さんじゅうなな

名前変換無

いや、片方はゾロアだ。

「ん?ゾロア、本物のムンナはどっち?」

その問いに双方は答えない。それどころかその反応を楽しむように互いに位置を変えてはトウヤをみた。額からあがる藤色のゆめのけむりがゆらゆらと揺れる。

「・・・もしかして、どっちが本物か当てなきゃダメ、な感じ?」

化けたゾロアとムンナがくるりと一回転して肯定した。そっか、と短く言葉を吐き出したトウヤはたった数秒二匹をじっとみるとすぐさまこっち、と左側のムンナを指差した。その短さに驚いたのか左側のムンナがボワリと大量の煙を吐き出した。

右側のムンナの形が崩れて黒毛に赤もようの入った小型のゾロアへと戻った。ゾロアが綺麗に着地すると面白くないという顔を見せると勝手にボールの開閉スイッチを押して中へと戻って行ってしまった。本当に気難しい子だ。

「むふふん。俺はこういうのは得意だからね。確かにゾロアのあの能力は完璧すぎて見分けつかないだろうけども目つきはそうそう変えられなかったみたいだね」

ゾロアはいつでも強気でトウヤに対しては"気に喰わない"とでも言いたそうな挑戦的目をしている。ムンナに変化して可愛らしい目になったけれどもそれでも目に宿った"思い"は変わらない。それに直ぐにわかったのはそんなゾロアとは対照的にムンナの瞳がのんびりと、ふんわりとした視線だったからだ。ゾロアとは反対の位置の感情だ。

「君は野生なのに逃げたりしないんだね」

その言葉に、耳の奥から控えめな声が響いてきた。トウヤにしか聞こえない声。その声にうん、と頷く彼はありがとうとムンナへ笑顔を向けた。それから鞄から空のモンスターボールを取り出しムンナへと向ける。開閉スイッチを押してムンナはその中へと入っていく。手の中で震えるボールはすぐに静かになり、空だった中身にはムンナがはいっていた。

ムンナへと話しかける。


「―――ムンナ、俺自身が忘れてる記憶を掬い取って」

手の平のボールの中にいるムンナから波のような空気の揺れを感じる。自分だけ別の空間に立っている浮遊感と脳の奥底から何かが引っ張り出される感覚に身をふるわせた。ボールの隙間から藤色の煙がもれだしていく。

「俺に思いださせて、その記憶の"彼女"を」

煙が形になっていく。小さな人の形になり、ゆっくりと輪郭が作られて。やや暗い橙色の髪に子供に似合っているお花のピン留め。赤い瞳。お花のワンピースにチョロネコのぬいぐるみを両手に抱えた小さな女の子。そのはっきりとなった姿を見て、ああ、こんな顔をしていたな、と帽子を深くかぶった。



「・・・・・・そう、だったね。こんな姿で、ぬいぐるみだけが友達だった」

全部ではないが思い出していく記憶。カノコタウンに引っ越してくる前、目の前の女の子と同じぐらいの年頃に住んでいた小さな町。思い出された記憶は懐かしかった。けれどもそれ以上に"悲しい"気持ちで溢れてトウヤは溜まった涙を一つ二つと零した。

「君は、まだぬいぐるみが友達?それとも、ヒトリボッチ?」

幻の女の子に問いかけても返事なんて返っては来ない。それでも問わずにはいられなかった。ぬいぐるみだけが友達だった少女は俺とは話してくれなかった。だからムキになって勝手にいろんなことを話していたけれども最後には女の子の親に怒られてしまった。

なんで話すのがいけないことだったのか思い出した今でもわからない。どっちみち女の子は知らない人に連れて行かれて町から出て行ってしまった。そして俺も追うようにその町から去っていった。


「・・・幻じゃなくて、今の君にあいたい、な」

幻は消えていき優しくふく風がトウヤの心を慰める。

「うん。強くなろう」

何処にいるのかわからないけれど、強くなれば、旅を続ければいつか会える。

帽子をかぶりなおしたトウヤはいつもの笑みを浮かべてサンヨウシティへと戻った。



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