から苛められていた過去を思い出して少し苦しくなった。
「――嬉しかったんだ。入団式で君も“外の世界に行く”っていう言葉を聞いて、もしかしたら想像じゃなくて本当に、海も炎の水も氷の大地も砂の雪原も僕達の知らない場所にあるんじゃないかって」
「そっか……。多分ね、私とアルミンは見たい世界が同じようで実は違うと思うんだ。でも、私もこの壁の中の世界が全てじゃないと思ってるよ。自分の目で確認するために、外の世界を目指すんだ。だから、明日も訓練頑張ろうね」
「うん、そうだね……」

“見たい世界が同じようで違う”とは一体どういうことだろう。とても抽象的過ぎて具体的に想像が出来ない。しかし、ナマエはそれ以上詳しく言うつもりもないらしい。

アルミンの腹の虫が鳴った。
何というタイミングで鳴ってしまったのか。ナマエは技巧術のノートを静かに閉じて椅子から立ち上がった。お話はこれで終わりらしい。彼女の“見たい世界”について聞きそびれてしまったことが心残りである。
「随分長く話してたんだね。お腹も空いたしそろそろ食堂に行こう。エレンとミカサが待っていると思うよ。それに、サシャが私の分を食べてしまってるかもしれない」

二人肩を並べ、静かな廊下を歩いて食堂へ向かう。
「今日は何のスープかな?」
「いつもと同じスープじゃないかな」
取り留めのないナマエの問いにアルミンは答えた。開拓地で食べたスープより少しだけコンソメ味がするスープ。具材は芋と玉葱だろう。貴重品である肉はここ数年口にしていない。
「それじゃあアルミン。また明日ね」
「うん、今日はありがとう」
騒めく食堂に入るとナマエはミーナの元へ、アルミンはエレンとミカサの元へ向かった。

「ただいま」
「アルミンの分取っておいた」
「ありがとう、ミカサ」
コンソメの香りが鼻孔を掠めた。パンを千切って口に入れる。
「遅かったな。何話してたんだよ?」
「色々だよ。ナマエって近寄り難い雰囲気だけど、不思議な女の子だね」
「ふぅん。そうか?普通だろ?」
エレンが興味なさそうに呟いた。

向こうの席からサシャとナマエが騒いでいる。
「戻って来るのが遅かったので、私が代わりにパンを食べておきましたよ」
「酷いよ、サシャ」
「ごめんね、ナマエ。パンだけ死守出来なくて」
サシャと騒いでいる彼女を見ると、確かに普通の女の子かもしれない。

また明日も厳しい訓練が続く。いつか見る外の世界のために、今はしっかりと食事と睡眠を取って自分が出来ることを精一杯やらなければと、アルミンはそう思った


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