同じ空の下で | ナノ



――その後
あたし達は電車に乗り込み、何とか渋谷駅へ来ることが出来た。


『やっと…、着いた…』


電車から降りると同時に深い溜息が出る。たった2駅、たった5分。あっという間に過ぎるはずの時間も今回ばかりは長く疎ましく感じた。


「本当面白ェもンばっかだな、現代っていう所は」

「露出の多い女もいるしな、ゲヘヘ」


それもこれも今傍らで能天気な言葉を紡いでいる、こいつらのせい。
電車に乗ってる間、それはもう大変だった。寿命が縮んだ…と本気で思ったくらい。電車が動き出すといい大人が二人揃って窓に張り付き、子供のようにはしゃいで…。大人しくしたかと思えば蛮骨は隣にいたおじさんのかつらをテイクアウトするわ、霧骨は女子にやらしい視線を送るわ。この5分間で一体どれだけの人間に謝罪しただろう。やっぱり電車に乗せるべきではなかったか。しかし過ぎたことを悔やんでも仕方ない。さっさと本題に戻ることにしよう。


『蛇骨、まだここにいればいいけど…』


改札から出ると、一先ずテレビに映っていた場所を探すために歩き始めた。だがその時、


ピンポーン


その音により思考は一時停止。やっと蛇骨の捜索に対して意欲が出てきたってのに。
振り返ると蛮骨が改札口に挟まれて足止めを食らっている。あれほど説明したのに……、お前は何なんだ。遠足に来た小学生か。

このまま無視して置いていきたいというのが本心だが、改札口に挟まれたまま佇む蛮骨の顔が何だか怖い。これはきっと悪い出来事の前兆だ。早く奴を回収しなければ…。
自分の直感を信じて、改札へ駆け出す。しかしあと一歩遅かった。


「俺の行く道を阻むんじゃねー!!」

ベキィッッ


蛮骨が足蹴したことで火花を散らしてバラバラに砕けてしまった改札機。それを目にした瞬間、為すべきことは一つしか思い浮かばなかった。


『ごめんなさいぃぃ!!』


駅員さんが来る前に全速力で逃げる。至ってシンプルな行動だった。











*


『も、さいっあく』

「何もこんな所まで逃げて来なくてもよかったんじゃねーか?」

『あんたにだけは…言われたく…ないっ!』


走って走って、ようやく立ち止まった頃には息も絶え絶え。キッと睨んで改札機のことを責め立てれば、本人は大して悪びれもせず「歩くのを邪魔したあいつが悪い」とか言ってる。蛮骨って絶対Gアンの祖先か何かだと思う。独占欲とか所有欲とか強そうだもん。


『それにしても、ここどこだろ。知らない路地に迷い込んじゃった』

「また迷子かよ。しょうがねェな、おめーは」

『だから、蛮骨だけには言われたくないって』


周りの景色も見ないで走ってきたために見知らぬ路地に入り込んでしまったよう…。周りには怪しい感じのお店が並んでいる。
どことなく暗い雰囲気に怖くなったあたしは誰かに道を尋ねようと周囲を見渡していた。その時だった。背後から何者かが近付いてくる…ふとそんな気配を覚え、勢いよく振り返る。


『え…ぎゃあっ!』


突然、目の前が真っ暗になった。かと思えば、全身に衝撃が走る。その時漸く誰かがぶつかってきたのだと悟った。しかし当然避ける暇もなかった訳で、正面衝突。額同士がぶつかったのかゴチンという音までたてて、派手に倒れた。


『いったい…』


ちょっとこれ慰謝料取れるんじゃないの?――というのは冗談だけど、一応…一応!ぶつかってきた男の顔を拝んでおこう。そう思って体を起こしていると、聞き慣れた声が上から降ってきた。


「いてェのはこっちだっつーの」

『…ん?』


ようやく男の顔を拝めたかと思いきや再び思考停止。自分に覆い被さったまま倒れて込んでいる男は今まで必死で捜していた蛇骨本人だった。名を呼ぶと、蛇骨はハッとした表情であたしの肩を掴んでくる。またその顔はひどく怯えていた。


「唯っ…!頼む、助けてくれ!」

『は?助けるって何…』

「妖怪集団に追われてんだよ!」

『何言ってんのよ、ここに妖怪なんかいる訳が…』

「お…おい、唯」

『何よ、蛮骨』


不意に呼ばれ、振り向けば蛮骨まで怯えた顔をしていて…。珍しいと思いながらも彼が指さす方を向く。すると土埃とともにこちらにやって来る集団が見えた。皆ドレスで着飾っていて一瞬キャバ嬢かと思ったが、顔を見れば明らかに違う類い。手短に言うとオカマ軍団であった。


『な…なな何!?蛇骨、あんた何したの!』

「分かンねェよ!どっからか湧いて出やがったんだ!」

「どうすンだ。戦うか?」


隣でパンチの空打ちを始める蛮骨。いやいや、何でこんな所で格ゲーみたいなことしなきゃならないんですか。とにかく現代で殺生沙汰だけは勘弁。ならば為すべきことは一つだけ。それは勿論…、


『逃げる!!』


オカマさんの魔の手が届く前に全速力で逃げる。至ってシンプルな行動だった。(本日2回目)


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