同じ空の下で | ナノ




それから五分と経たずうちに、野盗とのいざこざは解決した。あたしの足元には男達がまばらに倒れ込んでいる。


『瑞稀くん、怪我はない?』
「うん」
『あなたも大丈夫?顔から地面に突っ込んでたけど…』


先程からずっと腰を抜かしている青年に近づくと、顔を覗き込んだ。すると漸く放心状態だった青年の顔に生気が戻る。


「助けるつもりが逆に助けられてしまい、かたじけない!」
『いいよ、謝らなくて。気持ちだけで充分だって』
「……」
『どうした?顔赤いよ』
「あのっ!よければお名前を…っ!?」
『ん?』


不審に思った。今の今まで赤らんでいた青年の顔が今度は瞬時に青くなる。その理由はすぐに明らかになった。背中に感じた殺気に振り返れば既に男が自分に向かって刀を振り下ろしている。


『…っ!』
「お姉ちゃん!!」


逃げることも、刀を抜くことも出来ず、ただギュッと固く目をつぶる。そうしてすぐに来るだろう痛みに覚悟した。



しかしいつまで経っても痛みは感じられない。恐る恐る目を開ければ、目の前には白目を剥いて気絶している先程の男の姿、そして――


「遅ェぞ、唯」
『…蛮骨』
「雑魚相手に何してんだよ。団子はもう買えたのか?」
『え?…あ』


すっかり忘れていた。野盗達と喧嘩するまであたしの両手にあったお団子達は今は地面に。野盗達に踏みつけられ、無惨な姿に変わっている。


『こりゃダメね。あーあ、勿体無い』
「あの、よければこれを…」
『えっ?』


溜息をつくあたしに青年が差し出したのは若葉色のお餅。あのワクドナルドの店員さんにも負けず劣らずの素晴らしいスマイルを浮かべている。


「よもぎ餅、健康に良いそうじゃ。召し上がられよ」
『あ…ありがとう(おじいちゃんみたいなこと言うな、この人(失礼))』
「ジジイみてぇなこと言うな、こいつ」
『こら、蛮骨失礼でしょうが!人のこと言えないけど!』
「あ…あはは」


「…で、誰だよおめぇ」
「これは申し遅れた!某は北条秋時と申します。この度はそちらのお方に命を救われまして」
「ふーん?」


相変わらず丁寧な言葉遣いで、蛮骨を前にハキハキと喋る。その真摯な姿にクスリと笑みが漏れた。


『律儀な人よね。でも可愛い』
「なっ…!唯おめぇ!」
「可愛い…」
『北条秋時、秋時くん。うーん、北条くんって呼んでもいい?』
「はいっ!!」
『プッ!あたしは唯、よろしくね』


清々しい返事に思わず噴き出しつつも、あたし達は互いに握手をした。その隣では何故か蛮骨が面白くなさそうな顔をしている。何よと聞いても別にとぶっきらぼうな答えしか返ってこない。何なのだ、この人は。





その後。あたし達は先を歩いていた煉骨達と合流をし、再び辰巳の方角へ進み始めた。


「へぇ、秋時っていうのか。可愛い奴だなぁ」
「ヒィィ…!」
『ちょっと蛇骨、北条くんが怖がってんじゃん!』
「うっせーなァ。邪魔すんなよ」
「ってか何でついてきてんだよ」


未だ蛮骨の機嫌は直らず。後ろから北条くんを鋭く睨みつけている。


『いーじゃん、北条くんもこっちの方向だって言ってんだから』
「そうだよ、大兄貴。俺は可愛い奴なら大歓迎だぜ?」
「妙なところで気が合うなお前ら」
『「煩ェ、眉無し強姦魔!」』
「まだ強姦魔かよ俺は!」
「ごうかんまってなにー?」
「おお、瑞稀。強姦魔ってのはな、変態のことだ。つまり睡骨は変態野郎だ」
「蛇骨ぅぅ!」


もとは八人だったあたし達に瑞稀くんと北条くんが加わったことで更に賑やかさが増した。楽しくないわけがない。取っ組み合いの喧嘩を始めた蛇骨と睡骨に爆笑しつつ、隣にいた北条くんに目を向ける。


『ところで北条くんはどこまで行くの?』
「はぁ、某は鬼灯村まで」
『えっ…』


北条くんの言葉に誰もが動きを止め、黙り込んだ。見れば彼は神妙な面持ちを浮かべており…。
あたしは息を呑み、彼の言葉に耳を傾けた。

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