<アイの巣> (ここから先、立入禁止!) 「明智さん!明智さん!大変です、大事件です!!」 、と部室のドアを慌てて開けてきたのはつかさ。部室の中では明智が医療学本を読んでいた。 読みやすいように、とつけていた眼鏡がはずされて視線がつかさへとむいた。 「なんですか?とうとう蘭丸がニートの使徒になって窓から飛びましたか?」 「明智さんこそ窓から飛んでけば良いと思います。というか蘭丸くんあなたと違ってバイト頑張ってますから」 肩まである乱れた髪を手で整えておおきく深呼吸するとドアを閉めて控えめな声に真顔で話し出す。 「実はですよ?………あの幸村くんに彼女ができたらしいです」 「ありえませんね。あの真田幸村ですよ?一に破廉恥二に破廉恥三四も破廉恥五に破廉恥、の幸村ですよ?」 「そうなんですけど!本人も否定しないし、というか顔真っ赤にしながら緩む口元を必死に抑えてるあの顔むかつきますけど!あたしなんか一回も付き合ったことないしというかというかまさかの幸村くんに先越されちゃいましたし……はぁ」 「そうなんですかそれは良かったじゃないですか」 「何が良かったんですか!?」 適当に椅子に座る。話したい事を話せてすっきりしたつかさはぐてん、と机に伏せって力を抜く。 次の内容は愚痴。 「あたし一回も告白されたこともないですし…いや、容姿が平凡過ぎすものね。当たり前ですよね。あー…胸だってちっこいし背だってちっこいし……ぅあー」 「…わたしは貧乳が好みですご安心を」 「いや明智さんの場合、貧乳以前に同性好みでしょ?織田先輩の奴隷してるじゃないですか」 「仕方ないですよ。信長様は本当に最高ですし、棺にいれて崇拝したいぐらいですよ」 「…どこの黒魔導師ですか。何を召喚するつもりで?」 明智はつかさから見たらひとつ上の先輩だが部員が二人だけということもあり先輩後輩仲よりも同学年仲に近い。 この部活自体、あってもなくてもいいようなもので顧問も部長である明智も適当。 結果、新しく部員が入ってもやめていってしまう。 「第六天魔王でも召喚してみたいですねぇ。……あぁ、つかさ忘れてましたがこの部活消されますから」 「え」 伏せっていたつかさの顔が上げられる。明智はそんなつかさを見て何とも思わない表情で眼鏡を付けてまた本を読みはじめる。 「ど…どうしてですか!」 「簡単じゃないですか、つかさ。規則で部員は五人いなければ部活として活動してはならないんですよ?顧問も放任、貢献したわけでもなし」 「けど、……」 そこで言葉をつまらせ黙ってしまう。 互いの沈黙。 「…わたしとしても、いい暇つぶしになるぐらいでしたからね」 「!」 その言葉に反応してつかさは立ち上がった。勢いよくたったつかさは椅子をおもいっきり後ろに倒してしまう。 しかしそれよりも今つかさの心をしめているのは、悲哀。 「―――…どうしてそんな事を言うんですか?」 悲哀が目を滲ませ涙を零していく。 「…あたしこの部活にはいらなければ明智さんと話す機会なかったと思います」 「…そうですね」 「明智さんを…好きにだってならなかったはずです!」 「…、…」 「あたしこの部活がないと………明智さんの隣にいられない…」 学年が違う。時間も違う。会いたいのに会えない。部活という時間がなければ遠くなっていく。 それが嫌だ。 拭っても溢れる涙。そんな彼女を見て明智は薄く笑みを浮かべてフフフと笑った。 「何がおかしいんです――――、」 「嘘に決まってるじゃないですか。馬鹿ですねつかさは」 「え、…っ」 滲んだ視界で明智の顔が近づいてきて唇に軽い圧迫と感触。 それが唇で、それがキスだということにはしばらく時間がかかった。 「――…幽霊部員は沢山いるのでまず消さされはしませんよ。だから、いつまでも側にいれば良いと思いますよ?」 明智で甘話……だと?(笑) [*前] | [次#] |