空は茜色に染まり、カアカアと数羽のカラスの鳴き声が重なり聞こえ始めた頃、煉骨達は館へと帰ってきた。
一体どんなお店が並んでいたのだろう。
早速土産話を沢山聞かせてもらおうと急ぎ足で彼らを出迎えに行く。しかし、そんなあたしに思いがけないサプライズが待っていた。
ごめん、とまらない。『煉骨、これ…っ!』
「土産だ」
煉骨から素っ気無しに差し出されたのは綺麗な藍色の着物。受け取る手が思わず震えてしまう。確かにお土産を買ってきてくれるとは言っていたけれど、まさかこんな上等過ぎる品がお土産だなんて。
『い…いいの?』
「そろそろお前に買ってやろうと思ってたんだよ。後で戦いやすいように仕立て直してやるが、…試に着てみるか?」
『〜っ!うん!!』
それから数分後。全身鏡に写るあたしは藍色の着物を身に纏い、顔を綻ばせていた。
襟から胸元には白く可愛らしい花が誇張し過ぎない程度にあしらわれており、裾元には銀の流水紋。上品でとても綺麗。
「いいじゃねーか。お前によく似合ってる」
『煉骨…ありがとォ!!大事にする!』
「お…おい!」
煉骨に思いっきり抱きついて、しつこいと呆れられる程に何度も感謝を伝える。
煉骨があたしのために選んでくれた、こんなに嬉しいことがあるだろうか。
かけがえのない、一生の宝物だ。
『制服乾くまでこれ着てていい?』
「ったく、しょうがねぇな」
『やった…!』
着物を身につけたあたしは今にもスキップを始めんばかりの上機嫌で廊下を渡っていく。銀骨や凶骨、北条くん、出くわした人みんなが褒めてくれた。嬉しい。
きっと今のあたしの顔は幸せで緩みきっていたのだろう。廊下の角を曲がってのち出くわした蛇骨があたしの顔を見て上げた第一声は「キモッ!」だった。
何だ、キモッ!って。失礼過ぎるぞこいつ。
「…それ、煉骨の兄貴に買ってもらったやつか?」
『そうよ。キモくて悪ぅござんした!』
「着物のことじゃねーよ!おめぇのその緩みきった顔のことを言ったんだよ!」
『それで言い逃れしてるつもりか!!』
「…しっかしその着物、流石値打ちモンってだけはあるなァ」
『え、もしかして結構高かったの?』
「あー、桁間違えてんじゃねーのってくらいしたんだぜ」
『えええ!?……そんな高級な物、本当に貰っちゃってよかったのかな』
「くれるって言うんだから貰っとけ。
きっと唯に似合うつって買ってたんだ。兄貴はおめーが妹みたいに可愛くて仕方ねぇんだよ」
その言葉にポッと頬が紅潮しつつも笑顔が溢れる。
何だか本当のお母…お兄ちゃんが出来たみたい。
「ったく…俺の方が何倍も兄貴のこと愛してるってのに、兄貴は一向に俺を可愛がってはくれねぇ」
『ちょっとそれは聞き捨てならないな。あたしだって蛇骨に負けないくらい煉骨大好きだもん!』
「はぁ!?俺はこんなにも兄貴のこと好きなんだぜ?」
そう言っては両手を広げて愛情の大きさとやらを表現してみせる。負けじとあたしも精一杯両手を広げて対抗した。
『何をー!?あたしはこんなに、こーんなに煉骨大好きなんだもん!』
「ま…負けねーぞ!俺はそれよりもっともっと――」
「やめろてめぇら、そんな大声で…!恥ずかしい!!」スパーンと音を立てて開いた襖から顔を真っ赤にさせた煉骨が姿を現した。どうやらあたし達が激論を交わしていた場所は煉骨の部屋の前だったらしい。
息を荒立て憤る彼にへらりと笑って「大好き!」と声を揃えれば、一発ずつげんこつをくらわされた。
何故だ。大好きと言われて何故怒る。
『ふ…ふふふ、このぅ恥ずかしがり屋さんめっ☆』
「そんな兄貴も、好きだぜ」
もう一発殴られた。
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