同じ空の下で | ナノ


北条くんは神妙な面持ちで懐から小さな包みを取り出す。それを解けば綺麗な簪が二つ現れ出た。


「これは我が北条家で大切に保管されてきた物です」
『へぇ、どっちも綺麗ね』
「まぁ、見目は…ですが」


溜息をついて簪を眺める、その目付きはまるで悍ましい物を見るかの様で。傍らで聞くあたしの目にもそれらが恐ろしい物として映り始める。


「実は近頃、北条家は災難続きでして。父母と相次いで病に倒れ、この某も…」
『北条くんも?』
「ええ。歩けば野良犬に噛まれるは、草履の鼻緒は切れるはで…」


…それはただ単に運が悪いだけだろ。
奇跡的に全員の心の声が一致した瞬間だった。


「元凶はきっとこの簪だと…って、ちょっと!?」
「さっさと行くぞ、おめぇら」
『はーい』
「真面目に聞いて損したな」
「驚いた。蛇骨でも真面目に人の話が聞けるんだな」
「ひっでーよ煉骨の兄貴ィ!」


拳を固く握って熱弁する北条くんは放っておくことにして、蛮骨を先頭に再び歩き出す。
しかしその時、間髪入れずに追ってきた彼の言葉によってまたしてもその足を止められる。


「待ってください!そう思うのはちゃんとした理由があってのことで…!」
『…理由?』
「はい。実はこれらの持ち主であったお方はそれはそれは哀れな死を遂げられ。唯一遺ったこの簪にはきっと彼女の無念が…、某にはそう思えてなりません」
『……』


あたしだけだろうか、彼が紡いだその言葉に不思議なくらい引き込まれたのは。上手く言い表せないけれど、他人事だと思って聞き流すことが出来ない。


「鬼灯村には陰陽師の御所があると聞き及びます。それ故某は簪に宿る彼女の念を鎮めてもらうため…」
「けっ、くだらねぇ」


突如、北条くんの言葉を遮ったのは蛮骨だ。


「生憎、念だの呪いだのに興味はねぇんだ。そんなモンに一々踊らされてるおめぇを見るだけで苛々する」
『ちょっと、蛮骨…』
「だが、目的地が一緒なら仕方ねぇ。ついて来たいんなら勝手にしな。足手まといにはなるなよ」
「…蛮骨様」


その声色は未だ機嫌の悪さを反映してはいるが、どうやら北条くんを道中に加えることを許した様子。

相変わらず素直じゃない蛮骨。その背中を見つめ、あたしは静かに微笑んだ。









*

「ここか鬼灯村かァ!思ったより栄えた所じゃねーか!」


眼前に広がる鬼灯村の町並みに蛇骨は感嘆の声を上げる。
辰巳の方角を目指し歩くこと数刻、あたし達は無事鬼灯村にたどり着いたのだ。


「ここは少し前まで城下町だったんですよ。ほら、向こうにお城が見えるでしょう?」
『あ、本当だ!』
「戦に負けて今は無人の城ですが、この村の栄えはまだ健在です」
『北条くんてこの土地に詳しいんだね。おかげでここにも早くたどり着けたし』
「いえ、そんな…うぐっ!!」
『どした?…げ!』


突然北条くんの顔が青ざめるので何事かと思って振り返れば、蛮骨が恐ろしい顔でこちらを見ているではないか。
本当に、今日はどうしてしまったのか。いよいよ心配になり、蛮骨の元に駆け寄って人差し指で彼の両頬を押さえてクイッと上げてみる。


「何だよ」
『だってあまりにも怖い顔してるから。そんなに北条くんが気に入らないの?』
「当たりめぇだろ。あの野郎、おめぇ目当てでついて来たに決まってんだ」
『…はぁ?』
「大体おめぇはな、隙があり過ぎんだよ。もっと男に危機感を持ちやがれ!」
『な…』


何でいつの間にあたしが怒られてるの?
しかも何これデジャヴ?前にも同じことがあったような。鋼牙くんと出会ったあの日も確かすごく機嫌が悪かった。
もしかして、これ…。


「あんま俺を苛つかせるな」


…嫉妬?

ボフン!
その言葉が浮かんだその時、熱が一気に顔に集中した。
すぐさま顔を激しく振って言葉を打ち消す。自意識過剰みたいじゃないか。


「おい、何やってんだ。瑞稀の親探しに行くぞ」
『う…うん』


煉骨の呼び掛けに気を取り戻し、他の皆の元に駆け寄る。
無論、未だ熱を持つ顔を蛮骨に向けるなど出来るはずもなかった。

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