僕らの大好きな君の為なら





「あ、おかえり。」

『リョータ、彩子!』


宿泊先に戻るなりなまえは二人に笑顔で駆け寄った。「どうだったの?」と問う彩子にガバッと抱きつくなまえ。随分と興奮気味だ。


『もう、もう…も〜〜っ!』

「牛になっちゃうくらい幸せだったんだね。」


ニコニコと笑いなまえを眺める宮城はとても穏やかな顔をしていた。彩子も一緒になって「よかったじゃない」と穏やかな笑顔で彼女を温かく受け止める。


『ありがとう…二人とも…背中押してくれて感謝します…!』

「どういたしまして。時にはサポートが必要な場合もあるからね。」

「それでどうなのよ?ただ喋ってきただけ?」


彩子の問いになまえはピクッと動きを止める。「それじゃいけないの?」と言わんばかりの表情にわかっていながらもため息をつく彩子。


「…まぁいいわ、期待はしてなかったし慌ててことを進めるのも違うわよね。」

「そうだよアヤちゃん。二人の気持ちを大切にしてあげよう。」

「そうね、なまえ、ゆっくり休みなさい。疲れたでしょう。」


ふわふわと浮かれ気味のなまえはとりあえず頷くと自室へと入っていく。その幸せそうであり、夢と現実の間を彷徨うようなふわっとした歩き方に彩子と宮城は顔を合わせて微笑みあった。戦い抜いた後の勝利の笑みだ。


「お疲れ、リョータ。」

「あぁ、アヤちゃんも。任務成功ってとこかな。」











「…こんな朝から何の用?」

「いや、神こそこんな朝早くどこに行くんだろうって。」

「俺はランニング。」


早朝、宮城は隣の部屋…すなわち神の部屋の前で腕を組み立っていた。朝の六時を回った頃静かに部屋から出てきたのはジャージ姿の神だ。彼の予想通り(前日にもらっておいた牧の助言通り)、神はオフに関わらず早朝はランニングをする…見事に的中した。


「…ついてこないでくれない?」

「俺もランニングなんだよ。」

「心配しなくても信長を刺しに行ったりしないよ。」


さすがにそんなことまでは予想していなかった宮城にあっけらかんと言い放つ神。ジッと宮城を見下ろす。


「んなことわかってる。ただ神と話がしたいなと思ったんだよ。」

「俺を説得する気?なまえのこと諦めろって?」


神はそう言うと宮城の返事を待たずして「無理だね、そんな願いは到底聞いてあげられない」と言い放った。スタスタと廊下を歩きながら。気がつけば清田の部屋はもちろん玄関先さえ通り越している。


「どんなところに惚れたんだ?なまえちゃんと中学が同じだったんだろ?」

「…見ればわかるでしょ、俺のことなんて眼中にないんだよ。」

「えっ、?」

「だからいい。だから余計に欲しくなる。」


神はそう言うと少しだけ悲しそうな顔で笑った。立ち止まる宮城を置いて駆け出した神はあっという間に消えていく。


好きなところを聞いたわけであって、諦めない理由を聞いたわけではなかった。ただその一言は永遠に宮城の中に響き渡る。欲しいものは必ず手に入れると、その為に絶対に諦めないと神の性格なら言いそうだなと思う。しかし、最後に見せた悲しげな表情は…あの顔は…


「アイツ…」


“ わかってる “


そう顔に書いてあった。自分の元へ来る日などないんだとそうわかってはいても今は引けないんだとそう物語っていた。相手が自分の所の後輩だから?一番取られたくない相手だから?先輩としての意地…?


「なんだよ…なんか勘違いしてた。」


好きな子が振り向いてくれないつらさは誰よりもわかっている自信がある。それでも今はまだ応援する側には回れないという神の気持ちもなんとなくわかるような気がした。宮城は神を追いかけなかった。そして彼は二人のデートを邪魔しに街へ繰り出すことはなかったのだ。












「来た、藤真だ。」

「ひとりね…てっきり仲間を連れてくるかと思ったのに。」


順調になまえをデートへと送り出した宮城と彩子は仲良さそうに話しながら歩くなまえと清田のあとをつけていた。コソコソと茂みに隠れながら様子を伺う。このデートが邪魔されようものなら黙っていないと二人は本気だった。


そしてそこへやってきたのは翔陽の藤真健司だ。前日「邪魔する宣言」をしていた藤真は案の定宣言通りこの場へとやって来た。しかしその表情はどこか寂しげだ。


「二人の仲の良さを目の当たりにしてたじろいでるな?」

「現実はいつだって厳しいからねぇ…」


彩子の言う通り、藤真の目には並んで歩く二人が映る。照れ臭そうで初々しさ満点の二人。つかず離れずの距離で歩幅を合わせながら。見ているこっちが緊張してくるほど互いに顔は赤く染まっている。


藤真は立ち止まり二人をぼうっと眺めた。しかし次の瞬間拳をグッと握りしめ二人の元へ駆け寄ろうとする。その異変に気付いた宮城がダッシュで駆け寄り藤真の腕を引っ張った。


「…っ、?!」

「何する気ですか?!」

「宮城…」


藤真は驚いた顔をしながらも宮城、彩子を順番に見つめハァとため息をついた。


「何かしてやらねぇと気が済まなくて。」

「あのなぁ、二人は真剣なんだから放っておいてあげてくださいよ。」

「…信じらんねぇだろ、なまえがあんなクソ可愛い顔すんだって、お前知ってた?」


宮城にそう言って自嘲気味に笑う藤真。「どんだけ負けりゃいいんだ、俺は」と遠いどこかを見つめている。


「いいだろ、どうせ勝てねぇんだから少しぐらい暴れたって。」

「ダメですよ、藤真さん。」

「…はいはい、真面目ちゃんだなぁ。」


彩子にそう言うとヒラヒラと手のひらを振って歩き出す藤真。なまえと清田が向かった先とは逆方向だ。


「…これで大丈夫、かなぁ。」

「そうね…一通りは大丈夫かも。」


予め三井のことは慰めてきたし…流川の気持ちはそらしてきたし(仙道に協力してもらったし)と宮城は独り言が止まらない。自分にとっても大切な人であるなまえとその想いびと、清田の為になれるのならなんだってする…だってそこには必ずアヤちゃんがいてくれるから、と宮城もまた心から誰かを想うひとりの男なのだった。











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