そういう訳で七人隊と名前は女達が勤める宿に泊まることになったのだが。
『う゛ー!』
食事が出された頃から名前はずっと蛮骨を睨みつけている。
というのも……、
「キャー、蛮骨さまー!」
「ははっ、楽しーなー!」
蛮骨は大勢の芸子に囲まれて楽しそうに酒を飲んでいる。酔っ払い、上機嫌だ。
『なによ!デレデレしちゃって…』
先程の髪飾りのこともあって一日不機嫌だった名前も酒が進む。
隣でそんな名前の様子を見ていた煉骨は呆れ顔で酒を取り上げた。
『あー、返してー!』
「ただでさえお前は酒飲めねぇんだから…」
『う゛ー…』
煉骨に指摘されて名前は何も反論できなかった。
「おーい!」
振り向くと当の本人は酒で顔を真っ赤に染めてこちらに手を振っている。
『ったく人の気も知らないで…』
「名前もこっち来いよー!」
『はぁ!?』
よくこんな状況でそんなこと言えるな。
いっそ無視してやろうかとも思ったが、酔って左右にふらつく蛮骨を放ってはおけなかった。
『あたしって甘いかな…』
そう思いながらも仕方なく蛮骨を介抱しようと立ちあがった。
だがその時、蛮骨の周りにいた芸子達が一斉にこっちを振り向いた。
『え…』
鋭い目で名前を睨みつけている。まるで『来るな』『邪魔するな』とでも言っているかのように……。
そんな風に睨みつけられて名前はその場で固まってしまった。
何か、ここ嫌だ。気分悪い…。
名前は蛮骨のもとに寄らずにそのまま逃げるように部屋から出た。
『はぁ……』
閉めた襖に寄りかかると同時に深いため息をつく。
バカみたい、何気にしてんだろ…。
でも沢山の女に囲まれて楽しそうにしている蛮骨を見たら、なんだか胸の奥深くが痛くなる。
とにかく今は部屋には戻りたくない。外に出て少し落ち着こう。
そう思い視線をあげるとその先には宿に来ないかと誘ってきた女三人がいた。あろうことか鉢合わせのような形になってしまう。
『あ…』
「あら、どうかなさったの?」
『あの、ちょっと気分が悪くて…』
「まぁそれは大変!お仲間にお知らせしなきゃ!」
『え、いえ…ちょっと酔っただけで。ちょっと外出てきます』
部屋に入ろうとする女を慌てて止め、そそくさと隣を通り過ぎようとした。
とにかく今は早く一人になりたかったから…。
しかし…、
ドン!!
大きな音とともに名前の動きが止まる。
女の一人が壁に手をついて名前の行く手を阻んでいたのだ。
あまりにも突然のことに目を丸める名前を残りの二人が取り囲んだ。
「せっかく心配してるのにそれはないんじゃなくて?」
『え…』
「アンタ蛮骨様の何?いつも隣にくっついてまわってるけど…」
『そ…それは……』
女達はもの凄い剣幕で睨んでくる。名前は剣幕に圧倒されて何も言えなかった。
それをいいことに女はさらに名前の体を壁に押し付ける。
「アンタ目障りなのよ」
『――っ…』
「蛮骨様は私達のものなんだから」
女は名前に顔を近づけて怪しく笑った。
怖い――
助けて…!
「何やってんだ?」
薄暗い廊下に光が差し込むと同時に聞き慣れた声。蛮骨が襖を開けてまっすぐこちらを見ていた。
『蛮骨…』
「「「ばっ蛮骨様!」」」
「酒がねぇんだけど…」
「あっ…すぐにお持ちします!」
女達はバツが悪そうな顔をして逃げるようにその場を後にした。
蛮骨の顔を見てホッとしたのか名前は力なくその場に崩れ落ちる。
「どうした名前!」
名前の体を抱き留め心配そうに顔を覗きこんでくる。でも何だか顔を見られたくなくて俯いた。
『なんでもない』
「そんな震えてなんでもなくねぇだろ!さっきの女どもに何かされたのか?」
『なんでもないって言ってるじゃない!』
心配してくれてる。わかってるのに自分は何をしているのだろう…思わず蛮骨の手をはたいてしまった。
「名前…」
『もうほっといて』
「……」
『蛮骨は女の人と楽しくお酒飲んでればいいじゃない』
違う、こんなことが言いたかったんじゃない。
だけど素直じゃないこの口が本当の気持ちと正反対な言葉を声にして次々出していく。
ああ、もう駄目だ。
嫌われちゃった…。
名前は蛮骨を押しのけて走り出した。
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