国体編







一年にして国体のメンバーに選ばれたのはとてもありがたかった。実際神奈川には中々のメンツが揃っていて、海南から牧さん、神さんと三人で選出されたと知った時俺はガッツポーズして喜んだ。


そして本選の前に合宿があると聞いたのが結構前で…あっという間に月日は流れて、合宿初日当日を迎えたわけだけども…


「持つよ。」

『あ、宗ちゃんありがとう。』

「どういたしまして。」


先程から見える。俺には見える。「なまえに近づくな」と言わんばかりの神さんのオーラ。察した宮城や花形さんがあからさまになまえさんの隣に並ぶことを避けていたからな。うん、俺以外にも見えてんだな。


マネージャーとしてなまえさんが招集されたと聞いた時の神さんの顔は多分一生忘れない。一瞬固まって一点を見つめたままどんどん顔が凍りついていって次第に口角を上げてニッと笑ったんだからもう恐ろしすぎて手に汗握りしめてたよ、俺は…なんの笑みだったんだろう…


「なぁ、みょうじ。お前ここどうしたんだ?」


並んで歩く安定の二人を邪魔しにいったのは翔陽の選手兼監督こと藤真で、いきなりなまえさんの腕を掴むと肘辺りに貼られたガーゼを指差している。


『あっ、あぁ……この間転んだんです。』

「へぇ…結構酷いの?こんなでけぇガーゼ貼って…」


藤真はジッとガーゼを見つめなまえさんの腕を離すつもりはないらしい。見かねた神さんがスッと横から手を伸ばすなり藤真の手を掴み優しく払いのけた。


「人の傷に興味でも?」

「は?俺かなり効く軟膏持ってんだよ。傷の治りが早くて痕も残んねぇやつ。使うか?」


藤真は神さんを視界に入れず完全になまえさんのみに話しかけている。なまえさんは「えぇ、傷痕も残らないんですか?」と完全に食いついていて「貸してやるよ」と鞄を漁り始めた藤真に「ありがとうございます」なんてお礼を言っている。


「ま、まずい気が…なまえさん……」


届かない声をあげる俺の隣に「何?修羅場?」だなんて楽しそうな顔をした仙道がやってきて。あぁもう、笑い事じゃねぇんだよ!


「神ってあの子のこと好きなんでしょ?あの子は?付き合ってるの?」

「あー…多分両思い。多分……」

「へぇ〜…あれで付き合う前ってか。」


仙道は楽しそうに「完全に恋人っぽいなぁ」と笑っている。いやいやマジで笑い事じゃねぇし。一大事だし。


「気遣い不要。好きなだけ使っていいぞ。合宿の間…いや、これみょうじにやるよ。」

『えっ…でも…高そうですし…』

「別に構わねぇよ。女の子なんだし、傷痕残るの嫌だろ?」


怪我には気を付けろよ、藤真はそう言ってスタスタと前を歩いていく。神さんの顔はあの時みたいに凍っていて俺には見える…吹雪いてるよ、あれは…


『後で塗ろうっと…!』

「…そうだね。」


ニコッと笑ったその顔は笑顔なのになんだか怖くて、後ろから牧さんの「藤真…相変わらず恐ろしい…」とそんな呟きが聞こえた。










初日を終え宿舎での自由時間、お風呂上がりのなまえさんを発見した。髪は濡れててタオルを首に巻きトートバッグをぶら下げて鼻歌を歌っている。そこにスッと現れたのは神さんで無言で近づくなりわしゃわしゃとタオルでなまえさんの頭を拭き始めた。


『わわわっ、宗ちゃん…?』

「風邪ひくよ。」


ゴシゴシと拭いた後に彼女の腕についていた黒いヘアゴムを盗み取ると器用にお団子ヘアにまとめてゴムで結んであげていた。そして腕を引っ張るなり広間のソファに座らせて「消毒するね」と言う。


『あ、これ…さっきもらった軟膏!』


お風呂上がりに塗ろうと思って…と神さんにそれを差し出すなまえさん。神さんは一間置いてからそれを「そうだね」と受け取りなまえさんの肘に塗ってあげている。フーフーと息を吹きかけ相変わらずポケットからはガーゼや紙テープが出てきて、器用に手当てを終えると「よし」と呟く。


「にしても、どんな転び方したらこんなに深い傷が出来るんだか…」

『えへへ…サッカーで張り切っちゃって…』

「運動得意なのは知ってるけど、怪我はしないで。体、大事にしてよ。」


神さんはそう言うとなまえさんの肘に優しくくちづけた。チュッと音が鳴って唇が離れる。なまえさんは「わっ…」と声を出し神さんを見つめている。や、やばくね…いまの……


「なまえひとりの体じゃないんだからね。」

『……他に、誰のものなの……?』

「……俺。」

『えっ……』

「子ども産んでもらわなきゃ。体冷やさないで、怪我もしないで、健康でいてね。」


神さんはそう言うと立ち上がりなまえさんの腕を引いて同じように立ち上がらせた。心なしか顔が赤くポーッとしているなまえさんの肩に腕を回し抱き寄せるようにして歩いていく。









「…え、プロポーズ?あの二人…付き合ってもないのに…?」


自分が言ったわけでも言われたわけでもないってのにドクドクドクと心臓がうるさくてどうしようもないくらい顔が熱い俺の後ろで「何今の?!」と騒ぐのは宮城で、「キザにもほどがあるだろ」と寒気がするのか顔をしかめて震えてるのは藤真だ。その後ろに「神って見かけによらないねぇ」と笑う仙道がいて、俺と同じように顔を赤く染めた牧さんまでいた。みんな隠れて見てたのかよ…人のこと言えねぇけど…


「何?あれが日常なわけ?」

「まぁ…あんな感じだな…」

「ハァ?!ガツンと言ってやれよ!部活は恋愛ごっこする場じゃねぇだろ?!」

「とか言って、藤真さん海南に勝ったことないんでしょ?」

「…テメェ仙道…!!黙りやがれ…!!」


牧さんが「まぁまぁ」と間に入るものの「オメェにとめられると余計に腹立つんだよ!」とキレる藤真。俺の隣で宮城は「マジかっけぇ…尊敬する…」だなんて神さんに向けて尊敬の眼差しを向けているようだった。








誰も踏み込めないふたりだけの世界


(俺もアヤちゃんにプププ…プロポーズを…!)
(何言ってんだ宮城、オメェら付き合ってもねぇだろ)
(も、もう!三井さんは黙って!いきなりでも成立するプロポーズだってあるんだよ!世の中には!)
(....ハァ?!)








つゆり様

このたびは企画にご参加いただきありがとうございます!「神くんにお姫様抱っこされる」とのことだったのに話が膨らみすぎました…本人たちより照れる清田と牧さんとのことでしたが、恋人同士の二人がお姫様抱っこなどをしても当然のような扱いになるかと思ったので、付き合ってはいないけれど…という微妙な関係の二人という設定にしました!「見ている周りをドキドキさせるような二人」をテーマにして、お姫様抱っこのみならず色々とイチャつかせました(笑)余計な話でしたらすみません…。
今後ともまた遊びに来てくださったら嬉しいです。この度はリクエストありがとうございました!





Modoru Main Susumu
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