事件







「.......あ。」

「どうした、藤真。」


本当に珍しく、こんなのは高校に入って片手で数えられるほどしかない。テスト期間で部活がない場合必ずと言っていいほど自主練をして勉強もして徹底的に「学生」としての生活を全うしている俺が花形たちと放課後街に繰り出しふらふらとほっつき歩くなんて。


たまにはいいか、なんて本当にたまにすぎてもはやたまにでもなんでもない気がしてくるのだけれど。きっと学園祭でみょうじに逃げられた話を聞いた花形が気を遣ってくれたんだと思う。じゃなきゃ学年1位の勉強ヲタクがテスト勉を差し置いて俺を誘うわけがない。


そこで俺が固まった理由はもちろんみょうじ以外のはずがなく。道路を挟み反対側の通りでひとり、帰宅途中なのか歩いているみょうじがいた。


「.......俺、帰るわ。」

「あ、おい!藤真!」


どこの高校もテスト期間なのか街中は制服を着た学生で溢れかえっていてその間をすり抜けるようにしてみょうじへと近づく。彼女はひとりでゆっくりと歩きながら時たまガラス張りの店の前で立ち止まったりして何かを探しているようだった。


そんな中、すれ違い様に歩いてきた三人組の女たちがみょうじを見てはコソコソ何かを話し大声で笑いながら彼女の横を通りすぎた。明らか視線はみょうじに向いていてそれは見ていていい気分がするものではない。


なんだ?なんだよ今の。


さっさとその三人を取っ捕まえて謝罪させてやりたいくらいには苛立つ俺だけれど、それでも静かに自分のペースで歩くみょうじはすれ違った後うしろを振り向いたりもしないわけで。


「.......なんで?言い返せよ。」


いつも俺に噛み付くみたいに何か一言でも言い返してやりゃいいのに。だって今の完全に喧嘩売ってる感じで........








その後もみょうじはすれ違いざまの女子生徒に睨まれたり嫌な顔をされたりコソコソ内緒話をされたりそれはそれはもう散々であった。初めの方こそ何かの偶然が重なったのかと思ったりもしたけれどそれは次第に真実味を増していき俺が見る限りみょうじは女子からあまりいい印象を持たれていないようだった。それも海南だけじゃなくて色々な高校の制服を着た「女子」から。










なんだ?いつもの元気はどこに行ったんだ?




あ、ほらまた。



指さされてコソコソ話されて笑われたりして。なんで?完全にお前なんか言われてんだよ。何黙って下向いて歩いてんだよ?お前俺のこと「藤真」って呼んだりタメ口使ってきたりするくらい度胸あるくせに。この俺と犬猿の仲になれるくらいの逸材のくせに。何言いたい放題言われてんだよ。馬鹿野郎め。


なんだか俺が段々と腹が立ち悔しくなってきてみょうじへと距離を縮めていく。あと少しで声をかけれるといった時、みょうじは「ねぇ」と声をかけられどこかの制服を着た女たち5、6人に囲まれてしまった。


「この間の学園祭でさー、見たんだけどねー?」


中のひとりがそう切り出すとみょうじは真っ直ぐ前を見たまま固まっていた。下を向きもせず頷きもせず声も聞こえない。


「翔陽の藤真くんと仲良かったよねー?」


予想もしない突然出てきた俺の名前にハッとするわけだけど、そんなことよりも続く言葉が簡単に想像できてしまった。


「どうなってるの?姫とか呼ばれて調子乗ってんだろ。」

「最初は牧くんで?その次は神くんで?あっという間に藤真くんまで?」


なにそれー最低ーなんて騒ぎ始める女たちの中で静かにじっとその場に立ったままのみょうじ。は?お前は電信柱か。何ボケッとしてんだよ。なんか言い返せよ。俺のことなんてどう言ったっていいんだから!お前がそのまま何も言わねーんならこの俺が.......


俺が一歩踏み出した時女たちは「ムカつくんだよね」なんて声のトーンを変えて言いたい放題また言い始めた。


ムカつくのはお前らの方だろうが。


いよいよ我慢ならなくなった俺が輪の中に入りあの日みたいにみょうじの腕をガッチリと掴んだ。













「へっ....ふ、藤真くん?!」


どこの制服なのかもはやわからない高校の女子生徒たちは俺の登場に驚いたように目を見開いた。お前らなんぞに興味はねーんだよ、さっさと散ればいい。


「...何か用があるなら俺に言って。例えば...そうだなぁ...俺、心が綺麗な子がタイプなんだ。だから君たちみたいな汚れきったのはごめんだよ。」

「......っ、い、行こう!」


ね?と言いながらニコッと微笑みかければみょうじを囲んでいた女子たちは一斉に走ってその場を去った。俺を見て青ざめた顔をしながら。

















「......なんで、言い返さねーの?」


手を離し振り向いてみょうじを見つめれば視線は合わなくて。どことなく俯き加減のみょうじにそう問えば返事は返ってこない。


「いつもみたいに、俺に言うみたいにあーやって思ったこと言えばいいだろうが。」


うんともすんとも言わないみょうじ。


「なぁ。どうしたんだよ、お前なんか......」


さっきから変だぞ。なんて続くはずの俺の言葉はみょうじが顔を上げて俺と目線を合わせたことによりかき消されてしまった。


俺は仮にもコイツを助けたつもりでいた。理由はなんであれあんなの放って置けないしみょうじが嫌な思いをするのであれば男として助けてやりたいと思うのが普通だろ。それにアイツらは俺の名前を出した。もう助ける以外手段はなかったはずだ。だからこそ割って入って行ったのだけど。


















「......なんで、怒ってんだよ......」


それなのに、みょうじは怒っていた。


俺を見るなり冷え切った目で睨んで目にはうっすら涙が溜まっているように思えた。


「.....なぁ、みょうじ......」

『..........嫌い。』

「は?」





















『私、藤真さんみたいな人大嫌いです。』



















彼女はそう言うと俺の元から去って行った


(.....え?なんで?!)



結末編 →







Modoru Main Susumu
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -