醜いは奇麗。 奇麗は醜い。 ヒトの形は―――――― ―――――汚い… 『愛された生き死体』 (進まなければならない事を忘れてしまえ) 火傷による皮膚の爛れで所々ひきつった身体。 片面に刀傷があり女としての価値を無くした顔。 そして、 誰も映すことのない生気のないガラス玉のような目。 まさに生きた死体だった。 明智光秀は夜な夜な彼女の元へと足を運ぶ。 これを拾ったのは数日前、襲撃に入った城の座敷牢に繋がれていた存在である。 その時から傷はあり、何処のものなのか、何故座敷牢にいるのかは一切わからない。 ただ、浅く呼吸をし人形のように彼女は口を開かず、微動だに動かなかった。 明智は不思議と彼女のその存在が胸のうちにすとんと落ちていき"欲しい"と思った。 そして今にいたるのだ。 「"つかさ゛―――貴方は今日も奇麗ですよ…フフ」 さらりと髪を優しく、すく。 少し強く乱暴に扱えばすぐに壊れてしまうかのような彼女が綺麗で、奇麗で仕方ない。 つかさを起こし開けきった障子の先の夜空へとゆっくり顔を向けさせる。 「御覧なさい。今日は赤くて綺麗な狂月です。」 「………。」 返事はない。返事など期待はしていない。する意味がないからだ。 つかさの向きを安定させるために首を押さえる手に力をこめたくなる。 この細い首をへし折ってみたい。 このか細い息を止めてしまいたい。 本当は、完全に壊してしまいたい―――… だが、壊した後のことを考えると胸が詰まりつかさを渇望してしまう己がいた。 つかさがいなくなった日々ほどつまらないものはないのだ。 「あぁ……、つかさ、つかさ、つかさつかさつかさつかさつかさっ……!!」 恋だなんて。 そんな甘いものだとは思ってはいない。 これは、そんな生ぬるいものじゃない。 これは抑制のきかない"依存"だ。 明智は壊れない程度に首を絞めた。 悲鳴を洩らさず、恐怖さえも見せない虚ろの瞳が興奮をさそう。 「つかさ、奇麗ですよ。とってもとっても奇麗です。あぁ……」 壊したいというのに、壊したくないと願う己がいる。 矛盾している。 それでもいい。 今はただ、 飽きる迄、心の奥底にずっと閉じ込めておきたい。 [*前] | [次#] |