常にあなたの周りには女の影、その度私は不安になる。
ねぇ、お願い。
私の想いに気付いてよ。
唯一という存在
『あっ、かわいい!』
活発な人で賑わう城下町。衣装道具を揃える出店の前にその少女の姿はあった。
一見普通だが、腰には武器を兼ね備えており村の娘ではないということがわかる。
そしてその後ろには鎧を身に付けた傭兵の男たち、七人隊の姿もある。
この少女、名前と七人隊は城のお殿様と戦で傭兵として働く契約を交わし、たんまり貰った褒美を手に今夜の宿場を物色するためこの城下町にいた。
「お、髪飾りかぁ」
立ち止まって声をあげた名前に気付いた蛮骨はひょっこり肩から顔を覗かせる。
そこにあったのは様々な種類の花の髪飾り。名前はその美しさに店の前で腰をおろし見とれている。
『うん!蛮骨、買って!』
「おぉ…いいぜ!」
『本当!?』
意外にもあっさり了解した蛮骨に名前は目を輝かせた。
「煉骨!買ってやれ!」
「え?あ、はぁ…」
『…バカ、違うわよ!』
「へ?あ、おい!」
名前はムスッと膨れて蛮骨を軽く睨むと腰をあげて歩きだす。
「買うんじゃねぇの?」
『もういい!』
バカ…。
あたしは蛮骨に選んで買ってほしかったのに…。
「俺なんか悪いこと言ったか?」
「ったく大兄貴は乙女心が分かっちゃいねぇんだから…」
頭にハテナマークを浮かべて名前の背中を見つめる蛮骨に蛇骨は溜息をついた。
「お前に言われると何かムカつく」
その後、名前の機嫌を直しつつ店を回り物を買い揃えたが気付くとあっという間に日は傾き、辺りは暗くなりだしていた
「やべぇな、そろそろ宿を決めて落ち着かねぇと…」
「つっても煉骨の兄貴よぉ、宿選びは大事だぜ?」
『そうだよ!部屋とお風呂広くて、料理美味しくて…』
「酌させる女もたくさんいて……っ!」
ニヤケる蛮骨だったが背中に寒気を感じ、青ざめる。振り向くと名前が凍りつくような視線をこちらに送っていた。
「……」
「でもそんな条件のいい所あるかぁ?」
「あー、腹減ったよぉ!早く宿決めようぜ?」
蛇骨は駄々をこねてジタバタしだす。
「我慢しろよ」
「俺も腹減ったな…」
蛮骨もまた疲れた様子で深い溜息をついた。
その時――、
「あの…」
突然背後から聞こえてきた女の声。振り返ると三人の若い女が遠慮がちにこちらを見ていた。
「宿をお探しですか?」
女たちは頬を赤く染めて駆け寄ってくる。
「あ、あぁ…そうだけど」
「あの、もしよろしかったら私達の宿にいらっしゃいませんか?」
『はぁ…?』
突如そんなことを言い出す女達に名前は目を丸める。しかしそんな名前をよそに女達は言葉を続けた。
「お部屋やお風呂も広いですし、料理も腕によりをかけて作りますので…」
「うーん、どうするよ?」
「いいじゃないんですか?滅多にこんないい宿ないですよ」
煉骨を筆頭に一斉に賛成の声をあげる皆。蛇骨も女のいる所なんて気に入らないと怪訝な顔をしていたがよほど疲れていたのだろう、最終的にはOKを出した。
しかし名前は気付いてしまった。
声をかけてきた女が皆蛮骨をうっとりと見つめていたことに。
恐らくこの女たちは蛮骨目当てで…。そう思ったらこんないい条件の宿でもなんだか気が乗らなくて…。
『蛮骨、あたし…』
名前は蛮骨の着物の袖を引っ張る。蛮骨は振り向くがそんな名前の気持ちに気付かない。
「名前もいいだろ?お前の条件も揃ってるし…」
『そうだけど…』
「どうした?」
暗い顔をする名前に蛮骨は首をかしげる。しかしその背後から女が顔を出し、とどめを刺すように声をかけた。
「芸子の娘たちもたくさんいますよ」
「よっしゃ行こうや!」
『蛮骨!』
名前が呼びかけるにも関わらず蛮骨はデレデレしながら女達についていった。
『もうっ!』
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