同じ空の下で | ナノ






『すいませーん、誰かいませんかー』


あたし達は、とある漆器屋の前にいた。
瑞稀くんの両親はこの鬼灯村で漆器屋を営んでいるらしく、ごまんとある出店の中から見つけ出したはいいけれど。留守なのだろうか、声を掛けても応答はない。


「俺達が来ること知ってとんずらしたんじゃねーの?…イダッ!」
『(空気読めっつーの!)』
「分かったよ!分かったから、足踏むなって!」


涙ながらに足をさする蛇骨をひと睨みすると、鼻息を荒くする。
こうなったら戻ってくるまでここで居候してやる…!

だが、そう意気込んだのもつかの間。


「あの、何か…?」


突如背後から聞こえたその声に振り返れば、若い女の人が首を傾げてこちらを見ていた。しかし、瑞稀くんに視線を移せば途端に目が大きく見開かれる。


「瑞稀…?」
「おっかぁ!」
「近寄らないで!」
「…っ!」
「……貴方達ですか、この子を連れて来たのは」
「あ?そうだけど」
「余計なことしないで!漸くこの子を此処から逃がすことができたのに…!」


女の人は一度は声を荒げたものの、瑞稀くんの姿を見ると目に涙をいっぱい溜めて拳を震わせる。その様子を一瞥した蛮骨は静かに口を開いた。


「何か、訳がありそうだな」






*

「この村には昔から生まれた子を陰陽師に占ってもらう習慣があります」


あたし達は奥の間に通され、そこで一連の話を聞く。だがある時、彼女の話の中に出てきた“陰陽師”という言葉に誰もが眉を寄せた。


「瑞稀も生まれてすぐ占ってもらったのですが。その結果災いをもたらす子とされ、殺すことを命じられました」
「「「「「!?」」」」」
「とはいえ、殺すことなどできるはずもなく。隠すようにして今まで育ててきましたが、もう限界で…」
「だから捨てたってか」
「…っ、殺されるよりマシでしょう!?」
「チッ…ふざけン…」
「ふざけないでください!」


蛇骨の言葉を遮り、声を上げたのは睡骨だった。
突如変化したその声色に驚き見れば、いつの間にかお医者の睡骨がそこにいる。


「この子は一人で森の中を彷徨ってたんですよ?妖怪に襲われる可能性も十分あった。いいですか、このような幼子を手元から離すのは殺すも同然なんです」
「…っ!ならばどうしたらいいんですか!」


遂に彼女は泣き出してしまう。
ワンワンと声を上げて泣く彼女に掛ける言葉が見つからない。その時、あたしに出来たのはただその背中をさすってあげるのみ。


けれど蛮骨は違った。
部屋の外にいる瑞稀くんを呼び寄せ、慰める様に頭を撫でて言い聞かす。


「なんにも心配いらねぇよ、瑞稀。おめぇにも陽の下で思いっきり遊べる日が来るからよ」
「ほんと?蛮骨の兄ちゃん」
「おう、きっとだ。約束する」


蛮骨がニッと歯を見せて笑えば、瑞稀くんも同じ顔になる。また、今まで泣き叫んでいた瑞稀くんの母親さえも蛮骨の言葉に涙を止めた。


「災いだの何だの、ふざけたことぬかす野郎は俺がぶっ飛ばす。…だから、今後一切瑞稀を手放すんじゃねーぞ」


最後の一言は瑞稀くんの母親に向けられたもの。それを聞いた彼女の目からはポロリと一雫の涙が零れる。
けれど、それはもう絶望の涙ではない。ありがとうと何度も呟き涙を零す彼女の肩を支え、あたしは微笑みながらに瞳を閉じた。







「しっかし、睡骨よォ!おめぇも言うようになったなァ」
「何のことだ、蛇骨」
「瑞稀の母ちゃんにビシッと言ってやったろ。いよいよ母性まで生まれたんじゃねーの?」
「今なら母乳も出せたりしてな、ゲへへ」
「その喉掻っ切るぞ、てめぇら!それに、あれは医者野郎が言ったことで俺の意思とは何の関係も…って、何ニヤついてんだよ唯」
『ううん?かっこよかったよ、睡骨』


これは冷やかしでも何でもない。
本音をありのままに言葉にすれば、睡骨の頬にほんのり紅がさす。そして照れ隠しなのか、そっぽを向いて必死に否定し始めた。
そんな睡骨に思わず笑みが零れつつ、先頭を行く蛮骨に対して言葉を掛ける。


『蛮骨もかっこよかったよ』
「あ?」
『さっきの言葉、瑞稀くんにとって大きな支えになったと思う。すごいよ蛮骨』
「当たり前だっつーの!何てったって俺ら七人隊の首領、蛮骨の大兄貴だぜ?」
「『よっ、大兄貴!』」


蛇骨とともに声を合わせて掛け声をかければ、蛮骨は「うるせぇよ」と少し照れ臭そうに笑った。


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