お上の悪事!!悪い奴等は許しませんぞ!!(前)
とある平和な時代。
平和と言っても戦争とかがないだけで、光があれば影がある…コソコソと悪いことをする奴は、どの世界にもいるわけで。
のどかな町の外れでばさりと新聞を広げた若い男は、今日も今日とて一面記事を飾るお偉い方々の暴かれた悪事に目を通して眉を顰めた。
「またか!!まったく偉い奴は金、金、金、金と!!」
そう叫ぶなり彼は新聞をぐしゃりと握り潰す。
「情けない!!守るべき民をいじめる奴はこの私が懲らしめてやる!!」
人知れず虐げられ、苦しみを心の中に抱くか弱き民を救うためにと立ち上がった。
「世のため人のため、この七松小平太、世直しの旅に出るぞ!!
…暇だしな!!」
強く拳を握り締め、正義(?)を心に秘めた男の名は七松小平太。彼はかの有名なご隠居様のような山吹色の衣装を身に纏うと、お付きの者を従えて世直しの旅に出発することにした。
「留さん、文さん、お庭番の長次と三葉…ついでに遊もついてこい!!いけいけどんどんで世直しするぞ!!」
「「なんでだよ」」
「ついでって失礼すぎるwwwまあ面白そうだから行きますけどwww」
「ほわぁ…世直しの旅ですかぁ…がんばりまぁす」
「………面倒、臭い…」
…色々な意見が出たが、全国津々浦々、諸国をうろつき悪い奴を退治してまわる、そんな暴君御一行の物語。
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いけいけどんどんで納豆王国を出発した暴君御一行は、山を越え、町を進み、ひとつの大きな町に到着した。
結構栄えているのか賑やかな町並みを見てテンションが上がった小平太が食事処にすっ飛んでいったのを尻目に見た遊は、ぜえぜえと荒い呼吸を何とか整えながら地面にへたり込む。
「ちょっ…待…、ゲッホ、ゴホゴホッ!!」
ろくに喋れない、まさに疲労困憊といった具合の彼女に、文さんが冷たい視線と言葉を投げてよこす。
「情けないぞ天野、この程度でへばるとは!!鍛錬が足りとらん!!」
「鍛錬馬鹿と一緒にしないでくださいwww常人に『超人についていけ』とか無茶にも限度があんでしょーがwww殺す気かwww殺す気なのかwww」
「甘えたことを言うな。お前よりも小柄な三葉を見ろ、お庭番だけあって息も乱れとらんぞ?」
スパルタな文さんの言葉に噛み付いた遊が何とか息を整え食って掛かると、心外だとばかりに眉間に皺を寄せた文さんはワクワクしながら町を見回している三葉をびっと指差した。確かに彼女は疲れてすらいないようだが…
「そりゃアンタたちが代わる代わるにおんぶしてたら息切れるはずねーだろーよ!!」
地面に拳を叩き付けた遊が怒鳴れば、文さんと留さんの視線が泳ぐ。
「…いや、その…それはだな…」
「三葉はほら…まだ小さいしな…」
「まだ小さいてwwwあの子私と同い年ですけどwwwやっぱ見た目か!?みんな大好き幼女だからか!?この非国民めぇぇ!!!」
零れた言い訳に笑ってんだか泣いてんだかわからないが、とにかく大きな声で喚き始めた遊。
町行く人々の視線が集まり始めてしまい恥ずかしくなった文さんと留さんは顔を顰めて大きな溜息を吐くと、遊の腕を掴んで無理矢理立たせた。
「わかったわかった、俺が悪かったから黙れ」
「そんな泣くなって。今度からはお前が疲れたらおん…ぶはちょっと嫌だから、引っ張ってやるよ………足に縄括りつけて」
「それどんな極刑www」
留さんの言葉に噴き出した遊を引き摺りながら、小平太が飛び込んだ食事処に向かう文さん。そんな賑やかしい3人を黙って見ていた長次は、まだあちこちに興味を引かれている三葉の小さな頭をぽんぽんと撫でて小さな声で呟いた。
「……私たちも…いくぞ…」
「えへへー…はぁい」
小さい手を引いて食事処に向かうその姿はどこからどう見ても親子。
人々の和みの視線を背中に受けながら2人が食事処の暖簾をくぐれば、そこには賑やかしい光景が…広がっては、いなかった。
賑わった通りとは真逆に閑古鳥すら鳴きそうな店内。がらんとしたそこにはしょぼくれた店主の姿のみ。
違和感を感じた長次と三葉が小平太たちの席に腰を下ろせば、机の上には大喰らいの小平太からは想像も出来ない質素な注文数。
「……遠慮、したのか?」
「ちがう」
「………体調でも、悪いのか?」
「ちがう」
小さな声の質問に静かに首を振った小平太が、その瞳を苛烈に煌かせる。その意図を正確に汲み取った遊がかたりと静かに立ち上がり、厨房の奥で肩を落としている店主に明るく声を掛けた。
「ごちそーさーん!!ご飯めっちゃうまかったよー!!」
びくりと肩を跳ねさせた店主はがばりと顔を上げた後、申し訳なさそうに笑って彼女の元にゆっくりと歩いてきた。
「…いや、満足な食事も提供できずに申し訳ない。ご覧の通りここ暫く閑古鳥が鳴いていてね、仕入れもろくにできないんだ」
「へぇ、そりゃ大変だねぇ…通りは結構賑わってるようだけど、近所に同業者でも出たんかい?」
「それならまだ、よかったんだけどなぁ…」
遊の言葉に眉を下げた店主は、色素の薄い前髪をくしゃりと掻き上げて項垂れる。そして声を潜め、実は、と重たい口を開きぽつぽつと語り始めた。
「…1年くらい前かな、ここいら一体の家賃が突然上がり始めてね…ここいらは竹谷って越後屋の土地なんだけど、大通りに面しているから町や旅人のためにって私たち飲食店に安く貸してくれてたんだよ。それが突然、本当に突然、目玉が飛び出るくらいの値段に跳ね上がって…私の大切なサチコやユリコたちも出稼ぎに出てくれているんだが、それでも到底払えなくて…」
「なんでまた突然値上がり?」
「さぁ…でも私たちも黙ってるだけじゃなくて、越後屋に直訴したり代官の尾浜様に直訴状を書いたりしたんだ…だけど、それもばっさり…もうどうしたらいいか…このままだと、私の大切なサチコやユリコが売り飛ばされてしまう…!!」
相当思い悩んでいたのか、話の途中で泣き崩れてしまった店主は悲しそうな声で何度もサチコ、ユリコ、と繰り返す。
話を聞く限り、娘が売り飛ばされるなど穏やかではない。
これは何かあるな、と直感で感じた小平太は視線だけで長次と三葉に調査指示を出す。それにこくりと頷き、揃って店を出て行った2人を見送ってから、小平太は泣き崩れている店主の肩をばんと叩いた。
「いっだァ!!!」
「私に任せておけ!!」
「いや任せてって、アダダダ、肩が…!!!」
クソ力で肩を叩かれた店主は先程とは違う意味で涙を溜めているが、暴君にそんなコトは関係ない。
早速悪い奴を見つけたと嬉しそうに…否、獲物を見つけた肉食獣のように笑い、ぼきりぼきりと指を鳴らす。
「あばばばwww暴君が覚醒モードになっとるwwwちょっと、文さん留さん止めなされやwww」
店内に蔓延した殺気に慄きながらも何とか止めようとした遊がお供2人にそう言うも、直後彼女は白目を剥いて/(^q^)\オワタ…と呟いた。
何故なら小平太の左右を固める文次郎と留三郎も、血に飢えた獣のようなぎらついた瞳で武器を手にしていたから。
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