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ホゥホゥ。

ホゥホゥ。





「あ?」

じぃちゃんの不慣れな笑い方が聴こえた気がした。

あれ?とか思う前に無意識に振り返ってみるけども誰もいない。当たり前だけどじぃちゃんとは数日あってないからきっと寂しいんだろうなーって・・・・・・って俺のことだけどもな!

けども実際、ほんとぉぉぉぉに寂しいのなんのって!!誰も来ねぇ!!!女中さんとか飯届けに来るけどよ、それ以外さっぱりなんだよおおおお!!いや、昨日片倉さん来てくれたけれどもぎこちなーい会話で終わってよおおおお!おい城主!政宗!テンメェ、ちっとはこっちにこいやぁあ!!

とか愚痴っても誰も来ないモンは来ない。

じぃちゃんだって領主で偉い奴だったけれどもそれほど忙しそうにはしてなかったぞ。つまりと政宗だって暇してんだろ?絶対してんだろ?ぜぇえぇえったいしてる!!

障子を開けて廊下をキョロキョロと見渡す。そこには誰一人として歩いていない。

「・・・勝手にでーっちゃってーっもいーっいよねぇー・・・?」

これから悪い事をする子供みたいだ。悪戯心が疼いてくる。別に悪戯はしねぇけどよ!ちょおおおおっと部屋から抜け出して政宗んとこ行ってみるだけどもよお!




記憶力はそれなりに良くて昨日の道筋を辿っていくとやっとこそ政宗の自室にたどり着いた。つうか俺すごくね?超すごくね?結構似たような間取りばっかで迷いそうだったけどばっちしたどり着いた!俺、超すげえええ!!・・・自分で自分を褒めるってどうよ。


政宗はいるのか、と障子をちょっと開けようと触ると中から声。やけに真面目っぽい声で開け辛くなった。つうか何話てんだ?



「――――まさか本当になるとはな」


最初にはっきりと耳に入ったのは政宗の声。やけに落ち着いた声で話しているもので昨日との印象の違いに吃驚する。

その政宗の言葉に答えるのは少しばかり重い声の片倉さん。

「ええ。南部領内にて乱が起こるとは・・・」

「現当主の南部晴政・・・。味方っつう味方は先に取り押さえられ事実上の孤立、か」

「乱が起こったのは昨日ですが、孤立となると一日と持たないでしょうな。・・・・・・政宗様この事をあの者、つかさには、」

「No、伝える必要はない」


どういうことだ?
ついついその話を聞いて呆けちまった俺は目の前の障子が動いて政宗が俺を視ていることも認識できなかった。

数十秒と遅れてやっと目の前の政宗に気付いてゆっくりと視た。自分じゃない感覚に未だ会話の内容が入ってこない。なのに血の気は引いていき春だというのに冷たく感じる。

「―――――あ」

「つうことだ。こちとら東軍に対抗する為に同盟なり吸収なりしなくちゃあならないんでな、南部の内乱に乗じて吸収しに行く。―――テメェも来るか?」

言葉が出ない。

つうかなんなんだよいきなり来るか、とかそりゃあ行くに決まってる決まってんだよ!

けども、けどもよ、ウチが開かねぇんだ、喉元にまで出てんのに喉がすんげぇ乾いててなのに粘りつく感じがしてどうにもこうにも出やしねぇ。

内乱。じぃちゃんと信直とが。それっておかしくね?

確かにじぃちゃんの一人で戦にいく癖に不満だとか云々いってたけどよ、それって心配してるってことなんだろ?じぃちゃんを心配してるから言ってたことじゃねえの?それとも何か、心配してたのはじぃちゃんじゃなくて―――領地か?

心配してたのは、領地で。
領主一人で戦にでてるじぃちゃんに対しては不満で。

いやいや確かに不満に感じるとは思う。

思うけれども。思うなら思うで勝手に増援だとかなんかすればいい話じゃねえのか。領地を他に奪われるのがいやなら命令に背いても思ったことをすりゃあいいじゃねえか。それが良しならじぃちゃんだって咎めりゃしねえって!

なのに、自分でできることもしねぇで、全部じぃちゃんのせいにして、不満だから自分が領主になって治めるって!?

冗談じゃねえ!!

やっとこさ情報を取り込んだ俺の中からふつふつと怒りがこみ上げてくる。俺は言いたいことも言えねえ奴が嫌いだ!しかも言わないくせに何か起こると他人のせいにする奴が大っ嫌いだ!情けなかった自分を思い出すからな!!

「―――・・・来るに決まってんだろ!!」

俺が直接行って信直に引導渡してやんよ!!ついでにじぃちゃんにも説教だ!じぃちゃんだって悪いところあるんだからな!やっとこさ喉から飛び出した返事を聞いた政宗が勝気に微笑を見せると片倉さんに指示を飛ばす。

内容も言ってねえのに理解した顔で頷く。
以心伝心って奴か!

「OK!いい返事だ。小十郎」

「御意に」

俺の隣を横切っていく片倉さん。

目の前では相変わらずニヤッと笑みを浮かべてこっちをみる政宗がいて。あれだ、なんか気持ち悪い!

「な、なんだよ気持ち悪ぃ笑み浮かべやがって!」

「気持ち悪ぃったあどういうことだ、コルァ。お前、領地吸収した後、俺の小姓になれ!」

「胡椒?」

「・・・小姓だバーカ。喧しいが、よぉーく見ると顔が良いしな」

突然、顎をつかまれ顔間近に引き寄せられた俺は息が詰まる。

目の前にうつる隻眼に耐え切れずに咄嗟に押し離そうとしたが、その手を掴まれてしまう。小姓?小姓っつったら世話係だったよな。だったよな、だったよなああ!?顔が良いってどういうこった!顔がいいって男にいう台詞じゃねぇよ!!

あれ、いや待てよ!こういう時代の小姓って世話係の他に・・・。

「喧しいが性格も気に入ってる。威勢のいいテメェを、夜啼かしてモノにしてやり、ぃ痛ぇあ!!?」

こういう時代って確かセックスァァァ!も小姓の仕事の内だったよなあああああああ!この変態鬼畜城主めがああああ!!!っっざけんな!!!!

両手をふさがれたが頭は生憎動くので政宗の顔に頭突きをかましてやる。

そのまま鼻血でも垂れ流せばよかったものの反射神経がいいのか政宗の顎に直撃。それでも痛そうにしてたからざまああああああみろおおおお!!だ!


「俺とヤりたきゃあなああ!抵抗できねぇほどの状態にしてからにしやがれ!!つうかよ!出陣前にどんな話してんだゴルァ!!ぶっ殺されたいか!俺にぶっ殺されてぇえぇえのかああああ!!!」



「政宗様準備が整い・・・、如何しましたので?」


「いーや・・・なんでもねぇ。おい、つかさ!その言葉、忘れんなよ?」

その言葉忘れるなよって意味不明なこと言ってんじゃねえよ!

あれか?!
ぶっ殺されてぇかって言葉か。その喧嘩言葉、買いやがったのか!?喧嘩か!帰ってきたら喧嘩するってか、あぁん!?じょぉぉおおぉとうだゴルァ!その変態の癖、たたきつぶしてやるぁ!!




政宗のその言葉の意味など、一切わからずに未だ落ち着かない激情を身に宿して二時間後、俺は伊達領を出て南部へと向かった。



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