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「じぃちゃーん!」



ここはいつ来ても不気味な場所だ。

死者の魂がたどり着く場所、恐山。

この時代、恐山とは呼ばれはしていたが、死者の魂がたどり着く場所とはまだ呼ばれてはいない。その由来はこの時代より先の兵器を使った戦争後にマスコミが「死者の山」と広めたのがきっかけ。

とはいっても何故だかこの"世界"の恐山には死体が転がっていて・・・いやいやこれはとちらかというとじぃちゃんが"器"として利用するからそのままなんだけども、そのままだからこそ慣れていない俺にとってはかなーり不気味だ。

これでいきなり動き出したら俺、絶対失禁する。


荒れた道を登っていくとじぃちゃんがあぐらをかいて山の麓――下界を見渡している姿。もう一度声をかけても反応はない。まあ、これは慣れた。


「―――ホゥホゥ・・・何故命を奪うか」

表情こそ変わらないがその声は少しばかり重く寂しく感じられる。傍までよっても特に反応は見せないが俺がいることはわかっている。

「しょうがねぇよ、今、戦乱の世なんだろ?いろんな国がそれぞれの志を持って戦ってんだ。戦を起こすほどの強い思いはそう簡単にゃあ止まらないって」

「・・・命を奪う志、奪えど奪えど成就する事無し。なれば無意味にしかならん。悲しや哀しや」

「無意味、じゃねえと思いたいなぁ・・・」

じぃちゃんと同じように麓を見下ろす。実はじぃちゃんは南部晴政とかいって歴史とかあんま知らないけどあー、青森の領土を治めていた大名らしいんだ。じぃちゃんはあまりそういうの話さないから戦乱のこの時代で何しているのかとかさっぱりだけどな。

それでもそれなりのもんで、俺がここに来てから何処の国も攻めてはこない。山が死体だらけからかも知れないけどな。いや、それもきっとじぃちゃんの策の一つだ。


俺がこの世界にやってきたのは一ヶ月前。

東京でちょーっとした有名なヤクザ頭領の息子をやってまして、といっても親の事すんげー嫌いだったからヤクザの道になんて進まないし。夢がないからなんともいえないけどまあ現代っ子でのそんなもので、頭領つまり父親が他の組の人間に殺されたらしくて俺は頭領に祭り上げられちゃってよ。

勿論俺、んなの嫌だからって反抗したら今度は部下に脅されまして。ええ。頭領の息子がその部下に脅されるってどんな状況?ってな感じでね。それで夢ないけど彼女もいないしまだ二十歳の年齢で生きたいわけだから頭領になってみたらさ、実は父親殺した組に既に吸収されていて俺は前向き頭領として裏向き操り人形としてちょーっと危なっかしいものからかなーり危ないものまでやらされちまってよー。

最後にゃあ、用無しだ!とか言われて東京湾にコンクリートと一緒に沈んじまったって訳。死んだなー、って思ってたらなんかいつの間にかこの世界の恐山のお地蔵様に寄りかかって座っていたってね。

そん時、じぃちゃんに拾われた、いやなんか好き勝手にしろみたいな事を難しいのをぼそぼそっと言われたんで居候させてもらってます。


じぃちゃんの屋敷、結構和風で何処かの高級旅館みたいでよ、今は日課でやってるっていう鍛錬を見についてきてます。


「それよりじぃちゃん、鍛錬終わったのか?」

「応」

おう?おうおうおうおう、あれか否応の応か。ちょっと若い奴がよく返事する時のおう!を思い出して意外だなーとか思っちまったじゃねえか。応。・・・ということは終わったって事でいいんだよな。というか俺がじぃちゃんに追いつく前に終わったのかよ。そんな短い時間で終わるのか鍛錬って。

腰を下ろしていたじぃちゃんがゆっくりと起き上がり歩き始める。見た目結構歳いってるんだけどこれまた強いのなんのって。しかもイタコみたいな死者の声が聞こえて死者の魂を器に、器ってそこらへんに転がってる人間ね。そいつらに入れて生きかえらせるってんだから驚きだ。

一度みた事あるけども、ありゃーもう人間の業の域じゃねえよな。怪しい光の球がこうふわぁ〜って死体に入り込むと皆ゆっくりと起き上がるんだもんよ。どひゃあああ!つうかぎゃああ!!つうか驚いてじぃちゃんのちいせえ背中に隠れちまった。

しかもじぃちゃん、ニヤニヤ笑っててよー。ぐあああ!みたいな。


「んじゃあ麓の屋敷に戻ってお八つにでもしようぜ。聞けよ!今日よ、厨房の奴に団子の作り方教えてもらったんだぜ?つまり今日のお八つは俺の手作り団子だ!喰って驚けよ」


「成程成程、食せるかどうか・・・」

「喰えるに決まってンだろう!?」


「ホゥホゥホゥ・・・」

「信じてねえだろ!こんの糞じじぃいいいいい!」




そんなかんだでこの一ヶ月。意外とじぃちゃんと一緒にいるのは楽しくて戦国時代生きちゃってます。





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