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「晴政様!敵襲でございます!!」



そう駆け込んできたのはえーっと養子の信直の息子の利直だ!息子の晴継は病死してしまったんだと信直が言っててその信直は次期頭首になるんだとか。

それ聞いたときじぃちゃん子持ちなのかよおおおお!とか吃驚しちまったけどもこの時代じゃあ当たり前なんだろうな。

そんなかんだで年が近い、といってもまだ18歳の利直はじぃちゃんの所に駆け込んできたわけだが――――おあいにく様にもじぃちゃんはもう恐山に布陣張ってるわけだ。

なんでも死者の魂が敵襲の事をいち早く知らせたんだとかなんとか。

いや、さっすがじぃちゃんだ。


「晴政様は何処に?!」

「じぃちゃんならもう敵陣迎えに恐山いったぞ」

「なんと!晴政様はまたお一人で・・・」

唇を噛み締め俯く孫。この時代で18歳だともう成人してて立派な武士らしい。だがじぃちゃんは何を考えているのか戦ん時はいつも一人でいっちまうらしい。大抵は怪我しないで帰ってくるけども歳が歳だからもう少し労わって欲しいって信直は言ってたな。

年寄りになると頑固になるっていうからな。それに血のつながった息子死なしちまってるから養子といえどもう亡くしたくないのかもしれねえし。

「しょうがねえや。行っちまったもんはしょうがねえ。そん代わりに帰ってきたとき直ぐにゆっくりできるように準備するとかよ、敵陣がこっちにくるかもしれねえから守りを強くしてみたりとやってみたらどう、」

「居候にその様なこと言われなくてもわかっておる!!それよりも、貴様は晴政様のお部屋で何をしている!」

「なんもしてねぇよ。じぃちゃんと話してたら『亡者を増やしにやってきよった』つって飛び出して行っちまったんだよ。しょうがねえから留守番してるってこと」

「何もここでしなくてもいいだろう!自室へ戻れ!!」

何もそこまで怒らなくてもいいだろうに。無駄に広いからあまり自室いきたくねえんだよな。やることもないしよ。というか利直はなんでそんなに苛々してんだか。ああ、あれかせっかく武士になってまあまあ戦にもでてるのに未だに一緒に戦に出れないからか。それで怒ってんのか。おーおー怖いなあ。

けどよ、だからって俺に感情ぶつけんのは間違ってんだろうよ?なあ?


「へーへー戻りゃあいいんだろ。・・・俺に八つ当たりする暇あるんなら別の事しろ」


ヤクザ嫌だとかなんだとか言っても結局はヤクザの血が流れてんだ。しかも頭領もそれなりに長くやらされて意外とヤクザっぽくなってきちまったからな。だから今必要なことははっきりと言うぞ。

悔しそうな横顔を見せる利直。その横を通って廊下にでるとそこから視える恐山に煙が昇っている。布陣が落とされた合図、じゃあねえっぽいから大丈夫だろう。じっとみるとあの光の球がチラリチラリと光って見える。じぃちゃん頑張ってんだなー。



「・・・・・・まぁ、利直の言いたいこともわかるけどよ。利直本人がじぃちゃんに言わねえときっとずっと答えてくれねえだろうよ!」

後ろにいる利直に聴こえるようにはっきりと声を出して言ってやる。





―――――『不満があるなら本人に向かって口に出せ。打開策があるなら直ぐにでも口に出せ。口にださねえで後悔するなら口にだしてから後悔しやがれ。相手が、死んでいなくなる前にな―――――』




いつか父親に言われたことがある。父親みたくなりたくなくてよ、けども遺伝ってのはたいしたもんで話せばそれなりに似ちまうんだ。だから反抗して非積極的に無口になってた時に言われたんだ。

そん時は結果的に後悔すんならどっちでもいいじゃねえかよ、とか思ってたんだけどよ。いざ父親が殺されたってなると父親に対しての文句はい――っぱいでてきやがって。けれども父親、死体見つからなかったからよ死体の父親に対しても何も言えずに終わったんだ。

そん時になってやっと気づいたんだな。俺、ほんと馬鹿だよな。






けどよ、なんで今更んな言葉でてくんだよ。



なんかよ、んかさ、縁起悪くねえ?なんか今の戦でじぃちゃんが・・・・・・。








「―――、行くか」

もしかしたらもしかしたらかもしんねえし、行こう。もしかしたらじぃちゃん本当に危ない目にあってるかも知れねえし。そしたら俺、俺、帰る場所も居候できる場所もなくなっちまう。

じぃちゃんの所が一番気に入ってんだ!俺の居場所、とるんじゃねえよ!!

だから、敵さん全部ぶっとばす!!!




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