"親の言うことが聞けない子なんか早く死んじゃえばいい!" "私達は悪いことしてないのに、そうして泣いて被害者ぶるんだね最低!" だから我慢する。 泣かない。わがまま言わない。従う。 それでも傷つく。 "さっさと殺しちまえばいい" 心の奥にいる我慢という檻にに閉じ込められた思いは言う。 その鍵はあたしがもっていて、だから絶対に出さない。 なのに、その檻の前から離れられない。 その思いに依存している。 "嘘吐き" "本当は、ただ、――――だけのくせに" 認めない。 けれど、そこにいてほしい。 そこで喚くあなただけが、あたしを嘘に変える真実になるから――― 3.そして、笑むだけ 夢はみなかった。 軋む小さな音に反応して意識が浮上した。冷たい頭の痛みに耐えながら目をゆっくりと開けば白いつなぎにPENGUINとかかれた帽子を被った人がウミを見下ろしていた。 結局夢じゃなかったんだな、と呆然として見上げていると「起きろ」といわれた。 力の入らない腕をなんとか動かして起き上がる。体が重い。頭が痛い。気持ちが悪い。胃の中が気持ち悪い。吐いてしまいそうだ。けれど吐いてはいけない。 我慢しなければいけない。 このぐらい耐えられる。 だから我慢する。 「・・・」 「殺しはしない。ただ、逆らえば痛い目にあう」 「・・・(イタイのやだな)」 「次の島につくまで大人しくしていれば何もしない。わかったな」 「・・・・・・は、い。あの、聞いて・・・いいですか?」 「なんだ?」 「・・・・・・酔い止め、持ってませんか?」 「・・・あとで他のクルーに持ってこさせる」 「ありがとうござ、います」 「・・・・・・ああ」 気持ちが悪いのを我慢して感謝の言葉と共に微笑む。 暫くの間があったが、きっとうまく笑えなかったから少し機嫌を悪くしたのかもしれない。けれど今の状態ではこれが精一杯で、だから、どうか、痛い目にあわせないでくださいねと心中で願っておく。 胃の中がもっと気持ち悪くなった。 ――吐かない。 吐いてはいけない。 けれど、酔うのは辛い。 どんなに我慢しても、その辛さのほうが勝っていて我慢が出来ない。それに負けて酔い止め薬を貰う自身はとてもわがままでしかない。 帽子を被った男は出て行く。ガチャリと施錠の音を確認して直ぐにウミは力尽きて床に崩れ落ちた。気持ちが悪い。横になって目を瞑ればいくらかマシになる。心なしか息も荒くて吐けたらどんなに楽になるだろうかと思う。 それでも吐くのは嫌だった。 ここは見知らぬ人の船で、怖い人達がいて、だから吐くことさえもわがままのうちで迷惑極まりない行為で―――― "死ねばいいだろ" "早く死ね" "そうすれば楽に" 「―――・・・」 死んでどうにかなるのか。どうにもなりはしない。ウミは手首を掴んでは爪を立てた。引っかけば痛みを感じ、それでも止まらない。痛いのに痛くなかった。この胃の気持ち悪さも見知らぬ世界に存在してしまっている自分も気持ち悪くて、世界が怖い。 引っかいた手首に熱がこもる。それがまた嫌になった。 熱いのは好きじゃない。 ウミは手首に噛み付いた。 肉の弾力、さきほどとは違う痛み。微かに届く血の味。 それの痛みに満足したウミはゆっくりと手首から口を離して頭を抱えて丸くなった。 どうしたら帰れるだろうか (けど、帰りたくない) 施錠がはずされる音。 咄嗟に手首が見えないようにして反対の手で隠して見上げるとここへと放り込んだ白熊がいた。 「あのね、酔い止めの薬」 「・・・ありがと」 白熊なのにどうして喋れるんだろう。どうして橙のつなぎを着ているんだろう。疑問はいくらかあったけれど意味がないような気がした。手渡された薬。そしてウミが最初手に持っていたのとは違う暖かいパンと水。 渡された食料の意味がわからなくて白熊のベポを見上げた。 「その薬強いから、何か食べないと大変なんだ」 「そうなん、だ・・・。ありがとうございます」 「うん、どういたしまして!」 白熊なのにとても嬉しそうに微笑むのをみると気が抜ける。やはり動物だからだろうか。ウミはもともと動物が好きだ。だからこそ余計に目の前の白熊が可愛らしく見えてしまう。よってウミはその反応に円満の笑みをみせたのだ。 そして笑みによって白熊のほうも気が抜けたのかまた笑う。 「俺ベポ。よろしくね!」 「・・・あたし、ウミ。よろしくベポ」 少しだけ、この世界にいる恐怖がほぐれた気がした。 (ダイジョウブ) (怖くない) (ベポが笑ってくれるから) [mokuji] [しおりを挟む] |