彼を見たのは夜中だった。 高校生らしく夜遊びをした私は睡魔に目をしばしばとさせられながわ家に向かっていた。 都心に近い地元で路地裏が多く私は早く家に帰るためそのうちのひとつを利用したのだ。 暗いが慣れた目だと歩ける程度に見えるから以外と平気だ。 そう路地裏を歩いていたら液体がビチャビチャと地面に零れる音が突如と聞こえた。 「―――――…?」 夜中のため良く聞こえるその音はこの先から聞こえるもので誰かがゲロでもしたのだろうか、だとか水を捨てたのだろうかぐらいの軽い気持ちで歩く。 すると朧げながらに人影が二つ映り、ツンときた鉄錆のような匂いに足をとめてしまった。 片方の人影がゆるりと動いたかと思うと、ドサリと倒れてしまう。しかも倒れてそのままで片方は起こそうともしない。 その先の闇の光景に不思議とゾクリと奮い立った。 ―――――闇の向こうでは、一体何が起きているのか… その答えにたどり着く前に思考は考えるのをやめて言葉にならない単語が行き交う。 自分が何を考えているのかわからない。だが、きっとわからなくていい。わかってはいけないのだ。 何故なら。 何故なら―――――…… 「アンタは何も見なかった」 いつの間にか抱きすくめられ耳元で囁かれる声。 腰に尖った"何か"があてられている。 動けば刺さりそうで背をのけ反り相手に縋るように服をにぎりしめていた。 「約束守れるなら殺さないでおいてあげる」 そう囁く声は非常に優しい音で、そして狂っていた。 ―――――――気がつけば家にたどり着いていた。 今、こうして生きているということは私は"秘密を守る"と約束をしたのだろう。 他人事のように、ドラマを見ているかのような感覚のまま風呂に入り、布団に入った。 そしてそこでやっと恐怖を感じはじめた私は一人泣き続け、夢の中へと落ちていった。 それにしても。 どこかで聞いた声だった。 「…………」 私は机に伏せり昨日の事を、あの彼の事を考えていた。 そうどこかで聞いた声。 …学校で、教室で聞いた気がする。 顔も姿も浮かばないのにケラケラと高校生らしく笑う声が脳裏でずっと響く。 誰だったか。 「―――おっはよーさーん♪」 教室に響くようきな声。 その声が昨日のあの存在の声を同じで仰天さに立ち上がってしまった。 椅子が倒れガターン!と音が響く。 まずい、と椅子をたたすために後ろを振り返るといつの間にか陽気な声の主、猿飛佐助が立っていて――――… 「女の子なんだからもうちょっとゆっくり立とうよ〜…ね、つかさちゃん?」 ヘラりと笑みを見せるが目元だけは笑っていないむしろ極寒の如く厳しい視線で椅子を立たせてくれた。 「あ、あ、あ、あり、ありがと!!」 「どういたしまして。」 そこで佐助がドンマイと肩を軽く叩いて… 「―――…昼休み屋上で待ってるから」 蜘蛛の巣にかかった蝶の気持ちがわかった気がした。 私はきっとこれから波乱続きの学校生活、最悪の場合命を――――いや、今はまだ考えるのはやめておこう。 今はただ、彼の正体を口にしない。 それが一番重要な事なのだ――――― <蜘蛛に命を握られた蝶> (死ぬも生きるも彼次第!) [*前] | [次#] |