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伊達政宗に連れられてそいつの城に着くとすぐさまに牢屋にぶち込まれた。

しかもすげえ冷てえの。


床には何もひいてなくて石畳の冷たく硬い感触がじかにつたわり小一時間もたつと鳥肌がぶわぁと立ち続けていた。

監視人に布くれよ!とか抗議してみたけども棒でど頭叩かれて怒られて終了。

何、俺、何か悪いことしたんかよ!!

あ、やべ。しょんべんしてぇ。

「――・・・おい!しょんべんしてぇ!!」

「勝手にすればよかろう」

「いえ、いやはあ?!ここでしろってか?この牢の中で?そういうモンもねえのに!?しかもテメェの前で?!どんだけだよ!俺、視姦されろってか!?ああ!?」

「煩い!!人質の分際で!」

牢柵越しに棒が俺の首を、喉仏を思いっきり突いて来やがった。

先は尖っていないものの喉元に思いっきり突かれればそれなりに痛いし急な圧迫に咳が噴出す。衝撃で床に転がるとそのまま激しく咳を吐いた。

涙目。超痛いというかこれで喉仏潰れたらどうしてくれんの?喋れないとか嫌なんですけど。


―――――そんなかんだでしょんべんを我慢して一日が終わって次の朝早くに叩き起こされて外にだされた。

歩くたびに膀胱が緩んで漏らしそうになる。「しょんべん」つっても取り合ってくれないしよ。まったくなんなんだよこいつら。俺を膀胱炎にでもさせるつもりか?なったことねぇけどあれ結構辛いって聞いたぞ?

縁側の道角を曲がると、昨日戦場で出会ったヤクザみたいな厳つい男が待っていた。ギラッとその視線を向けてきて恐怖で膀胱がまた震えて危うくなる。いやまじでコレ危ういんだけど。まさかの失禁しそう。二十歳にもなって失禁とか嫌なんだけどお!

「ここからはおれがつれていく。下がれ」

「了解しました」

俺の手首を縛っている縄がその厳つい男へと手渡される。ここまでつれてきた兵がいなくなるとなんとも難しく重い空気が溢れて・・・それでも我慢しきれない俺はおそるおそると言った。


「なあ、おい。しょんべんしてぇんだけどよ、まじ一日中我慢して痛ぇんだけどよ、ホントマジで頼むからしょんべんしてぇんだよっ」


「・・・・・・はぁ。厠はこっちだ」


「!さんきゅうー!!まじ、失禁とか笑えない冗談だから助かる!マジで!いつか多分忘れてなけりゃあ恩返ししてやんよ!!」

「お前は自分が人質だということもわからないのか・・・。いいから、少し、黙れ」

「・・・・・・・・・スイヤセンしたっ」





――――・・・親父より怖ぇぇ。












トイレ・・・いや厠を借りて随分とスッキリした俺は軽くなった下半身に上機嫌で厳つい男――片倉小十郎の後をついた。ほんと、命の恩人だ。この厳つい顔さえなければ俺は絶対に、もっと好感をもてたぞ。

「・・・これから政宗様に会う。失礼のないようにしろ」

「あー、うんうん。けども俺、そこまで礼儀ってもん知らねえからとりあえずあー、敬語?使ってればいいのか?とりあえず挨拶先か?どーなんだよ。俺、この時代の礼儀なんてしらねぇぞ?しらねえったらしらねえ!」

「・・・どうやら無理のようだな。小僧・・・いや二十歳だったなお前は。首を飛ばされたくなかったら粗相のないようにしていろ。いいな。お前のためでもあるんだぞ」

「へいへいりょーかい」

「・・・。」

コイツ本当にわかってんのか?みたいな視線をされてとりあえず笑っておく俺。だって知らないもんはしらねえし!俺の為とか、いわれてもねぇ?ここでかっこ笑いとか入れてみたいぐらいに笑える。だって俺のためじゃなくて政宗の機嫌取りだろ?俺を生け捕りにした結果を無駄にしたくないが為のことだろ?

そりゃあ、首飛ばされるのは勘弁だろうけどよお。

知り合って一日としかたってない人間に、俺みたいな変な敵さん相手に優しさなんて持っちゃいねえだろ?俺は別に敵さんだろうがどうでもいいけどよ、この時代のお前らにとっちゃ敵さんほどめんどくさいものはいないだろうに。

呆れられたのか無言状態になって一つの部屋にたどり着いた。


「政宗様、お連れいたしました」

この部屋ん中に政宗がいんのかあ。とのんびり待っているとカモォーン、と無駄に発音のよろしい声。つうかなんでそんなに英語上手いんだよコイツ!英語なんてとりあえずイエスかノー言えれば良いじゃねえか!この時代でどうしてそんなに上手いのかが気になる・・・。

中に入れられると戦装束でなく青の着物を着た伊達政宗があぐらをかいてその片目で俺を視て笑う。

「どうだ、牢屋で一日過ごす気分はよ、"未来人"?」

こいつぁ、信じちゃあいないな。

けれども、それとは別に信じていないその言葉を面白がってそうだなー、手の平で転がして遊んでる気分なんだろうな。そういうのは相手みればなんとなぁーくわかっちゃいますよ俺。

だって毎日そうだったしなあ。いやー、あれはマジなかったわ。あんなのはもう、勘弁だな。ああ。勘弁だったんだけどな。

「しょんべんちびりそうになんのをどれだけ我慢したと思ってんだよ鬼畜城主さんよお」

「そのままちびっちまえば笑いモンだったのになぁ!」

「生憎様だな。俺はもう笑いモンだ糞野郎」

そりゃあ失禁とか勘弁だ。いやもう勘弁してくれって感じだ。

操り人形やってたもんでよ、失敗すれば相手にしごかれるは味方にもしごかれるわでよー大変だったんだぜ、頭領時代は。むしろそれらを耐えてきた俺は凄いと思うね。


「―――んで、ここまで呼んだのはなんだよ。用がないならもうちょいまともな部屋用意してくれよ。マジあそこ寒くてかなわないしよ!風邪引いたらどうしてくれんだよ!あー、俺なんのために取り引きしたのかわかんなくなってきたわー」

「嘘か本当かもわからねぇ、"未来人話"の取り引きに応じてやったんだ。それぐらいじゃあ安いほうだ。つうかよ、お前ホント馬鹿な人間だな。老い先短い男一人守って何になる?言っとくがな、南部領、近いうちに内乱が起こる可能性があるんだ。あそこで俺が支配してやりゃあ、身内で争わなくて良かったのによ」

「は?そうだったのか!?どういうことだよ、それ内乱って!もうちょい聞かせ、」

「・・・お前は本当に馬鹿だな」

「は?どういうことだ??」

どうして尋ねたことに対して馬鹿だな、とか言われなきゃならん!

あきれ返る政宗に対してわけがわからず首をかしげると後ろで控えていた片倉小十郎が「虚言に決まっているだろう」と同じように呆れの溜息をはかれて硬直してしまった。

え。
あれ。
マジで!?

「意味わかんねぇ!!そりゃあ、俺歴史とかあんま知らねぇけどよ未来人ってことは本当だぜ!?ただこの世界の未来人かどうかは知らないつうか違うだろうけどよぉ!!俺は確かに未来人で!海に沈められて!気がついたらじぃちゃんの所に――って俺の馬鹿あああああああぁぁあ!!」

ついつい癖で本心を全部吐き出してしまった!いや、ほんと、え、なんで俺!いつのまに!!みたいに?俺はついつい本音を吐き出してしまい、頭を抱えて蹲った。馬鹿だ俺。馬鹿だ!自分で全部ばらしちまったよおおお!!!!

「・・・・・・本当馬鹿な奴だな。どっかの甲虫思い出しちまった」

「同感でございます、政宗様・・・」

二人はツノのついた兜をかぶり、やや太っちょの小柄な身体、背中に鍋を背負う武将を浮かべていたが俺にはさっぱりわからず馬鹿馬鹿馬鹿ん!と呻くなかで頭の中にカブト虫を何故か一杯にうじゃうじゃと連想させていた。




そんなかんだでいつの間にか部屋を与えられて、衣食住を提供してくれた。


なんか、良い奴だな。お前らっ・・・!



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