ついてくる



人というのは障害物に隠れている存在をやけに怖れるのだそうだ。

電柱の裏に隠れている存在。体全体は隠せなくてちょろちょろと見える体躯。そして、こちらを監視するように顔半分を覗かせる。昼間でさえそれはちょっとした、いや、随分な恐怖だろう。見知らぬ人ならば余計に、だ。

普通の話よりも恐怖を感じたいなら、そう部屋の中なら、窓の枠端を、ドアの端を、ベッドと床との間、外ならばちょっとした人の家の玄関脇、電柱、次の曲がり角に、と想像しながら読むのが良いだろう。鮮明に想像できたなら、もしかしたら本当にそこに本来見えないはずの"何か"が覗いているのかもしれない。








この間、怖い話好きの先輩と心霊スポットなる所に行ってきた。

といってもネットなどで拾ってくるスポット情報らしくて半分ほどが嘘。そして気のせいで終わるらしい。そして、何故そんなことがわかるかというとその先輩"霊感"が強いのだそうだ。先輩と知り合いになってから会話の半分が体験談や地元のちょっとした危ない場所、そして現在進行形での心霊話。

けれども俺は神経が図太い方で、先輩と一緒に居ても特に何も感じないし何も起こらないわけで、深く信じてはいなかった。ああ、そうなんだ、へー。そんな信じる信じない以前のどうでもいい気持ち。

で、この間行ってきた心霊スポットは身近なトンネルでそのトンネル脇に無縁仏が荒れた状態で置かれている昼間でも人気が無くて湿った感じの場所。トンネル内の距離はさほど長くなくて歩いて三分もすればもう外にでる、という短さ。ちなみに自転車だと一分。




そんなトンネルの前にたどり着いた俺と先輩は湿った暑さで滲んだ汗をシャツで拭い取り一目見た感想を言い合う。昼間事前に見に行ったときよりも気味が悪く見えるのは街灯が少ないからか。



「俺、何にもわかんないんすけど、先輩は何か見えるんすか?」

「いやー、見える見えるバッシバッシ見える。ここまで一杯見えるってのも凄い」

そう薄く笑う先輩も何処か君が悪く見えた。それもきっと街灯が少なくて薄い闇の中でみたからだろう。先輩から目を逸らしてまたトンネルをみる。俺から見たらちょっと薄暗くて気味の悪いトンネルというだけで別に何か見えるとかそんなのはない。

視界の隅に先輩の手が映った。その手の指先はビックリマークの入った三角の道路標識をさしている。ああ。そういえば前に先輩言ってたっけ。あの標識はこの先注意という意味のほかに"幽霊に注意"という意味合いもあるって。大半は普通にこの先注意の意味合いだが、対して危なくない道路等に置かれてる場合、原因不明のトラブル等が多いのだとか。

ここのトンネルもそうなのだろうか。けれども俺的には街灯が少ないからの注意標識だと思う。それにここで事故が起こったっていう話は聞いたことが無いし。まあ、もともとここのトンネルは古いし、位置がわるいから通る人なんてよっぽどいない。むしろトンネルの意味あるの?と思いたくなるくらいに。

「ここは街灯も少ないし人通りも少ないからただ単に暗闇注意とかそんなん為の標識でしょう。」

「まあそれが普通だけど。他に原因ってのがあるんだな、これが」

「?」

他の原因?と首をかしげる。その原因ってなんですか、と尋ねようとしたが先輩は歩き始めてトンネルのまん前へと一度足をとめた。俺もそれについて行き同じように足をとめる。出入り口前で止まると風がトンネルを響かせ音を鳴らす。まるで警告音をならしているかのようだけれども、俺は図太いのでそんなの気にしなかった。

「ここ夜になるとほとんど人通りがなくなるだろう?昼はまあお年寄りやら何やらが散歩で通ったりするんだけど、夜になると歩行者はパタリといなくなる。なんでだと思う?」

「ただ単に夜で、街灯が少なくて薄暗いからでしょう。今の世の中物騒ですし。それに、この深夜に何も無いところをうろつく人なんてそうそういませんよ」

その"そうそう"の中にはいっているのが勿論俺らだけれども、俺だって先輩に誘われなければこんな深夜になんて出掛けやしない。その当たり前な回答に先輩は確かにそうだ。と頷いて笑った。

「よし、じゃあ歩こう」

「うい」

先輩が一歩踏み出した。俺もそれに習い踏み歩く。空の景色がトンネルの天井で見えなくなって代わりに風の音だけが弱く中で反響する。歩くたびに風音に混じって足音がトンネル内で同じように反響。このトンネルそんなに長くは無いのに響きがいい。オレンジ色の蛍光灯が淡く俺たちを照らした。途中先輩が小声で俺に声をかけてきた。

「すげえよ。後ろからわんさかついて来る」

「何がですか?」

「・・・お前、それ冗談?何回俺と心霊スポットいってるわけ?」

「あー、はいはい。俺には見えないんでなんともいえないですねえ」

「見えなくても人間ってのは霊感もってるもんなんだぞ?ここ歩いてるだけでも結構ヤバいからさすがの"お前"でもなんか感じることあるんじゃないの?」

「残念ながら」

「あーあ。お前ほんと、図太いよな・・・」

「それは俺が一番わかってますって、あ、ほら抜けますよ」

会話しながら進んだからかそう長くは感じなかった。トンネルを抜けて月の見える景色が俺たちを見下ろした。先輩はトンネルを抜けてすぐに後ろを振り返る。そしてうげーと息をもらした。

「なんだろうなー、あのトンネルがなんか結界代わりにでもなってんのか?」

「なんですか?」

「ん、俺たちの後ついてきた奴らトンネルから出れないのかパントマイムみたいにトンネルと外の境目叩いてる。うひょー、あんだけぞろぞろ家までついてこられたら怖いわー・・・」


どう想像していいのかわからない。ので、とりあえずテレビゲームのゾンビがトンネル前で密集して空気の壁を叩いてる想像をしてみる。ああ、こりゃあ怖いなと笑った。実際はもっと怖いのかもしれないが先輩の言うとおりならあそこから出れないというわけだし、この先の被害はないということだろう。いや、被害が及んでたら先輩とこんな事をしていないか。

その後、いつも通りその場で別れる。先輩はそのまま道を歩いていき、俺は、このトンネルを通らなければならない。そのことに気付いて先輩を呼び出そうとしたが、通るくらいだし、結界?みたいな役割があるみたいだから平気だろう。俺はその日、トンネルを通って家に帰った。









家に帰る。

両親は既に寝ていて寝言を言っているのが聞こえる。玄関の鍵をしめて台所へと行くと冷蔵庫からお茶を取り出してそのまま飲む。先輩がいても、何も感じなくても、緊張してしまうのにはかわりなくてのどが渇く。ある程度、飲んで落ち着くとそのまま部屋へ向かった。風呂は明日一番にはいろう。そうしてひきっぱなしの布団に寝転がる。携帯をいじくる。そうしているうちに俺は寝てしまった。

再度、目を覚ますと、電気は消えていた。きっと親が途中で目を覚ましてつけっぱなしの電機を消したのだろう。開きっぱなしの携帯を見る。時刻は三時半。夏だが、まだ日が昇る様子は無い。眠気が残っている俺はもう一度寝ようと寝返りをうった。

足がみえた。



「―――――ぁ?」

足だ。勿論、俺のであるはずがない。まっすぐ伸ばしているのだから見えるはずが無い。ならそれは誰の足か。親か。親の足か。ありえる。この時間帯ならそろそろ母親が目を覚ます頃。だが、不思議と足の上を、視線を上に上げることができない。いや、あげないほうが良い。妙な緊迫感で目を閉じることもできない俺は、浅い息を繰り返しながらその足をじっと凝視し続けた。

足が二本。足が四本。足が六本。足が八本。足が十本。足が十二本。足が十四本。足が十六本。足が。足が。増えて。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足が。足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足足――――――――・・・



















『まず一つ目のニュースです。×県○区のとある民家で一家で謎の変死体が発見されました。何者かに暴行を加えられたのか身体中に手足の痕がくっきりと残った痣があり、警察側によると複数の犯行の可能性がある、ということで、まだ犯人は見つかっていなく、手がかりとなるものもないということです。では次のニュースを・・・』





-------
まさに"行きはよいよい帰りは怖い"です。
過去にもこの墓地で悩まされていてきっと誰かがお札で閉じ込めたのでしょうがトンネル開通により片方のいお札がはがれてしまい、先輩と抜けた方向の出入り口は平気だったが、その反対側にはお札がないからついてきちゃった、とかそんなノリ



  

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -