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「つかさ!!」


制止の声も聞かずに先に走っていってしまったつかさ。晴政の安否が一番大事なのだろう。ついてこの屋敷を見てすぐに行ってしまった。政宗はそれを止める事無く、無惨な姿となった屋敷をみて、静かに「行くぞ」と歩き出した。



「――――政宗様、」

「つかさの事は放っておけ。どーせ後の祭りだ」

見てからして内乱はすでに終えている。

どちらが生き残ったのかはわかりはしないが、この様子を見ると相打ちだった可能性もある。気配はあるものの極端に小さい。死に掛けの人間か。その人間が晴政の可能性もある、が。

生きていたとしても南部領は伊達に吸収される。吸収されなくとも復興には長い時間がかかるだろう。晴政はそこまで若くない。最悪、血の繋がりも縁のない人間が領主となるだろう。

ならば、伊達に、政宗に支配されたほうが良いだろう。




中を歩み続ける。人の気配が感じるほうへと注意を払いながら歩いていく。

時々、あの晴政の術・・・否、晴政に集る"魂"が彷徨っては行くあてをなくし消失していく。その様はまさに生命の終わりを見せていくようで不気味さに身をふるわせた。



生き残りがいないかを探っていく中、ひとつの部屋の前を通りかかるとそこにはつかさがいた。


仰向けに寝かせられた南部晴政ともう一人、政宗より少し若い武士が同じように仰向けに寝かせられていた。それらに寄り添うように片膝を曲げてだらしなく座るつかさは静かになった中で溜息をはいていた。



「あぁ・・・疲れたなぁ」



それは何に対して疲れたのか。肉体的にか。または精神的にか。両方か。

つかさの喧しいはずの口元は小さく笑んだままで静かだ。つかさのその活き活きと開いていた目は眠たそうだ。数日間といえど部屋に住まわせたのだ。あまり会いはしなかったが執務の合間に見ても、話を聞いても喧しいだのそわそわして落ち着きがないだのそんな事ばっかりだった。

喧しいのはそこまで好きではないが、何より、全てにおいて正面見据えて生きる事をやめないその姿が気に入っていた。頭は悪いが人生に対しては聡い人間だった。

しかしどうだ。
目の前のつかさはとても大人しく静か。怪我もしていないというのに風前の灯のような雰囲気だ。それほどまでに南部の存在が大きかったのか、強かったのか。

何故に、どうしてそこまで南部の事を強く思っていたのか。






「南部晴政は死んだのか」


奴にどうして惹かれていたのか気になる。

「・・・応、死んじまった。俺、言いたいこと一杯あったんだけどなぁ」

そうしてやるせなく笑う。

「んだかなぁー・・・。じぃちゃん、俺の親父に似てるところあったんだよなー・・・それで親父の嫌なところもってなくてよ・・・ファザコンとか言うんじゃねぇぞ?ファザコンじゃねぇからな?マザコンだからな?つってもそのマザーなんざ生まれたときからいなかったけどなー」

「・・・・・・。」

父親に似ている。そして父親として嫌だった面をもっていない。つまりつかさにとっては晴政は理想の父に見えたというわけだ。敵に父親を殺され、吸収され人形として操られ、最後には海に沈められる。

つかさは無意識のうちにその厳しい現実を耐えようと父親という影を追っていたのかもしれない。

一番身近な存在の、安心できる存在の隣にいればきっと耐えられると考えたのだろう。

しかし未来人という彼の知り合いはこの世界にはいるはずもなく。

父親に似た晴政に拾われ無償で衣食住を与えられた事によりこの世界での絶対的安心を得ることができた。


そんな存在が消えうせた今。
つかさの心中にあるのはもはや器に収めることのできなくなった"絶望"か――――

「じぃちゃんも馬鹿だったよ。身内なんかと争いやがって。馬鹿だよ、ホントなぁ。馬鹿な奴ら。馬鹿だ。・・・・・・俺も、馬鹿だな。いつまでも生きやがって。前も言った気がするけどよ、俺この世界くるまえ重石つけられて海に沈められたんだぜ?しかも親父の部下だったやつらに、不要だってよ?・・・まさにその通りじゃねぇか」


ハハハと乾いた笑い。大切なものがなくなった。それを守れなかった。大切なものが死んだ。大切な思いも、言葉も死んだ。なのに傷ひとつなくまだ生きている。何も守れなかったのにのうのうと生きている。不要だ。何もできない奴なんて不要だ。


つかさはもう一度、大きく重い息を吐き出すとゆっくりと立ち上がった。


「政宗も、もう用はねぇだろ?帰ろうぜ」


大切だった者の亡骸をもう見ずに、そこらへんに転がる死体と同じように何も思わずして政宗をと小十郎をみる。

二人に向けて見せる笑みは、瞳は、全てを諦め外枠からただ眺めるだけのものだった。




そんな彼に数日ほどしか住まなかった二人が何かを言えるわけもなく無言で頷くしかなかった――――――






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