どうして、オレ達だった。 どうして、ウミだった。 9.5.跨いだ境界線 ―――違う世界からやってきたウミ。 最初こそオレは、突然現れたウミに対して悪魔の実の能力か、あるいは他の原因かでここに飛ばされたのかと思った。世界と違う世界の境界線を、ではなくて空間を飛んできたのかと考えていた。 服装もコック服で何処の島にもいそうな姿でいたからこそ、その考えが確かなものとばかりに思っていた。 だが、実際はその思考のさらに上を行っていた。 "異世界"からやってきた。 真偽はわからないが、嘘をついてどのようなメリットがあるかを考えると――それは本当なのではないかと思った。確かな証拠もなにもないが。 「・・・帰れるといいな、か」 その言葉を吐いたとき、コーヒーを飲んでいたのにも関わらず喉がカラリとしていた。そしてウミの表情を見ることを望まなかった。 ――オレは柄にもなく、別れを惜しんでいるのか? ペンギンと別れ、自室に篭るオレは、最後に出てきた疑問にあろうことか口元をゆがめてしまった。気をそらそうと目線をずらせば皺だらけの一枚の紙。鉛筆で描かれた海王生物の絵。 ウミは、これを見られるのを、あげるのを大層嫌がっていた。オレだからじゃなねェ。他人に見せるのが嫌なのだろう。 そういえば、オレはウミのことあまり知らな―――― ・・・馬鹿か? 「知ってどうする。」 自身へと言葉をぶつけた。 突然やってきたウミは、敵のバラバラ死体にも悲鳴をあげなかった。その黒い双眸には何もうつっておらず、だからそれに興味を持った。恐怖を知らない女にオレという恐怖をじわじわと植えつけてやろうと。だから倉庫に閉じ込めて"恐怖"を知らないであろう女が反抗してくるのを、そして痛めつけて、殺してやろうと。そう、思っていたはずだったのに。 いつからだ? あの手首の傷を見たときからか? 結果的に殺そうと考えていたというのに? 恐怖を感じる心があって、それを自傷をしてまで我慢していたからか? 身を守ろうと敵と戦ったからか? 腕に大怪我を負ったというのに名前を口にしたからか? 自分の船に乗せておきながら守れなかったからか? 違う。 違う。 なら、オレは何に魅かれた? どうして興味をもった? 目。 それに最初興味を持ったのは間違いない。 だが、興味をもっただけでそれ以上はなかったはずだ。 じゃあ、何でだ? 「―――・・・」 ウミの描いた絵。 白黒だけで描かれたそれは芸術という個性的な部分が添えられていない。それでも普通の摸写とは違う気がして、摸写なんかよりも現実的な絵は今にも動き出しそうな気がして。 知りたい。 映さないあの目。 絵を描くのが好きな理由。 これからのあいつ。 この世界でどうやって生き延びていくのかを。 ――――。 「・・・・・・どうせ期限付きだ。せいぜいどう足掻くのか見てやる」 (認めない) (こんな気持ち) (認めない) [mokuji] [しおりを挟む] |