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『もう意味分かんないんだけど!何なの、馬鹿なの、死ぬの!?』
「犬夜叉、あんたが蛮骨を連れて来たのね!ってか何であんた当たり前のようにこっちウロウロしてんのよ!」
「「……」」
あの後、あたし達はかごめちゃんの友達の質問攻めをどうにか振り切り、ファミレスを出た。そしてそのまま四人で街まで出て来ている。本来なら戦国時代に強制送還。だけどそう出来ない理由があった。
『しかも皆が行方不明ってどういうことよ…!』
「仕方ねぇだろ、目ェ離した隙にどっか行っちまったんだから」
『…もー!』
頭が痛い。どうやら犬夜叉と出会って、あたし達を探している間に皆バラバラになってしまったらしい。この大都会の中で戦国時代の傭兵達が迷子――、こんなこと誰が信じる?
溜息をつきながら隣を歩く蛮骨を横目で見る。蛮骨はいつもの鎧姿じゃなかった。長い三つ編みを隠すためのフード付きのパーカーに下はジーンズ、ちょうど現代の若者の格好をしている。お姉ちゃんの言われるがまま着せられたらしいけど、こういう格好したら現代の人と全然変わらないし…何て言うかすごく似合ってる。
「…何見てんだよ」
『べ…別に。ってか、皆現代の格好してるんならどうやって探せばいいの!』
「とにかく地道に探しましょ!私と犬夜叉はむこうを探してみるわ」
『…ありがとう』
「いいのよ。困った時はお互い様でしょ?」
かごめちゃんはそう言ってウインクをすると、犬夜叉を引っ張って行ってしまった。
あたしと蛮骨は人通りの多い交差点に出て皆を探す。
「おい唯、まだ怒ってんのかよ」
『これが怒ってないように見える?』
後ろから聞こえてくる蛮骨の声に振り返らず皮肉を込めた言葉を吐いた。
心配しなくても学校が終わったら向こうに戻る気でいた。なのに…。
『そんなにあたしのこと信用できなかった?』
「…そんなんじゃねぇ」
『え?』
不意に捕まれた腕。振り返って彼の顔を見ると言葉に詰まってしまった。
今の蛮骨はあの時と…、どこにも行くな、そう言った時と全く同じ表情をしている。
「おめーが傍にいねぇと苛ついて仕方ねぇんだ。
それくらい解れよ」
『…え?…っあ!』
前から来た人と肩がぶつかって体がよろめいた。刹那掴まれた腕に力が篭り、前へと引かれる。そしてポスンと軽い音をたてて蛮骨の胸に飛び込んでしまった。
『なっ…?』
「大丈夫か?」
『……』
あたしは蛮骨の胸元に埋もれたまま固まってしまっていた。彼の問い掛けにも反応すらできない。
「どうした、顔が赤ぇぞ?」
『あ…赤くないよ!』
「赤ぇって!熱でもあんじゃねぇか?」
そう言うと急に前髪を上げられた。そしてコツンと軽く蛮骨の額があたしの額に当てられる。
『…っ!?』
「熱はねぇか」
静かに呟くと、そのまま視線をあたしに合わせた。
「じゃあ、何で赤くなってんだよ」
互いの視線がぶつかる。逸らしたくてもこんなに近くで、射抜くような瞳で見つめられたら逆に逸らすことなんて出来なかった。
『それは…だって、蛮骨が…』
「俺が、何だよ」
沈黙が続く。その先の言葉なんて自分にだって分からない。蛮骨が何?あたしは今何を言おうとしてたのだろう。
「んだよ、言えよ」
『あ…ちょっと蛮骨、ち…近い』
いつの間にか腰に手を回されていて後ろにも退けなかった。こんなんじゃ周りからは抱き合ってるようにしか見えない。まるで路上でイチャついてるカップルみたいじゃないか。
『近い…。
近いってェ!!』
ゴッ!!「ウッ!!」いよいよ恥ずかしさに耐え切れず、思い切り蛮骨に頭突きをした。すると漸く腰に回っていた手が離れ、その隙に数歩距離をとる。蛮骨は額を押さえ、悲痛な表情を浮かべた。
「てめっ、何しやが…」
『それはこっちの台詞!もう、からかわないで』
「からかう?」
『そうでしょ!?今までそんなことしなかったのに何でいきなり』
問いただすと、蛮骨はバツの悪そうな顔をする。
「おめーが悪ィんだよ。鋼牙になんか口説かれたりするから」
『…はァ?』
返ってきた答えは理解し難いものだった。何故そこで鋼牙くんが出て来るのか。考えていると、頭上から深い溜息が降ってきた。
「本当に鈍感な女だな。まぁ、そのうち嫌でも気付かせてやるよ」
ボソッと独り言のように呟いては目的もなく歩いていく蛮骨。その背中を見ながら、未だ言葉の意味を理解できないあたしは首を傾げた。
『…意味分かんない』
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