挙式協力

「さてさて何か事件はー…?」

街中のオープンテラスでコーヒーを啜りながら新聞を眺めているのは、笑顔商会のムードメーカー、天野遊。

「まーた食い逃げかよ…こいつマジ食い意地張りすぎだろw」

そう呟いてばさりとテーブルの上に新聞を投げた遊がコーヒーカップを持ち上げたその時、机に無造作に置いてあった携帯がけたたましく着信を告げる。

「はいはーい、こちら遊ちゃんでーす」

『そんな事は言わんでもわかっている。仕事だ』

「うっはwww辛辣www内容は?」

『丘の上の挙式会場からの要請で、祝福の鐘を鳴らして欲しいらしい』

仙蔵からの言葉を聞いて、遊はコーヒーを噴き出しそうになる。

「なんぞそれwww神父さんの格好でもして鐘鳴らすんスか?」

冗談交じりにそう返せば、電話口から明らかに機嫌を損ねた嘲笑が聞こえて遊はしまったと額を押さえた。

『だったら簡単なんだがな。何でも鐘を鳴らす装置が壊れてにっちもさっちも行かないそうだ。だから遊、お前ちょっと行って自慢の二丁拳銃で鐘撃ってこい』

仙蔵の“ちょっとアンパン買ってこい”的なノリで飛び出した依頼内容に、遊はコーヒーカップを危うく落とすところだった。

「はぁぁぁ!!?ちょ、どっから撃てっつーの!!結婚式ってめっちゃ人いるんでしょ!?さすがにそんな中で堂々とブッ放せねーよwww」

『教会のある丘は幸い木が密集しているだろう?そこに隠れてやってこい。以上』

まるで他人事のように用件だけを伝えた電話は無情にもそこでブチリと切れ、待機画面に戻った携帯をのろのろと机に置いた遊はカップをソーサーに乱暴に叩き付けると、机の上にコーヒー代を放り投げて大慌てで教会へと駆け出した。
心の中で仙蔵への文句をありったけ叫びながら。




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おめでとう、おめでとうと祝福の声の中、バージンロードを歩く美しい新婦と里芋みたいな顔をした照れ笑いの新郎。
双眼鏡越しに幸せそうなその光景を眺めていた遊は、言われた通り教会の丘にある木に登り、腰にある拳銃を一丁手に取る。

「あの司令塔マジ無茶苦茶言うwwwこの距離を拳銃てwwwライフルとか用意しろっつーのwwwしかも鐘が小っっっせぇぇぇwww」

視界は良好。しかし風はやや強めで、しかも狙いの鐘は大層小振りでおまけに新郎新婦の頭上すぐ上。一歩間違えば大惨事を招きかねない状況に頭を抱えたい衝動に駆られるが、その間も結婚式の進行は止まらない。

「だーもーwwwやるしかねぇぇぇぇwwwどーか人には当たりませんよーに!!」

不吉なお願いを口にして、遊はサングラスを取り去った。息を止め、狙いを定め、引き金を引く。
パン、と軽い発砲音のあとすぐさま双眼鏡を覗けば、放たれた弾は突如吹いた突風に煽られ小さな鐘をすり抜け、教会の壁にめり込んだ。

「あばばばばwwwあわや大惨事www」

しかし幸いなことに、突風のお陰で参列者にも気付かれていないようだ。額の汗を拭い、よっしゃもう一発、と気合を入れ直した遊がしっかりと狙いを定め、木の枝に体を預け、引き金に指をかけたその時、みしっ、と嫌な音を奏でた枝が躊躇も何もなくバキリと折れ、彼女の体が宙に放り出される。

「おうわっ!!!?」

驚いた遊が気を取られた瞬間、指は勝手に引き金を引き、軽い発砲音。
狙いもクソもないそれに真っ青になった彼女が地面に叩きつけられた瞬間、キャーという声が教会から聞こえた。
やっちまったかと慌てて双眼鏡を覗いた彼女…だが、耳に届いた澄んだ鐘の音と、見えた誓いのキスでホッと胸を撫で下ろす。

「け、結果オーライ………私の弾丸は幸せを運ぶぜ!!」

双眼鏡を覗いたままびっと決めポーズをした遊は、強かに打ちつけた尻を摩りながら教会を後にした。



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一方その頃、エデンシティにあるもうひとつの何でも屋のリーダー鉢屋三郎は、小耳に挟んだ情報に面白くなさそうに眉を顰めていた。

「…なんで【笑顔商会】に要請があって、うちには要請がないんだと思う?」

「お前のやる気がねーからだろ?」

得意武器のナイフをくるくると回しながら呟いた三郎に、何やら大きな袋を担いだ留三郎が呆れた顔を向ける。

「あと俺たちって結構ヒール(悪役)寄りだからじゃないかなぁ?」

留三郎が担いでいる袋と同じものに寄りかかった勘右衛門が続くようにそう言えば、三郎はますます面白くなさそうに顔を顰めた。

「ヒール寄りって…そこはだって、悪いの私たちじゃないだろ。“これ”だって、ほら、仕方なく…」

唇を突き出して呟いた三郎。しかし彼の言葉は途中で可愛らしい悲鳴に掻き消される。

「きゃあ!!見て見て、これ欲しかったのよねぇ!!」

厳重に飾られている豪華絢爛な冠を戸惑うことなく手に取り、それをかぶってくるくると上機嫌に踊る美女。ボディラインもあらわな黒いスーツの上に丈の短い紫のジャケットを羽織った美女はあろうことか袋に寄りかかっている勘右衛門の顔やら頭をバシバシと引っ叩いた。

「ねーぇ、これ欲しいのぉ。ねぇ勘ちゃぁん、これもぉ」

「痛っ、痛いよ澄姫ちゃん、えへへ、もう、しょうがないなぁ。わかったわかった、それも貰っていこ。ほら、俺が持ってあげるからここに入れて?」

「やったぁ。うふふ、勘ちゃんって優しいからダイスキよ」

「あーあ、また始まったぞ。澄姫の我侭…」

「まあ増長させてるのは間違いなく私たちですねわかってます」

澄姫に抱き付かれてでれでれとだらしなく喜んでいる勘右衛門を見て、留三郎と三郎は遠い目をする。
そんな彼らの耳を劈いた、けたたましい警報音。

「お、ちょっとゆっくりし過ぎたらしい。そろそろ行こう」

「行くのは良いが三郎、お前もこれ持て!!さすがに重てぇ!!」

「あはっ、これじゃ俺たち何でも屋っていうよりただの強盗だよね」

「だってキラキラした宝石とか金貨ってゾクゾクしちゃうんだもの」

ゴツイ四駆にぎっしりと宝石や金貨がつまった袋を乗せて、博物館を飛び出したのはもうひとつの何でも屋【Funny Family】。
何でも屋を名乗ってはいるが、どちらかと言えばギャング丸出しの彼らは貪欲な美女、平澄姫が欲しがるものを今日も奪い去る。
例えそれが金貨だろうが宝石だろうが歴史的価値のあるものだろうが、戦車だろうが戦闘機だろうが、そんなことはお構いなし。
彼女が欲しいと言ったが最後、手に入るまで暴れまわる彼女を諌める術を知らない彼らは従うしかない。
厳重な包囲網を敷く警官隊をぶっ飛ばし、パトカーを乗り越えて走り去る四駆とそのすぐ後ろを追走するバイク。報道陣に笑顔で手を振る澄姫をミラー越しに眺めながら、彼女を背中にくっつけてバイクを運転している三郎は楽しそうに唇を歪めた。


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