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栄治の存在が自分の中で「邪魔なもの」へと変わりつつある楓。そんな中、暫定的にこの国の頂点に立つ彼の頭の中には栄治の他にもうひとり、会うべき相手がいたのだった。


「....そなただな、南烈と申す男は。」


楓が大勢の家臣を連れてやってきたのは、自分の父親を斬った張本人、南烈の元であった。南とその息子の実理は楓の登場に思わず声を上げ逃げるようにしてその場を去ろうと試みるが、楓の家臣に捕まった。


「大変なるご無礼を....お許しくださいませ....。」


父親を斬ったとならば、我々も斬られるに違いない。南はそう考え頭を下げた。しかし楓は「仕方のないことだっただろう」と労うような声をかけたのだ。これには南も驚いて顔を上げた。


「いくら身内とはいえ、当時の藤真は罪人。罪人を匿うのはリスクも高い上に許されるべきことではないからな。」


理解を示してくれた楓に南は礼を言いながら頭を下げた。


「....どうだ?私の元で働いてみないか?」


誰しもが予想しなかった言葉を優しく言い放った楓。南は突然そんなことを言い出す楓に警戒した様子を見せる。


「そんなに警戒することか?そなたは元々、藤真側の人間ではないか。」


楓のその言葉に南は「そうですが...」と疑い深く返す。確かに元々は藤真健司の一番の家臣、花形透と親戚関係にあり、南の娘は花形の嫁であった。


「過ぎたことは気にしない。仙道はもういないのだから、また一からやり直そうではないか。私の元で懸命に働くのなら、そなたには美濃尾張をくれてやる。」


恩賞に目が眩みがちな南は楓のその言葉に肩を跳ねさせた。「いいのですか...」と遠慮気味に問えば「もちろんだ。私の家臣になるのなら」と返事を返す。


「私でよろしければ、ぜひ楓様の元で...」


こうして南と息子の実理は楓の元で働くこととなったのだった。










一方その頃栄治はというと、相変わらず周りからの英雄扱いを受け完全に藤真家といえば栄治だと、そう認識されていたのだった。楓を差し置いて上へ行くつもりなど毛頭ない栄治ではあったが、周りはそうはさせてくれない。


「栄治殿、来客ですが....」

「構わん。通してよい。」


美紀男は側近として栄治に仕えていた。護衛係の役割も全うしつつ、有名人となった栄治の世話役でもある。今日もまた、来客で忙しい栄治は落ち着かない一日を過ごすのであった。本来なら当主である楓に決定権があるべきものも、相談の一つもせず自身の判断でなんでも決めてしまう栄治。日に日に目立つようになった単独的な行動。それを遠巻きに見るなり相変わらず気に入らない楓は軽く栄治を睨むなりその場を離れた。


「....どうしましょうか、楓様.....。」


楓の家臣は邪魔な弟の存在に悩む君主の力になれればと、楓と共に密かに「栄治抹殺」の計画を立て始めたのだった。今までの人生を父親の「復讐」に賭けてきた楓は仙道を滅ぼし目標を達成するなりどんどんと欲が出ていった。自分が頂点でなければならないし、栄治に何かを譲るつもりもない。戦でもして事実上のトップ争いができればよいのだが....いくら弟といえど彼は「軍事の天才」。正々堂々勝負を挑めば勝敗はどちらに転がるか、正直楓にはあまり自信がなかった。


「....楓様、直接お伝えした方がよろしいかと。」

「栄治に、直接か....?」

「そうならばきっと、奴は奥州の平泉へと逃げるでしょう。」


楓の家臣は鋭かった。栄治は元々僧になることを逃れ寺を抜け出し、奥州牧家のある平泉に住んでいたのだった。それを知っていた家臣は楓にそう告げる。


「いずれ楓様が倒す相手となるお方です。早いうちに手を打つ意味も込め、ついでに栄治殿も消してしまいましょう。」


ここを追放されればきっと栄治は平泉へ逃げ込む。平泉はここ数年、牧紳一が統率している土地であり、次第に勢力を上げていて厄介な存在ではあったのだ。栄治が逃げ込んだという理由をつけて、牧家もついでに滅亡させ平泉の土地をもらうことができるのならそれは一石何鳥にでもなりうるおいしい話だと思ったのだった。いずれ倒すべき相手なのだから。


「....それはよい考えだ。」

「ありがたきお言葉。」


そしてついに楓は栄治抹殺計画を計画に留めず実行することに決めたのだった。


「.....栄治、話がある。」

「はい、兄上。」


そんなことなど露知らず、栄治は今日もまた服従の意味も込め楓を「兄上」と呼ぶ。完全に懐いており「兄上」と慕ってくれる栄治に楓は無表情で言い放った。


「そなたの横暴ぶりには参った。」


楓はそう言うと自身の刀を抜き栄治の前へと差し出した。


「あ...、兄上......?」

「私はそなたの兄上ではない。」


独裁的な行動は一切許さん。楓はそう言い放ち喉に突き刺さるギリギリのところで刀を止める。


「....なぜ、私をこんな目に....、」

「許されないのだ、私を置いて先へ行くことなど。」


楓は言い放った。刀を持つ手と逆の手は自然と力が入り握り拳を作る。その手は少しだけ震えていた。








味方はどこにもいない


(....兄上、何故ですか......)








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