お上の悪事!!悪い奴等は許しませんぞ!!(後)
さて、そんな獣たちが闘志を燃やしているとは露知らず、町で一番大きなお屋敷に住む尾浜勘右衛門という代官様は、お屋敷の奥座敷の締め切った部屋の中に1人の男を招いて何やらニヤニヤと笑っていた。
「ふふふ、約束のものは持ってきたのであろうな?越後屋の竹谷よ」
「おほー。当然でございます、お代官様」
竹谷と呼ばれた男もまた同じようにニヤニヤと笑って、代官の前にすっと箱を差し出した。
パカリと蓋を開けると、そこには綺麗に並んだ美しい練り切り。一目見ただけで芸術品のようなそれ…しかし尾浜勘右衛門は何故か眉を顰める。
「…ハチ違うよ、これじゃない。いやお菓子好きだけどさ、悪代官と越後屋の密会って言ったらお菓子はお菓子でも黄金色のお菓子でしょ?練り切り貰って『これじゃこれじゃ、おぬしも悪よのう』とか言ったら何か格好悪いじゃん」
「おほー、待て待て勘右衛門。俺だってちゃんと考えてるって!!ちょっとその底板持ち上げてみろ」
機嫌を損ねてしまった尾浜勘右衛門が唇を突き出して文句を言えば、竹谷八左ヱ門は自信たっぷりに笑って練り切りの下に敷いてある板を指差した。
言われた通り勘右衛門が練り切りをどかして板を持ち上げてみると、締め切って暗いはずの部屋に一筋の眩い光が漏れ出す。
「…あっは!!ハチってばさすが!!」
「だろ?」
底板を持ち上げたそこには、なんと大量の小判がこれでもかというくらい敷き詰められていた。光り輝くそれを見て、勘右衛門の顔に笑みが広がる。
「これこれ!!やっぱこれじゃないとねー!!ふっふっふ、越後屋、おぬしも悪よのう!!」
「いえいえお代官様こそ…これで、どうぞよしなに」
ふふふふ、と怪しく笑う代官と越後屋。なにがよしなになのかはよくわからないが、悪巧みをしていることは雰囲気からして間違いない。
その光景を天井裏に潜んで見ていた長次と三葉は真剣な顔を見合わせて、小平太に報告すべくコソコソと撤退を開始した………のだが、突如聞こえた轟音に飛び上がった。
「なっ、何事!?」
もうもうと上がる土埃、飛んでいった扉、そして部屋に差し込んだ光の中に浮かび上がるシルエットに目を丸くした勘右衛門が八左ヱ門と共に咽ながら叫べば、シルエットの中心人物が大きな声で答える。
「お前らの考えなどお見通しだ!!」
そしてやっとおさまってきた土埃の中から、山吹色の着物が顔を覗かせた。
「ちょっwご隠居もう何か色々違うwそれは某大泥棒三世を追っかけてるとっつぁんが言うヤツwww」
「あれ?そうだっけ?私なんて言えばいいの?」
「ひかえおろーう!!」
「バカタレィ!!この紋所がm」
「待てw待てw留さんひかえおろうが早いwww文さんもそれはまだあーとーでwwwまだ隠しとかないと尺が余るっつーにwww」
色々と自由奔放な3人を諌め、宥め、なんとか軌道修正を図る遊。納得いかなそうな顔をしながら何とか従ってくれた3人に安堵の息を吐いた遊だが、イケナイ取引現場を見られてしまった勘右衛門と八左ヱ門は大慌てで声を張り上げた。
「ああああとんでもない曲者だあああ!!皆のもの、であえ、であえー!!頼むからであってー!!」
「ひえええ!!よりによってこの人かよ!!世直しじゃなくて世界制覇の旅じゃねーか!!」
今にも泣きそうな顔で家来を呼ぶ勘右衛門と、顔を覆って嘆く八左ヱ門。大勢の家来が出てくるのかと右往左往しだす遊…しかし、いつまでたっても家来は誰一人として現れない。
「…なんで?」
愕然として呟いた勘右衛門。その背後に、大きな影が音もなく舞い降りた。
「……家来は皆…取り込み中、だ…」
からりとまわる風車を片手に降りてきた長次が静かに呟けば、八左ヱ門が目を点にする。
「と、取り込み中、ですか?一体何に…」
「…門の前で…迷子を装った三葉が…気を引いている…」
「幼女っょぃ\(;∀;)/」
応援が来ないとわかった勘右衛門と八左ヱ門はへなへなと力なくその場にへたり込む。しかしそんなことは関係ないとばかりにゴキゴキと手を鳴らした小平太は、手負いの獣のように目を光らせて彼らの前に歩を進めて、にぃと口角を吊り上げた。
「お前らの悪事、見過ごすわけにはいかん!!」
そう言って豪腕を振り上げた彼に、勘右衛門と八左ヱ門は断末魔の悲鳴を轟かせた。
「ひ、ひかえおろ…」
「留さんwwwもう控えるどころか彼ら満身創痍ですwww」
「も、紋所…」
「ブッハwww文さんもう無理だってwww見えないってwww」
見せ場を取られて悲しそうにしている留三郎と文次郎をひとしきり笑った遊は遠慮なく正義の鉄槌を下している小平太を眺めながら、これにて一件落着と満足げに呟いた。
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全ての悪事を白状しますと泣きながら命乞いをした勘右衛門と八左ヱ門により、明るみになった悪事。
自分の地位向上の為に民から金を搾り取った代官尾浜勘右衛門と、それに便乗した越後屋竹谷八左ヱ門はお縄となり、苦しんでいた住民は諸手を挙げて喜んだ。
大層悩んでいた食事処の主人も愛娘…と彼らが思い込んでいた宝物のサチコとユリコが手元に戻ってきて大喜び。
民の喜ぶ顔を見て満足そうに町を出た暴君御一行は、まだまだいるであろうか弱き人々の涙を笑顔に変えるため、今日も旅を続けるのだ。
「……あり?そういえば三葉は?」
「……あ…」
「コラお庭番wwwちゃんと迎えに行ってやってよwww」
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