同じ空の下で | ナノ


蛮骨はあたしの一歩前を歩いていく。初めて来る癖に堂々としてるから、戦国時代の人だってこと…思わず忘れてしまいそうだった。


『ねぇ蛮骨、どこに向かおうとしてんの?』

「…別に、真っすぐだ」

『……はァ!?』

「おめェよりよっぽどマシだろうが」

『ばっ…馬鹿にしないでよ!現代はあたしの方がよく分かってんだから!』


蛮骨を追い越すと、張り切って先頭を歩く。いくら筋金入りの方向音痴でも、ここは現代の都心。戦国時代の人に負ける訳にはいかない!…っていうただの見栄張り。だからだろう。今のあたしは見栄を張ることに必死になって、曲がり角から来た車の存在に全く気づかなかった。


「馬鹿、危ねッ!」

『……え?…ッ!』


けたたましいクラクションが鳴り響き、車がすぐ傍を通り過ぎていく。すぐに蛮骨が手を引いて助けてくれたからよかったものの、一歩間違えば大事故に繋がっていたかもしれない。
車が見えなくなると、蛮骨は溜息をついて横目であたしを見る。


「ったく…、これだから目を離すと危なっかしいンだよ」

『…ごめん』


他に返す言葉も見つからない。申し訳なくてただただ俯く。だけどその時、不意に頭をクシャッと撫でられた。驚いて顔を上げればホッと安堵したような、優しい笑みを浮かべた蛮骨がそこにいて…。


「怪我はねェな」


その言葉に胸が高鳴る。また、だ。時折彼が見せる優しさに思わずドキッとしてしまう。今まで傍にいてこんな感情を抱いたことなんてなかったのに、本当どうしてしまったのだろう。もしかしてあたし…。




「ゲヘヘ…」

「『……』」


せっかくのいいムードは突如聞こえてきた下品な笑い声によってぶち壊された。見ると洋服を着た縄文土偶が……あ、間違えた霧骨が女子高生の尻を追いかけてあたし達の隣を通り過ぎて行く。嫁に来ねぇか?なんて意味の分からないことを呟いて、隙あらば女子高生のスカートの中を覗こうとしていた。それを見た瞬間、今まで蛮骨に対して抱いていた気持ちも全て吹っ飛んでしまったのだった。








*


『あとは蛇骨・煉骨・睡骨の三人か。どこに行っちゃったんだろ』

「霧骨、お前知ってンじゃねーのかよ」

「グスン…」


蛮骨が問えば霧骨は泣きじゃくって首を横に振った。頭の上にはたんこぶが二、三個。顔はパンパンに腫れ上がっていて、大分可哀相なことになっている。少しやり過ぎたかな。……まァ、ストーカー及びセクハラ行為の清算だし、これくらい仕方ないってことで。


『しっかし、探し出すのは意外と大変ね』


日暮れまでに全員見つけ出せなかったら…、そのことを考えると気が遠くなる。けれど、とにかく今は捜す他ない。両頬をペチンと叩いて気合いを入れると、二人を連れて捜索を再開する。すると、幸運にもあいつの居場所を示す手掛かりが舞い込んできた。


「何だよ女ァ…!てめー、俺に気安く話し掛けんじゃねぇっつーの!」

「「『…!?』」」


突如何処からか聞こえてきた声は間違いなく蛇骨のもの。しかし何かおかしい。その声はワンワンと木霊して、この広い空間に響き渡っていた。

……何だか、とてつもなく嫌な予感がする。嫌な予感って?例えば蛇骨の姿がテレビに映ってて、街中で放映されてるとか。まァ、所詮ただの予感だけどね。絶対有り得ないけどね…!だけど、こういう時に限って嫌な予感ってのは的中するもの。
駅ビルの壁面に設置された液晶画面の中、蛇骨はそこにいたのだ。



《あの…、今後の政策について貴方のお考えが聞きたくて…》


画面の中ではリポーターらしき女の人が蛇骨にマイクを向けている。お昼のワイドショーなんかで時折見られる街頭インタビュー。どうやら蛇骨はリポーターの目に留まったらしい。なんて羨ましいの!…あ、いや今はそんなこと言ってる場合じゃないや。
しかし、蛇骨は質問を完全無視。ブッ殺すだの斬り殺すだの次々と物騒な言葉を吐き出してはリポーターの女の人を怖がらせている。
液晶画面を通して響き渡る怒声。これには街行く人々も足を止め、画面に映る蛇骨に注目し始めた。


『……ヤバい、早く止めないと!』


よく見ると画面の端に【LIVE渋谷】との表示が…。渋谷まではここから電車で2駅。
どうするか、なんて迷っている暇はなかった。

蛮骨の腕を引き、霧骨をサッカーボールの如く蹴り回しながら駅へと向かう。


『電車、乗るわよ!』


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