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「....これは、私からの遺言だ....。」


宗一郎や栄治が泣き叫ぶ中、牧紳一は息を引き取った。栄治が平泉に戻って数ヶ月、栄治と宗一郎の仲があまり良いものではないと感じていた紳一は遺言として一通の手紙を置いて旅立った。


「....父上、必ずやその遺言、お守りします。」


宗一郎はそう固く誓った。例えどんな内容であろうと自身の尊敬する父が言い残したものなら....。












京ではいよいよ本格的に栄治抹殺計画を実行に移す準備が行われていた。邪魔なものは尽く潰す。それが今の楓の信念であった。


父を斬った仙道や実際に襲った南など、倒すべき相手は全て倒し尽くした楓。ついに栄治との一騎討ちに臨めると特段に気合いが入っていた。


栄治が楓の判断抜きに独断で行っていたことや、あろうことか楓の存在を邪魔扱いし、自分自身を抹殺しようと計画していただの様々な理由をでっち上げ、楓は天皇であった清田に多大なる圧力をかけて「栄治追討」の旨を清田に宣言させたのだった。英雄扱いされていた栄治が途端に追われる身となり追討の宣言まで出されてしまったとたちまち巷はざわざわと騒いだ。


その宣言は当然、平泉にも行き届いた。紳一が亡くなり牧家の当主となった宗一郎は罪人として追われる身となった栄治を匿っていた。それは宗一郎本人が一番恐れていた出来事であり、本来なら絶対に匿うなどしないのだが、紳一からの遺言には「栄治と共に協力し、楓殿が攻めてきた際には力を合わせ、栄治の指示に従い戦いなさい」と書いてあったのだ。


宗一郎は自身の考えは投げ捨て、紳一からの遺言を受け入れた。栄治を匿い、平泉に栄治はいないのだと周りに言い張った。


「そなた、牧家の当主だな?京で栄治殿の追討宣言が出された。栄治殿を早く差し出せ。」

「ここらに栄治という名の武将はおりません。お引き取り願います。」


宗一郎は毅然とした態度を崩さなかった。何度も来る京の人間を言葉ひとつで帰らせる。バレた際自分が罪を被ることになるとわかっていながらも、栄治の味方として彼を匿った。


「....恩に着ます、宗一郎殿。」

「礼を言うのなら、父上に言うがよい。」


栄治とは毛頭仲良くするつもりはない。宗一郎は複雑な心境で栄治を匿っていたのだった。










楓が直接平泉に乗り込まないのには理由があった。牧紳一という存在は楓にも知れ渡っており、亡くなった際に残した遺言の存在も、家臣の偵察により楓にはバレていた。もし自分が攻め込んで平泉に乗り込んだ際に、遺言通りに栄治と宗一郎が協力して兵士を募り、軍事の天才と称された栄治と戦う羽目になったのなら、勝ち目があるかどうかわからなかったからだ。


そして宗一郎に一方的に圧力をかけ、彼に栄治を捕まえさせることが出来るのなら、平泉の中で仲間割れも起こるだろうし、平泉という土地を手に入れるのにも有利になると思ったのだ。だから楓はくる日もくる日も手下を平泉へ向かわせて、当主である宗一郎に栄治の居場所を聞き続けたのだ。もっと大きな圧力をかければ、そのうち宗一郎に我慢の限界がやってきて、栄治を斬ってくれるだろうと信じてやまなかった。


「栄治は平泉に必ずいる。我々が手を染めるのではない。平泉の中で仲間割れを起こさせろ。」


そうするのには宗一郎の脳内を操ることが必要で。日が経つにつれ徐々に圧力を強めていった楓。しまいには本人が直接平泉へと向かったのだった。


「....そなたか、牧家の当主、宗一郎殿。」

「これはこれは楓様、平泉に何かご用でしょうか?」


宗一郎は毅然とした態度を崩さない。


「ここらへ私の弟である栄治が来てはいないだろうか。」

「来ておりませぬ。」

「そうか......もし仮にそなたが栄治を匿っているなどの事実があったとするのなら.....、どうなるかはわかっているよな?」

「....栄治殿というお方は来ておりませぬ。ですからわかっておく必要などないのです。」


宗一郎は言い切った。毅然とした態度は崩さない。いくら楓が来たとはいえ、父の遺言を破るわけにはいかない。自分は栄治の指示に従い、栄治を仲間として絶対に守り抜く。


「ほう....随分と強気だな。」


楓は楽しそうに口角を上げた。栄治を匿っていることなどはなからバレバレなのだが、ここまで志を強くして遺言を守るなんて、と宗一郎を嘲笑うかのように。


「それでは、そなたの分も出してやろう。」


そう言うと楓は笑いながら宗一郎に視線を送った。警戒したような顔を見せる宗一郎が面白くて口角を上げっぱなしであった。


「牧家の当主、宗一郎殿の追討宣言。」


楓はそう言うと「栄治の居場所が分かり次第、捕縛して連れて来い」そう言い残し去っていった。宗一郎は遂に自分自身も追われる身となってしまいそうで、楓の後ろ姿が見えなくなると同時に表情を曇らせて握り拳を作った。このまま遺言通りに栄治を匿い続けたら、自分の命さえ無くなってしまう。


「.....父上、それでも私は....栄治殿の味方で、いるべきでしょうか.....」


空へと投げかけたって返事は来ない。宗一郎は嘆き苦しんだ。













私に何の罪があるというのでしょうか


(....父上、お助けください....っ、)





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