「―――ホウッ!」 「!」 そんな俺に呆れていた男の隙を見つけたのか、じぃちゃんはすぐさまに手の平から気を放出して飛ばした。 こんな瞬時にだすなんてやっぱすげぇなあ。けど、じぃちゃんこの角度だと男が避けたら俺が喰らう羽目になるんだけどな!わかってんのかね!いや、わかっててやってんのか!? 「――――、甘いぜ!」 そんな事を焦り思っているとまるでその通りに動くように男が横に跳躍して避けた。ちょっとおおおお!!避けてんじゃねぇよ!!無駄なイケメン野郎がああああ!!! 「―――ちょあっとぁ!!」 ダラダラと口元を濡らす鼻血を拭って直ぐに同じように横に転がり避けた。 微妙に足の先がチリチリ痛むような気がするのは気のせいにしておきたい。 そして地面が石で横転すると余計に痛い。 痛えぇえええ。こんの、じじぃめ。覚えて置けよ、テメェのお八つの団子にわさび練りこんでやるぁああああ! 「ぐぇ」 とりあえず起き上がろうとした時にいきなり襟首を誰かにつかまれ一瞬の浮遊感。 気がつけばまた石の地面に今度は尻から落とされていてまた痛みに悶える。最初に転んだ時のが一番痛かったけれども二番目に痛いのはこれだよ、こんにゃろおおおお。 「じぃちゃん!痛ぇよ!!」 俺を持ち上げ手元まで引き寄せた本人、じぃちゃんの背中へと叫ぶ。というかじぃちゃんを助けるつもりが逆に助けられ守られているという状態。 なんともなさけねえよ!つうか、じぃちゃん俺より身長低いくせに、年寄りのくせに!!んだよ、その握力はよぉおお!!? 「何用で参る。自ら御身魂仏の元へと捧げる云うか」 「いや、別に死にきたわけじゃねえよ!じぃちゃん大丈夫かなーって思って来たんだよ。つうかよ、じぃちゃん!怪我してんじゃねぇか!!血でてんぞ!というかなんで援軍よばねぇんだよ!ムスコ不満がってたぞ?」 「・・・・・・居候者には関係のないこと」 「!」 じぃちゃんの口からそんな言葉がでるとは思わなかった。 じぃちゃんは俺を助けてくれて住みたきゃ勝手に住めみたいな事で置いてくれて、それにじぃちゃん俺の言葉に耳を傾けていつも言葉を返してくれたからまさかそんな風に思っていたなんて思いもしなかった。 なんつうか、あれだ、暖かい所からいきなり極寒の地に放り出されたみたいだ。そこには誰もいなくて、話し相手もいなくて。 俺がヤクザやってて頭領やってるときと同じだ。親父の部下だった奴らに東京湾に埋められた時のあの、冷たさ。うん、冷たさ、絶望・・・感。それと一緒だ。 見放された時の気持ちだ。 「――――・・・そーかよ。そーかよ!へいへいそうですよねそうですよね!俺は一ヶ月ぐらい前に突然やって来た見知らぬ人間だもんなぁ!!そんな奴に身内の事にまで口出しされたくねえよな、関係ねえよなあ!!!」 見放されたならそれでいいや。別に。俺はじぃちゃんの為にまた生を授かったわけでもねえし、むしろなんで生きてるのかがわかんねぇぐらいだし。たまたま近くにいたのがじぃちゃんなだけの事だからな!別に特別なことじゃねえよな!! けどよ・・・関係ない人間だけどよ。 衣食住を保証してくれた恩人には大きな恩、返させてもらうぜ?俺は、曲がって腐ったヤクザは嫌いなんだよ!俺の部下や俺の父親殺した奴らみたいのなぁ!! 「―――――話は終わったか?」 敵さんといえど意外といい奴なのか話が途切れるまで待っていてくれたようだ。終わったよ!と睨みを利かせてやれば鼻で笑われた。未だに馬鹿にしやがってこの野郎!! 「おう、終わったとも終わったとも。でよ、お前もしかして独眼竜とかいう呼び名もってあたりする?」 歴史とか対してわかんねぇけどわかることはあるっちゃあるんだ。確かに馬鹿かもしれねぇけど、この時代には知らない事を知ってるんだよな。・・・この時代が俺の過去なのかどうかはしらねえけどな! 「Of coures. 」 「は?・・・あ、つうことはさもしかして伊達政宗とか?」 「ああ、そうだぜ?俺は伊達政宗だ。それがどうかしたのか」 「どうもしねえよ?ただ俺の"世界の歴史に同じ奴がいる"ってぐらいだな」 「An?・・・どういうことだ?」 そりゃあ、どういうことだになるんだろうなあ。 俺の世界に〜だなんてまるで頭のオカシイ人間か、または本当に別世界の人間とか考える。俺だって考えるな。特に前者を。ああ前者を考えるぜ!だけど、こいつ英語とか喋るし刀六本もっちゃってるし伊達政宗っつたら"伊達物"だからな。多分おそらくきっと後者に喰らいついてくる・・・筈? 地面から立ち上がると腰が痛くてしゃがみ込んじまったが根性で起き上がりじぃちゃんんの前へと歩み出る。 じぃちゃんが後ろで「下がれ愚者め」と言ってたけども関係ない人間が何をしようが勝手だろう?そうだろう?関係のない人間っつたのはじぃちゃんの方だ。だから俺は俺の好き勝手にやらせてもらう。 「だからよ、取り引きしようや。詳細が聞きたけりゃあ、"撤退しろ"」 その言葉に伊達政宗の見下していた目が竜の如くに鋭くなったのがわかる。 安全装置無しで絶叫系にでも乗ったかのような気分だ。殺気。俺が今まで味わってきたどんなものよりも深く恐ろしい殺気だ。俺、しょんべんちびりそう。 ちびっていい? だが断わる! 「ふざけた事いってんじゃねぇぞ・・・糞餓鬼っ」 「っふざけてなんかいねぇ!!餓鬼でもねえ!!俺は二十歳だ!!!!――――俺はな、未来の世界から来た人間なんだよ!だからお前のこの先の嫌ぁーな未来も全部お見通しって訳!!テメェがどんな戦にでるのか、勝つのか負けるのか衰退するのか繁栄するのか、いつ!どんな事で!死ぬのか!!全部ぜぇぇぇええぇぇんぶ!!俺は知ってる!!」 本当は知らないけどな!けどよ、嘘か本当かだなんて相手もわかんねえんだ。俺からしたら過去かもしれねえけどこの時代からしたら未来。確かめようがねえ。 「――――だからよ、撤退する代わりにテメェの足元でテメェが天下統一できるよーに未来人からの助言してやろうって言ってんだよ。お得だぞ?超お得だぞ?!俺、お前が知らねえこともたくさん知ってるわけなんだからなあ!例えば平和になった日本での政治の話だとか!天体の話だとか、日本の外の、外国人の話だとかなああ!・・・どうよ、この取り引き。テメェにとっちゃあいい話すぎると思うぜ?」 「Hn!嘘かどうかわからねぇし、上手すぎる話だかな!だけどな・・・その取り引き乗った」 不敵な笑みを浮かべる伊達政宗は獲物を捕らえた肉食獣のようだった。これで撤退してじぃちゃんの領地もしばらくは大丈夫だよな。 恩は返したよな。俺も、伊達政宗に負けじと不屈の笑みを浮かべてそいつへと一歩ふみよった時だ。後ろでじぃちゃんが俺の手首を掴んでその隻眼で見上げていた。 「許さぬ・・・」 「・・・・・・じぃちゃん、衣食住の保証の恩は返せたよな。結構楽しかったぜ?俺のろくでなしの親父よりもいいじぃちゃんだった。それだけは確かだぜ。だけどよ、俺も二十歳、いつまでもじぃちゃんにお守りさせてもらうわけにも、いかねえ!だからよ、達者にしろやじぃちゃん!」 「・・・・・・・・・・・・」 伊達政宗が部下に撤退の命を言い渡し、こちらへと追いついた兵を引き下がらせている中、じぃちゃんと俺の視線だけがいつまでも離れない。離れないじぃちゃんの手を無理やり剥がして小声で「悪ぃな」と伝え離れていく。 じぃちゃんは何も言わないで思い詰める顔で伊達政宗と一緒に去っていく俺をじっと眺めていて―――その後ろで光る球がゆらゆらと寂しそうにゆれていて。 俺もなんだか悲しくなった。 変な、もんだなあ・・・ [mokuji] [しおりを挟む] |