君への想いはすべてが愛だ







「ほぉ〜…野猿、いいのかそんな格好で。」

「う、うるせーな。仕方ねぇだろ!」


昨日はまともに寝れやしなかった。あんなにも大勢の前で…いや、ほぼ全員の前でデートに誘われてしまってはありとあらゆる所から目をつけられるに決まっている。部屋に引きこもりさっさと寝たふりをしておいた。廊下に出るなり桜木の奴が「まぁた野猿に会いに来たのか〜?」なんて大声で話していたからスクープがあった芸能人並みに追われていたのだろう。勘弁してくれ。


「私服なんて持ってきてるわけねぇし…」

「へぇ〜?なまえさんはなんだかめちゃくちゃ可愛い服着てたけど?」

「なっ、何?!」


朝からどこで情報を仕入れたのかニヤニヤした桜木にそう言われる。「いいのか、なまえさんに恥かかせるなよ」とごもっともなことを指摘された。なんなんだよ…お前いつもあーだこーだうるせぇくせに何普通みてぇなこと言ってんだ…


なんやかんやで喧嘩はしつつもなまえさんのこととなるとやたらとまともなことを言ってくるようになったこの赤毛猿こと桜木。「なまえさんがあそこまで本気なら…」と何かを悟ったらしい。自分も恋しているらしく他人事とは思えないのだとか。


「や、やべぇ…こんなジャージみてぇな服じゃ…」

「まぁ野猿くん、この天才桜木が着ればジャージさえ高級ブランドに早変わりだが…君にはまだその才能はないようだね?」

「…んなことどうだっていいからどうすりゃいいか教えてくれ…!」


私服を持ってくる必要などなかったはずだった。なんとか持ち合わせた服で整えてみたものの、あんなに勇気を出して誘ってくれた彼女の言う「デート」には相応しくないような気がする。


「あぁ、時間がねぇ!…仕方ねぇ、行くしか…」


もうあーだこーだ考えても何かが変わるわけじゃない。意を決して部屋を出て行こうとした時赤毛猿に「おい」と声をかけられた。


「…んだよ、俺急いでーー」

「なまえさんのこと、よろしく頼んだぞ。」


いつもの騒がしいアイツなんていなくて、そう言われて振り向けば落ち着いた笑みで微笑まれる。返事として大きく一度頷き静かに部屋を出る。アイツと同室だと知った時には予想していたとはいえ腹が立ったけどなんだか今は良かったと思う自分さえいて変な感じだ。


「…なまえさん、!」

『あっ…清田くん、おはよう…!』

「おはようございます…!」


た、たしかに…なんて可愛らしい格好をしているんだと俺の頭に衝撃が走る。ズコーンと転げ落ちた自分がいるけれどもうそんなこと考えたって仕方がない。それになまえさんが「なんか新鮮だね」と照れ臭そうに俺に向かって笑いかけてくれたからもう何も気になったりしない。


「ど、どこへ、行きましょうか…?」

『あんまり遅くならないようにしたくて…駅の方、行ってみない?』

「わかりました。」


それでは出発…と心で唱え隣を並んで歩いてみる。何から話したらいいかわからなくてどうしようかと彼女がいるのとは逆方向を見ながら歩く俺に「ごめんね」と小さな声が聞こえた。


『オフなんだし休みたかったよね…』

「あ、いえ…嬉しかったです。」

『ほ、ほんとに…?!』


パァッと顔を明るくさせキラキラした瞳で見つめられる。ぐぅ…可愛い…と全身が熱くなる俺が頷けば「うわぁ…」と声を漏らしなまえさんはそっぽを向いた。


『清田くんは本当に…私を喜ばせる天才だなぁ…』

「…?」


ボソボソと呟かれ頭に「?」を浮かべる俺に「何でもないの」と笑うなまえさん。


『この合宿はどう?レベルが高くて刺激になってる?』

「はい、めちゃくちゃなってます。選ばれて本当に良かったです。」

『…私も、声かけてもらえて本当に良かった。』


なんやかんやで会話は続き、わりとリラックスできるようになった頃「何か食べようか」との声により店へと入ってみる。落ち着いた店内に「何食べようかな〜」と楽しそうななまえさん。なんだか心が満たされ温かくなるような感覚だ。


『清田くんは何か食べたいものある?』

「あ、えぇっと…」

『私はね、これとこれで悩んでて。』


メニュー表を指さしては「こっちかな」「あっちかな?」ととっても幸せそうだ。


「…すみません。」

「はい、お伺いします。」


つられて俺も幸せになる。今まで誰かに対して、ましてや異性に対してこんな感情を持ち合わせたことはなかった。この笑顔の為ならなんだってできると思う自分がいて、この人がいてくれるだけで自分が強くなれるような気がした。


「これとこれ…ひとつずつください。」


店員さんがいなくなるなり「清田くん…」と声をかけてくるなまえさん。あぁもう、改めて再認識しました。俺…


なまえさんのことが好きです


『いいの?ごめん、なんだか私のせいで…』

「一緒に食べましょう。甘い物も食べてください。俺注文するので言ってくださいね。」


先ほどデザートのページを確認するなりほんの少し嬉しそうな顔をしていたなまえさんを俺は見逃さなかった。あ、なんか俺やばいかも…


早く自分の力でお金稼いでこの人の為に使いたい、かも。この人の幸せのためにいくらでもお金出せるかも。この人の為なら永遠に働いていられるかも。


早くなまえさんを養いたい、かも…


って、俺何言ってんだ?!まだ付き合ってもないのに何をぶっ飛んだこと…いかんいかん、集中しろ。ふわふわと浮かれたことを考えている場合じゃない。


『わぁ〜、美味しそう!』


キラキラと目を輝かせ、しっかりと手を合わせる。「いただきます」と軽く頭を下げる姿がどうにもこうにも眩しい。可愛いなぁ…ひとつとはいえ先輩にこんなことを思うのは失礼かもしれないけど…


永遠にこの可愛さが変わらないといいな。


『うん、美味しい!清田くんも食べて!』

「はい、いただきます。」


昼食をとりぶらぶらと買い物なんかをして宿泊先へと戻る。自分の中に芽生えた絶対的な恋心に浮かれていた俺は、周知の事実であったこのデートが誰にも邪魔されなかったこと、そしてそこには彩子さんと宮城の壮絶な努力があったことに気が付かずにいたのだ。








Can’t stop loving you


(清田くん、本当にありがとう…すごく幸せだった…)
(こちらこそ。癒されました、ありがとうございます)
(ふぇっ?!え、わ、私が清田くんを癒した…?!?!)
(なまえしっかりしなさい!鼻血出てるわよ!)












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