Q






「やるしかない.....、やるしか........」


宗一郎の手は震えていた。


「宗一郎殿、よろしいのでしょうか。」

「.....構わん。行くぞ。」


誰もが夢の中へと旅立ち寝静まる時刻。この平泉の土地でも例外ではなく普段なら起きている者など誰もいないはずであった。そんな暗闇で宗一郎を筆頭に平泉の武士たちは刀片手に静かに館へと向かう。


そこには、栄治が眠っているのだ。


「....出入り口を全て塞げ。やるからには一度で決める。」


宗一郎はそう指示を出し、遂には合図を出した。


「........っ、」


物音に目を覚ました栄治は起き上がり事の次第を把握する。冷たい目つきの宗一郎が刀を向けては自分を見下ろしてくる。宗一郎との衝突を避けたいがために、平泉を脱出する計画を立てていた栄治。少し日が足らず間に合わなかったようだと全てを悟って、遂にこの日が来てしまったかとゆっくりと息を吐いた。


「.....宗一郎殿、世話になりました。」


栄治はそう言うと枕元に置いてある自身の刀を手に持ち引っこ抜いた。それを自分の腹元に向けるともう一度宗一郎へと目を向ける。


「紳一様と宗一郎殿に迷惑をかけたこと、永遠に詫び続けます。」


ためらいもなく腹に刺した。宗一郎はその様子を目に涙を溜めて見続けていた。白い布団を真っ赤に染めて横たわる栄治。宗一郎の家臣達は急いで京へと向かい、宗一郎の追討宣言が出される前に、既に栄治を斬ったのだと知らせに行った。


「....謝るのは、私の方だ....。」


裏切ったのは自分で、そなたを守れなかったのも自分だと、宗一郎はその場に膝から崩れ落ちた。横たわる栄治からの返事はない。どうしてこんなことになってしまったんだと、宗一郎は涙を流し続けた。












楓の元に栄治が斬られたとの話がいき、実際に遺体も運ばれたのだった。息をしていない弟を見る楓は無表情でその心の内を的確に理解できる者はいない。しかし楓の望み通りになったことは事実であり邪魔者は尽くいなくなった。


宗一郎は栄治を捕まえ斬り落としたことを称えられると思いきや、今の今まで栄治を匿い続けたこと、そして目の敵ではありながらも楓と血の繋がった藤真家の人間を許可なく斬り落としたことを理由に掌を返されたかのように楓に罪を着せられ、結局のところ追われる身となってしまったのだった。どこまでも卑怯で手段を選ばない楓の戦法に批判の声は高まった。宗一郎が追われる身となった平泉はその後すぐに滅亡し、そこは瞬く間に藤真家の領地となったのだった。


栄治と関わりの深い人物は全員消す。


近い将来、自分が打倒仙道を掲げて同志たちと集まったように、栄治を慕っていた者たちが手を組み、楓が「打倒」の対象になることを恐れたからだ。


遠く離れた地で静かに暮らすなまえもまた、栄治と関係の深い人物として捕らえられていた。その対象は越野や越野との間に生まれた子にまで及んだがなまえにとって栄治は藤真健司との子であり、越野たちは関係ない。なまえはひとりで京へと向かった。


いつか...健司が斬られ、自分の母が人質となり、仙道の元へ自首した時を思い出す。なまえは楓の目の前に立つなり深々と頭を下げた。


『....藤真家九男、栄治の母でございます。』


捕縛され身動きが取れないなまえだが、毅然とした態度は崩さない。ジッと見つめられた楓は「久しぶりだな」と言い放った。


『...そうでございますね、楓様。』


なまえは悲しみの中を抜け出し心底楓を恨んでいた。栄治が殺されたことへの悲しみや苦しみはもう通り越した。同じ父から生まれ、共に仙道を倒した仲間である栄治を、邪魔だという理由で斬った楓のことが許せず、そしてそんな人だとは思いもしなかったと無表情のままだ。


「....私が憎いか、栄治を斬ったのだから。」

『早く、私を栄治の元へ連れて行ってください。』


ここへ来たということは、当然斬られるのだろうと覚悟はできていた。だからこそ越野に子たちを任せてきたし、栄治の母として栄治や大、そして藤真がいる元へ旅立つ決心はついている。


なまえのその言葉を聞いて楓の家臣たちは彼女を連れて行こうとした。しかしそれを「待て」と楓が引き止める。


「....そなたは生かしておく。」

『....なぜ.....何故ですか......』

「そなたを栄治の母とは見ていない。この方は私の父上が愛した特別な女子だ。その縄を解け。」


捕縛されていたなまえを楓の家臣たちが慌てて縄を解く。解放されてもなお動かず無表情のなまえに楓は口を開いた。


「生きろ。そなたは父上の為に、その命を全うするのだ。」


信じられないものでも見るような目つきになったなまえに楓は「絶対死なせない」と言い切った。


『私は....、栄治の元へ行きます......』

「許さん。この女子を捕まえよ。」


楓の指示によってなまえは捕らえられた。そして京に存在する藤真家の屋敷に閉じ込められると自分の意思では外へ出られないようにと門番もつけられた。


『なぜ.....、何故ですか.......』

「そなたは藤真家の女。ここで私と共に生涯を過ごそう。」


狂ったような楓の目つきになまえは後退りした。楓にとってのなまえは、初対面の頃から特別な存在であった。それは父親が愛した女というだけではない。なまえを見るたびに楓の心の奥深くの何が熱くなり、騒ぎ出し、胸が苦しくなるような感覚に襲われる。それが何なのか楓自身にもわかってはいなかったが、「栄治の母」という理由でなまえが殺されると思うと納得が行かず想像しただけでもゾッとするのだった。


「....どこにも逃さない。」


なまえはドンッと壁にぶつかった。もうこれ以上後ろへは下がれない。目の前には自分を見下ろす楓がいる。


「ここからは絶対に出さない。そなたはもう死んだことになっているからな。」

『ど、どうしてそんなことを.....?!』


栄治の母として楓の前に連れてこられた。栄治を追い、斬られるくらいならと自ら命を絶ったと町中にそう知らしめた。楓はそうすることで本当の意味でなまえを手に入れられると思ったのだ。


「....わからないのなら、わかるまで....たっぷりと可愛がってやる。」


楓は背中に隠していたものをなまえの前に差し出した。それは鮮やかな紫色の花束。いつかなまえが藤真から告白された際に、道端で咲いていた花菖蒲という名の花だ。あれ以来この花に特別な思いを抱いていたなまえ。藤真の墓参りの際にも必ずや持っていって供えていた。それを妖しげに微笑む楓からプレゼントされた。なまえの目からは涙が溢れた。もうどこへも行けないんだと、静かに目を閉じた。














全てはその美貌のせい


(永遠に、私だけのものだ....)









あとがき (^_^)

思っていたよりもすごく長くなってしまい...もうあと少しで四万ヒットというところまで時間がかかってしまいました...。遅くなり申し訳ありませんでした。

今回のモデルはヒロインちゃんが「常盤御前」ですね。絶世の美女といわれた伝説の女の子です。息子にはあの有名な牛若丸こと源義経がいます。

源義朝 = 藤真健司
常盤御前 = なまえちゃん
源義経 = 沢北栄治

源頼朝 = 流川楓

平清盛 = 仙道彰

と、大まかなキャストはこんな感じでした。義経が生まれてから、異母兄弟である頼朝と対立して自害するまでを書いてみたのですが、流れ的にはあってるけど細かいところはめちゃくちゃ省いたし、付け加えたオリジナルがめちゃくちゃに多いのである程度はフィクションだと思ってください。特に最後とか。常盤御前の最期ってはっきりとはわかっていないらしく、まぁ絶対的に頼朝に愛されたってのはないと思います。義経を追って自害したとかなんとか.....テーマが「美人薄命」だから、綺麗に生まれたことが原因でさまざまな困難が降りかかってくるという話です。なので最後は美貌ゆえに楓ちゃんにまで気に入られちゃったっていう完全オリジナルストーリーでした。

いつの時代も美人は得なのかなと思いきや、それはそれで特に大昔は「圧倒的美貌」というだけで敵の愛人になったりとまぁ大変だったんだろうなぁと思います....どれほどの美人だったんだろうなぁ....。

今回三つ、自分の中で大きなポイントがあって。一つ目は「楓>栄治>仙道」という関係性です。この三人はすごく複雑で、異母兄弟でありながらも最後には敵になるとか、育ての親だと思いきや父親を殺した犯人だったりとか、敵であるのに命を助けてあげたとか、そういう複雑すぎる関係だったのでちょうどこの三人にピッタリかと思って当てはめました。
二つ目は常盤御前の息子3人を「三井、諸星、沢北」という「神奈川MVP、愛知の星、高校ナンバーワン」まさしくスター軍団にまとめたことです(笑)藤真くんとヒロインちゃんの絶世のDNAもあるし整った顔のスター達で揃えました。
三つ目は楓ちゃんと南くんの関係性ですね。美濃尾張(身の終わり)をプレゼントした楓ちゃん。何かをやられて何倍かにしてやり返すような、そんな感じが楓ちゃんと南くんに当てはまりました。嫌な役をやらせて両者ともごめんねという思いです。配役に理由はあれど、変な意味は一切なく、死人が続出した話であったけど完結できて良かったです。いつも応援してくださりありがとうございます。次はあっという間に四万ヒットなのでリクエストを書かせていただきます。今後ともよろしくお願いします(^^)!







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