今日は戦もなく、珍しくのんびりと一日を過ごした七人隊と名前。あっという間に日も傾き夕食の刻限だ。


「いただきます!」


煉骨が作った料理を口にすると名前は歓喜の声をあげた。


『んーおいしい!やっぱり煉骨のご飯は最高だね!』

「誉めても何も出ないぞ?」


少しながら頬を赤く染める煉骨。その隣で睡骨はボソッと呟いた。


「毎日同じものばっかりだけどな」

「睡骨、お前を煮込んでみそ汁の具にしてやってもいいんだぞ?」


ふざけながらも皆団らんと夕食をとっていたが、その一方で食べ物を口にしながら剣幕を浮かべる人物とそれに対して冷や汗をかく人物が…。


「れ…煉骨の兄貴よぅ、俺何かしたっけ。さっきから大兄貴がすごい剣幕で睨んでくるんだけど」

「お前は空気読めねぇからな」

「え?(天然)」

「(クソッ、折角名前といい雰囲気だったのに邪魔しやがって!)」


先程いい雰囲気を邪魔されたのが余程悔しかったらしい。夕食の間、蛮骨は殺意むき出しの視線を蛇骨に送り続けたのだった。






*

そして半刻後。夕食も済み、居間で皆話に花を咲かせていたが――、



ポツポツ…
ザザー

突然外の方からザーっという音が聞こえてきた。


『この音、まさか…!?』


砂嵐のような激しい音に嫌な予感がした。名前は立ち上がり閉まっていた襖を開ける。


『……』


予感的中。先程まで真っ青に晴れ渡っていた空は厚い雲に覆われ、大粒の雨が激しい音をたてて地面を叩きつけていた。







「えぇー!花火できねぇのー!?」


雨の音に負けないくらいの大声で叫ぶ蛇骨。煉骨は困ったように溜息をついた。


「仕方ねぇだろ。この雨じゃ…」


空を見上げても雨は一向に止む気配は見られない。


「名前…」

『残念だけど、また今度ね』


悔しがる蛇骨に名前は優しく微笑み慰めるが、蛮骨にはその表情が蛇骨以上に残念そうであるように思えた。






その後、風呂からあがり廊下を歩いていた蛮骨はふと縁側から空を覗く。相変わらず空は雲に覆われ雨は激しさを増すばかり。


―やっぱり止まねぇか……ん?

空から視線を戻すと廊下の突き当たりの部屋からわずかに光が漏れているのが目に入った。

あれは名前の部屋だ。
わずかに開いている襖から中を覗くと一生懸命何かを作る名前の姿が…。


「何してんだ、名前」

『あ、蛮骨。てるてる坊主作ってるの』

「てる…?坊主?」

『てるてる坊主!これを吊るすと雨が止むっていうおまじないがあるの』

「まじないか…よし、俺も手伝う」

『え、本当?』

「おう、まかせとけ!」


蛮骨はニカッと笑って名前の耳元に顔を近づけ囁く。


「お前と星見に行きたいしな」

『……っ』


肩をすくめ顔を真っ赤にする名前の頭を撫で、蛮骨はどこかに行ってしまった。





しかし数分後、


「おーい!できたぞ、てるてる坊主!」


蛮骨は白いシーツに何かをくるんで引きずりながら戻ってきた。しかもシーツの端からは何者かの足がはみ出しバタバタしている。


「〜っ!!」

『蛮骨、これってもしかして…』

「本物の坊主だぜ!これ吊り下げとけば一発で雨止まぁ!」

『だめっ、元に戻しなさいっ!』



やっとのことでシーツから解放された煉骨は顔を真っ赤にしながら怒鳴りつけた。


「何するんですか、大兄貴!殺す気ですか!」

「だっててるてる坊主…」

「はぁ!?」

『ごめんね、煉骨…巻き込んじゃって。蛮骨ももういいよ?この様子じゃ雨も上がりそうにないし今回は諦めよ?』

「けどよ…」

『あたし、疲れたからもう寝るね。おやすみ』


名前は落ち込んだ表情で部屋の襖を閉めた。
無論、名前と蛮骨の約束を知らない煉骨は落ち込んだ名前を見て、首をかしげる。


「名前、そんなに花火やりたかったのか?」

「……」



―今俺があいつにしてやれることは…。



「煉骨、ちょっと頼みがあるんだけどよ…」







一方、その頃名前は溜息をつきながら布団に潜り込む。
ザーっと激しさを予想させる雨音が耳に響いた。



明日は有名な戦国大名が参戦する戦であり、七人隊も加勢することになっている。両軍の兵は数万にのぼる大戦だそうだ。無論一日二日ほどでは終わらないだろう。

明日みんなを戦に送り出して、名前は一旦現代へと戻ることにしている。


当分の間会えなくなる前になるべくみんなと…そして蛮骨と一緒に楽しく過ごせるようにと花火や星の観測を計画していたのだった。
しかしその計画もこの雨で全て無に。


『仕方ないよね…』


名前はそう呟き、静かに目を閉じた。


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