後編






「部活、見にこなくて良いから図書室で勉強しててね。」

『わかった…』


いつからか部活を見に行くことを禁じられるようになった。多分だけど自分以外の部員がいるあの場が気に入らないんだと思う。私は宗ちゃん以外見てない…あ、でも、牧さんは見ちゃうかもしれない。うん、それはある。


日頃から共に帰る約束をしていて宗ちゃんの自主練が終わるまでを私は大体図書室で過ごしている。計四時間程を過ごさなければならない為宿題はもちろん予習や先々のテスト勉強までやれてしまうわけだ。私と宗ちゃんのクラスは特進科ということもあってわりと宿題が多く、家より図書室の方がはかどるタイプの私にとっては特に苦ではなかった。大人しく待っていれば宗ちゃんのご機嫌もとれるしね。


階段を降り昇降口あたりで宗ちゃんと別れた。図書室へ向かおうと廊下を歩き職員室の前を通りかかった時「みょうじ」と声をかけられる。


『…牧さん…』

「よう、ひとりだったからいいかと思って。」


私の憧れであった牧さん。宗ちゃんと付き合い始めてから「神の彼女」として認識されるようになり、同じクラスの人や宗ちゃんのファンの女の子たち、一部の人間が知っている宗ちゃんの束縛彼氏具合を何故だか三年生の牧さんは知っていて、はじめの頃からずっと私がひとりの時に限って話しかけてくるのだった。


『今から部活ですよね?』

「あぁ。その様子じゃ今日も見にこないんだな?」

『まぁ……』


苦笑いしてそう答えれば「それは残念だ」と呟く牧さん。


「みょうじがいるとなると気合いが入るんだけどなぁ…」

『……またまた、そんなこと言って。』


そして牧さんは「本気だぞ」と笑う。いつもこうやって二人の時は私に期待させるようなことを言ってきては楽しそうに笑っているのだ。


「…にしても、最近は随分と悲しそうな顔してるんだな。」

『…いやいや、そんなことないですよ?』

「一年の頃はよく笑ってたのにな。俺の好きな可愛い笑顔で。」


牧さんはそう言うとジッと私の顔を覗き込んでくる。ビックリして一歩後ろに後退りした私に「そうさせてるのは誰か、分かっているつもりだが」と言ってくる。


「みょうじ、これは俺の勝手な意見だが…」

『な、なんでしょう……』

「神の彼女でいることだけが、お前の人生じゃないぞ。」


それはつまり、私にも選ぶ権利や自由になる権利があるということだ。牧さんはそう言うと「心から笑わせてくれる男がいるはずだ」と呟いた。


『牧さん……、』

「例えば、俺……とかな。」


優しく微笑んで「早くまた見に来いよ」と言い残して牧さんは去っていった。その後ろ姿に不意に心がときめいてしまう自分がいて慌てて深呼吸を繰り返す。


『私の意志で、宗ちゃんの隣にいるんだよ…』


そう呟いて自分に言い聞かせた。現に過去何度かその牧さんの誘いに乗り込んで、牧さんの胸を借りて飛び込んで、宗ちゃんから逃げてしまいたいと本気で思ったことがあった。その度に本当にそんなことしていいのか、それじゃあ私はもちろん牧さんさえも何かやられてしまうのではないかと、そんな不安もあって。


いいんだ、気にするな。私は宗ちゃんが好きなんだ。図書室で勉強して待っていなきゃ……


「……なるほどねぇ、牧さんか。」


背後から聞こえたその声に思わず「ひっ」と声を出してしまった。あまりに低いその声に体が正常に反応したわけだ。


『そ、宗ちゃん…部活に行ったんじゃ……』

「顧問の先生に用があってね、そこ職員室でしょ。」


あっさりとそう言い放つ宗ちゃんの顔は無表情でとても怖いくらいに凍っている。まさか、牧さんとの会話を全部聞いていたのだろうか…初めから最後まで……


「…俺が惚れた体育館、なまえは牧さんを見に来てたってわけか。なるほどなぁ。」


宗ちゃんはそう言って「ハハッ」と笑った。いつか聞いたことがあった。一年の時に何度か練習を見に行った体育館で私を見つけた、と。その時から可愛いと思ってた、と。


「牧さんもなまえ狙いってわけだ…それも、俺から奪う気で、ね。」

『違うよ、そうじゃないって!』

「……黙れよ。」


宗ちゃんはそう言うと私の腕を引き人影のない廊下の隅へと連れていく。乱暴に解放されたと思ったら途端にドンッッと壁に手を突かれ壁ドン状態となりあまりにも怖くて冷めついた宗ちゃんの顔面がすぐ目の前にある。


「…ふざけんな、お前。」

『宗ちゃん、違うって…私は宗ちゃんのことだけ…』

「そんなの当たり前だろ?変な隙見せてんじゃねぇよ。本気で許さねぇから、なまえも、牧さんも。」


あまりの恐怖に私の目には涙が溜まった。こんな時でさえ私の頭は「宗ちゃんの好きなところ」を復唱しているのだから笑えてくる。こんなに怖い人の好きなところなんてもう探さなくていいよ…


『……怖い、宗ちゃん……』


ギュッと目を瞑る。あぁもう、全部嫌だ。どうしてこんなことになったんだろう……


その瞬間ギュッと手を掴まれて壁へと押さえつけれらる。涙が溢れる目を開ければぼやぼやとした視界の中で宗ちゃんが私に近づいてくるのが分かって怖くて反射的に目を閉じた。


「……俺はなまえが怖いよ、俺の前からいなくなろうとする、お前がね。」


そう聞こえた後、首筋に物凄い痛みが走る。ガブッと噛まれたような気がして目を見開くも視界の左側に宗ちゃんの後頭部が映るだけだった。


『痛っ……、えっ、なに……?!』

「……ムカつくんだよ、なんで俺だけのものになってくんねぇの、」


なってるよ、宗ちゃんの彼女だよ


そう言いたくても言い返せなくて。だって宗ちゃんの唇と歯には血がべっとりとついていて。痛みが走った首筋に手を触れてからその手を目で確認する。


『えっ……』


私の掌にはべっとりと血がついていて。それが宗ちゃんのものではなく私の「首」から出たものだと瞬時に判断した。


「このまま食べ尽くすから、俺の中で生き続けてくんない?」


宗ちゃんは血がついた唇でニッコリと笑った。私の目からはポロポロと涙が溢れ続けた。




君さえ良ければ永遠に一緒 ねぇ、いいよね?


(....助けて....、)






なす様


なすさん!リクエストありがとうございました!そして、何故だか自分でもわからないんですけどめちゃくちゃ怖い感じに仕上がってしまいました......束縛彼氏とのことだったので、宗ちゃんの嫉妬束縛独占欲彼氏の限界を突き詰めようと思って自分に書くことのできる最大級の束縛彼氏を書いてみました……あれ、めちゃくちゃ怖い……。実はですね、なすさんのお好みに添えるかなと思いまして、これ以上のめちゃくちゃ恐怖じみたもはや束縛彼氏を通り越した宗ちゃんを、ここだとまずいので「狂愛シリーズ」の方に載せる予定でした。。この話の続編というか、同じ設定で数年後の話です。もはや束縛なんかをとっくに通り越した狂った話をアップする予定でいますのでもしお気に召してもらえたら読んでもらえると嬉しいです!!余計な話でしたらそのままスルーしてくださいね!いつも嬉しいコメントをありがとうございます(^^)!今後ともぜひぜひよろしくお願いします!









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