学祭







「.............」

『............』


牧から学園祭の知らせを聞いて花形や一志たちを連れてやってきたこの海南大附属高校。


「........おう、」

『.........暇なの?』

「お前まじで潰してやろうか。」


バッタリと門のところで会ってしまった俺のお目当ての人物。お互い「こんなとこで会うなんて」と固まり(みょうじはなんでお前がいるんだよって顔してたけどそこは見て見ぬ振り)、俺が必死に出した「おう」に超がつくほど嫌な顔で暇なのかと尋ねるみょうじ。本当に失礼な奴め......


『練習しないとまたうちに負かされますよ?』

「...まじで可愛くねー...」

『姑に気に入られようと思ってないので。』

「そこは気にられねーとまずいんじゃねーの、嫁の立場からして。」


俺の言葉に「...まぁ確かにな」なんて納得した顔をするみょうじ。だろ?姑には嫌われるよりかは気に入られた方が...あ、いやでも気に入られすぎもよくねーから程よい距離で........って!!ちげーわ!!


みょうじはかなり丈の短い制服のスカートから綺麗な脚を出して、ブラウスの上にダボダボのセーターを着ている。髪は下ろしていてゆるく巻いてあってふわふわしててなんつーか.........うん、すごくいい。


『....なんですか?そんなに見ないでくれます?』

「....誰も見てねーわ。自意識過剰かよ。」

『ったく....牧さんならあっちですよ。早く行けば。』


みょうじは俺にそう言うと面倒くさそうに手に持っていたボードを胸の辺りに持ち「2年6組でカフェやってますよ〜」なんて宣伝を始めた。その目を引く華やかな容姿に男たちが続々と群がり近くにいた俺すらもみょうじを見つけられないほどに囲まれてしまったのだ。


「......これぞ姫ってか。」


海南大附属でのみょうじの呼び名は「姫」。それは翔陽にいる俺すらも知っているほどだし、特に神奈川バスケ界ではみょうじを知らない奴はいないってほどに有名人であった。海南にいる時点で「全国区」なわけだし牧の元でマネージャーをしているなんてもはや全国でも有名なのかもしれねーな。ケッ。


しばらくして群がっていた男たちがみょうじの元を離れていき再び一人になったところで俺が近寄れば「は?」とでも言いたげなアイツと目が合った。


『...まだいたの?』

「...別に俺の勝手だろ。つーか態度違いすぎ。」

『...王子様だって普段そんな言葉遣いしないでしょ。女の子たちの前で。』


人のこと言えないじゃん、なんてみょうじは呆れたように笑った。確かにまぁその通り過ぎて何も言い返せないんだけど。男にたかられたお前が心配で離れられなかったなんて言えるわけねーけどさ?そんなに嫌な顔しなくたっていいじゃねーかよ、可愛くねーな。あ、いや、可愛いんだけど..........って、俺マジで気持ち悪いわ.........


「...俺はいいんだよ、男だし。」

『?意味わかんない。早く牧さんのとこ行ってください。』

「...なんなんだよ。そんなに俺の隣が嫌だってか。」


ムカつく奴...と思いながらみょうじの方を見れば彼女は少しだけあたりを見回した後「ハァ」とため息をついた。その意味がわからなくて彼女が見回した先を目で追って確認すれば俺と目が合った途端に顔がパァッと明るくなり手を振ってくる女たちがいるわけだ。


「........どうも。」


精一杯の笑顔でそれに応えれば途端に辺りから「キャーッ!」なんて悲鳴が聞こえてくる。俺にとっちゃ普段通りのそれだけれど今はみょうじの前だと思い視線を彼女の元へ戻せば先ほどよりもどこか下を向いてすっかり元気がなくなったような雰囲気で。


「....みょうじ?どうかしたか?」

『.....いえ。私行きますね。』

「......あ、おいっ......!」


途端にスッと居なくなるみょうじは俺の呼びかけにも反応せずさっさと退散していった。












追っかけというものは「追われる」から「逃げたい」わけで。それを「追っかける」ことで成立するんだろう。逃げられたら追いかけたくなる。その心理をやっと理解できた今まで散々追われる側だった俺。


『......だから、牧さんのクラスはあっちだって、』

「だから、俺の勝手だろうが。」

『......勘弁してよ.......』


ハァーなんて深いため息を吐いたみょうじは2年6組まで追いかけてきた俺に心底嫌そうな顔をする。なんだかそれが俺にとってはすごく新鮮で、生まれてこの方そんな顔をされたことはないわけだから。余計に距離を縮めたい衝動に駆られてしまうのだ。


俺の登場によりみょうじのいる2年6組は途端にキャーキャー甲高い声で騒がしくなりキラッキラした目であちこちから見つめられる。その声援に軽く応えてみょうじの隣をキープしておけば隣からは「離れて」なんて声がする。いや、聞こえない。


『...聞こえないフリしないで。』

「だから、俺の勝手だろ。」

『なんで?お願いだからここから出てって。』


しつこく言ってくるもんだからさすがの俺も腹が立ってきてみょうじの腕をガッと掴んでしまった。


『っ?!』

「...離れたくねーんだよ。」


少しでもみょうじが俺を意識したらいい。犬猿の仲なんて国体の時は散々噂されたけれどそんなもん俺がぶち壊してやる。みょうじの隣にいる男は俺だけで十分だ。こうなりゃ見せつけてやる。「姫」の隣は「王子」だって。













『........意味わかんない。』



俺が彼女の腕を掴んだことにより、悲鳴や叫びに変わっていた女子たちの声。騒がしい中、俺の手を振り払い教室を出ていくみょうじの後ろ姿から俺は目が離せなかった。














戦いは終わらない



(.....もしかして本当に嫌われてる?!)




難解事件編 →




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