同じ空の下で | ナノ


「ほら、これだけ金あったら団子買えるだろ?」
『うん、ありがとう煉骨!』
「俺達は先行ってるからな。さっさと買って追いつけよ」
『はいはーい!行こう、瑞稀くん』
「うん!」



あれから、あたし達は瑞稀くんを連れて彼の故郷、鬼灯(ほおずき)村へ向かった。
偶然、その村は辰巳の方角にあるらしい。これは一石二鳥だと喜びつつ、足を動かすこと三日。そろそろ鬼灯村も近かろうという時、道端で偶然団子屋を見つけ今に至る。




災厄の地へ





『はい、餡子のお団子。食べるのは皆と合流してからね?』
「わぁぁい!」
『あ、ちょっと瑞稀くん。前見て歩かなきゃ…』


危ないよ。そう忠告しようとしたまさにその時だった。お団子に気を取られていた瑞稀くんは向かいから来た男達、そのうち一人の足にぶつかってしまったのだ。
よくよく見るとその男達は鎧を身に付けた野盗。しかもかなりガラが悪い。幼い瑞稀くんをギロリと激しく睨みつけているのだからもう間違いない。


「おいおい、どうしてくれんだよ。足が餡子で汚れちまったじゃねぇか」
「ご…ごめんなさ…」
「謝る時は土下座して地面にデコ付けるんだろ?父ちゃんと母ちゃんに教わらなかったか?」


父ちゃんと母ちゃん。その言葉に反応して、目に涙をいっぱい溜める瑞稀くん。それを見てゲラゲラと下品に笑う野盗達。一体、何が面白いというのか。


『大人げない。アンタ達、一体年幾つよ』
「あァ?」
『子ども相手にマジギレするなんて精神年齢低すぎ』
「なっ…何だとォ?調子に乗るんじゃねーぞ女ァ!」


憤怒した男はこちらに手を伸ばし、あたしの制服のネクタイを引っ張りあげた。刹那、ブチッ!と繊維が切れる音が大きく響く。

その行為で、遂にあたしの怒りが頂点に達した。片手で男の頬を掴みあげる。


『謝んなさいよ!ブチッって鳴ったろーが、ブチッって!』
「アデデデデデッ!!!」
「…っ!?このアマふざけたことしやがって!」


男は腰にある刀に手を伸ばし鞘から抜くと、切っ先をあたしに向ける。それを皮切りに他の男らも一斉に刀を構えた。武器を使って脅せばあたしが泣いて詫びるとでも思っているのだろうか。
あたしはひとつ溜息をついて、腰にさした二本の刀のうち木刀に手を伸ばした。だが、


「おなごに刀を向けるとは、そなた達それでも男か」


突如、聞き慣れない男声が右手からあがった。木刀の柄に触れたまま、視線だけをやれば栗色の髪が特徴的な青年の姿を捉えることができる。


「何だてめぇ。部外者は黙ってろよ!」
「そういうわけにはいかぬ。某が見た限り、非があるのはそなた達の方。なのにあまりに横柄なその態度、黙って見てはおれなんだ」
「何だと!?てめぇ、黙って聞いてりゃ、よくもぬけぬけと…!」
『ちょっと、危ないよ。あたし達は大丈夫だから』
「ここで逃げたら男が廃る。某に任せて貴女はその子とお逃げなさい」
『でも!』
「心配ご無用。これでも某、妖と対峙したこともある故」
『えぇ…?』


「てめぇら、さっきから何をごちゃごちゃと…煩ェんだよ!」


男達のうち一人が痺れを切らし、刀を手に襲いかかった。対し青年も腰の刀を鞘から抜いて駆け出す。


「「ウオォォォォ!!」」


あたしは二人の対峙を固唾を呑んで見守る。
しかしいよいよ互いの距離が攻撃範囲内に達するかという時、予想だにしないことが起こった。青年が地面の窪みに足を取られて前のめりに倒れたのだ。顔面からか、これは痛いと思わずこちらまで顔をしかめるも、今はそんなことを考えている場合ではない。野盗の男はこれをチャンスとし、今にも斬りかかろうと跳躍しているのだから。


『言わんこっちゃないっ!』


堪らず駆け出し、砂嵐を立てながら二人の間に滑り込む。そして今度は日本刀の柄に手を伸ばし、すばやく鞘から抜き出した。

キンと空気を震わす金属音。
どうにか間に合ったらしい。あたしの刀はギリギリのところで相手の刃を受け止めている。


「てめ、女ァ!」
『…女に負けるなんて、とんだ屈辱でしょ』
「あ?…っ!」


刀を振り切り一端男を遠ざけると日本刀を鞘に納め、次に木刀へ手を伸ばした。散々使い込まれた木刀。その柄に力を籠め、切っ先を男達に向ける。
そして、笑みを浮かべた。
男達の余裕とプライドを打ち砕く、その瞬間を待ち望んで。


『最高の屈辱感を味あわせてあげる』

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