結末








選抜の会場で会った時みょうじは完全に「俺」という存在を視界に入れなかった。隣にはいつものように神がいて神にだけ見せる俺の知らない笑顔で笑っていた。なんだよ、笑えてんじゃん。なんて、カッコつけたことを思って自分を納得させたのだけれど。


みょうじはあの日、どうして俺に「嫌い」と言ったのか答えは出ないままだった。助けたつもりでいたのにそれを望んでなかったみたいだった。あんなに散々言われてもあのままでいたかったのか?俺には到底難解すぎて答えは出なそうだった。しかし彼女がその圧倒的な容姿や美貌のせいで女子からよく思われていないということはなんとなく理解した。人気者故の悩みってか。なんか難しいな、女ってのは。


「.....藤真、三年間世話になったな。」

「こちらこそ。花形、本当にありがとう。」


あっという間に卒業を迎え俺らは今日翔陽高校から去る。高校生活にやり残したことは何もない。結局三年になってから俺たちは全国へ行けなかったけれどそれはそれで仕方のないことであった。今更どう足掻こうと負けは負けだったのだから。


「....行かなくていいのか?みょうじのところは。」

「まぁー永遠に会えねーわけじゃねーしさ。それに、好かれてねーのは確実だから。」


「嫌い」とハッキリ言われてるのに俺が強がってそう言えば花形は「恋愛っていうものは難しいんだな、藤真でもなんとかできないなんて」ととても不思議そうな顔で呟いていた。そりゃ俺にだって出来ねーことや不得意なことのひとつやふたつあるわ。


「じゃ、18時に集合だからな。」

「わかっている。」


バスケ部の奴らで集まりがあって、それを花形と確認した後俺は面倒になる前にさっさと門を出ようとしたのだけれど。在校生やらなんやらがバァーッと外へ飛び出してきてあっという間に女子の群れに囲まれてしまい帰るに帰れなくなった俺。気が付けば渡す予定もないのに本能で死守した第二ボタン以外は全てなくなりよく見りゃワイシャツのボタンもズボンのベルトも無くなっていた。は?誰だよこの変態。














「.....結局こんな時間になっちまった.....」


やっとの思いで校門を出たのは既に17時を過ぎた頃だった。今から一旦帰ってまた制服で集合だなんて確実に気が乗らない。そもそもこんなボロッボロの状態で集まるなんて恥ずかしくて嫌だよ俺。どうすっかなーなんて考えているうちにあっという間に駅に着き、そこには遠くからでもわかる見覚えのある集団がいた。


「.......牧?」

「藤真!」


色々なところで群れが出来ているこの駅前。どれもこれも今日行われた卒業式の後夜祭的なものなんだろう。海南バスケ部も例に漏れず集まっていたらしくよく見りゃ牧の他にも高砂や宮益などメインの奴らがたくさんいたわけだ。


「あ、藤真さん。こんばんは。」

「.....よう、神。」


俺に気がついて声をかけてきたのは神で相変わらず柔らかい笑顔で「久しぶりですね」なんて言ってくる。その後ろには清田と仲良く話しているみょうじがいて。瞬時に「話したい」「謝りたい」「考えていることを知りたい」なんて思いにかられるけれど、今日は卒業式で今はその後の集まりなわけだし今ここで連れ出すのも違うだろう。踏み出す勇気なんてなくて、でも清田と楽しそうに話しているし、もうなんか...いいっか。卒業式にみょうじ見れたし。もう会えないかと思ってたし...ラッキー...!なんてそんなことを考えていた俺に神はにっこり笑って衝撃的なことを口にした。


「なまえ、ほら、藤真さんだよ。」

「....?!」


神はそう言って俺に気付いていなかったみょうじに声をかけると彼女の腕を引っ張り俺の前へと連れてきたのだ。


「....神、」

「1時間だけ貸してあげます。なまえも藤真さんに話したいことがあったみたいなんで。ね?」

『そ、宗ちゃん.....!!!』


神はそう言うと牧に耳打ちし牧は俺とみょうじを見てフッと笑った。そして「行くぞ」なんて皆を連れて歩き始めていき辺りは俺とみょうじ、二人だけになったのだ。


........な、なんだよこれ.........どうすりゃ.........


「.......あー、とりあえずどこかに........」


俺も言いたいことはあるけれどみょうじもあるって神が言ってたし、とりあえずそれを聞いてあげねーとと最適な場所を考え始めた俺にみょうじは突然深々と頭を下げてきた。


「.....は?!何、急にどうした.......」

『すみませんでした。この間、嫌いなんて言って。』


藤真さんは助けてくれたのに...なんて消えそうな声で言うもんだから、まさかの言葉と普段の威勢のいいみょうじとのギャップに呆気にとられる俺。


「.......あ、あぁ........」

『...藤真さんに甘えてたんです。ごめんなさい。』

「ど、どういう...意味?」


みょうじはポツリポツリと話し始めた。

「姫」と呼ばれ始めてから女子たちの天敵になったこと。牧や神と噂になるたびにいじめがエスカレートしていったこと。そのたびに牧はみょうじに「気にするな」と言い、神は「隣にいるよ」と言ってくれたこと。そうやって二人に迷惑をかけてしまってるんだとずっと悩んでいたこと。


『藤真さんといる所を見られた時「この人まで巻き込んじゃいけない」って思ったんです。』

「....だからお前俺に「離れろ」って言ってたのか。」


黙って頷いたみょうじに俺は勝手に体の力が抜けた。だって本当に嫌がられてたと思ったし。なんだよ、そうかよ......


『あの時割って入って守ってくれたの嬉しかった。でも迷惑かけることになると思ったから出来ることなら放っておいて欲しかった。』


それで嫌いなんて言ってしまいました。


『藤真さんなら私の気持ちわかってくれるかもって勝手に思ってたんです。あの場面を見たのなら、全てを察して見て見ぬ振りしてそのままにしておいてくれるかなって。だから余計に強く「嫌い」なんて言っちゃって。』

「....わかるわけねーだろ、難事件かよ....」


だってー王子様じゃないですか。なんて軽く笑ってくるけれど、んなこと知るかよ。俺がどんな奴だろうとみょうじじゃない限りお前の考えてることなんてわかんねーよ。しかも難しすぎるんだよ。黙って守られてりゃいいものを。どんだけ周りのこと気遣うんだよ、アホか。


『藤真さんって思ってたよりずっと人間味があって、それで勝手に親近感があったんです。』

「......それ褒めてんの?」

『はい。国体の時に正体を知って、同じような境遇にいる仲間みたいに思ってたから。ついついタメ口使ったりしてすみませんでした。でも、藤真さんって案外.....女心には鈍感なんですね。』

「......どこからつっこめばいいんだか。」


いや、意味わかんねーし。そりゃ「姫」とか「王子」とか同じようなもんなのかもしんねーけどさ?親近感持ってくれてあんな態度だったんなら嬉しいけどさ?女心?んなもん知るかよ、俺男だもん。つーかそんなお前だって男心なんもわかってねーし!!


『気を遣って助けて頂いてありがとうございました。我儘に振り回しちゃってすみませんでした。』

「...鈍感なのはお前もだろ、みょうじ。」

『え?』

「俺は別に好きでもねー女のこと助けたりしねーよ。」


あれは気遣いでもなんでもねーんだよ、そもそも俺がどれだけお前のこと想ってたと思ってんだよ馬鹿野郎め。


『........』

「ハッキリ言うけどお前が入ってきて初めて海南と練習試合した時からずっと好きだ。」

『....えっ?!』

「俺はあの時「好きな女を助けた」ただそれだけだ。」


みょうじは驚いた顔で固まっている。鈍感なのはどっちなんだよ本当に。


「いろんなもんに気付いてやれなかったのは悪かった。でも俺はお前を苦しめる全てから守ってやりたいと思うし迷惑なんてこれっぽっちも思わねーよ。」

『.......嘘、』

「いつもみたいにタメ口で話せよ。「姑かよ」って笑えよ。よそよそしいお前なんて全然みょうじらしくねーから。」


俺とお前は犬猿の仲でちょうどいいんだよ。それがいつか何かに変わっていけばいいなとは思うけど、そんなのはまだずっと先でいい。とにかく隣で笑ってて。俺のこと好きじゃなくてもいいから。


『.......やっぱり、思ってた人と違う。』

「全然王子様なんかじゃねーぞ、俺は。」

『......私も、姫なんかじゃないから同じ。』

「いいや、俺にとっては世界一可愛いお姫様だよ。」


俺がそう言うとみょうじは呆気にとられたような顔で俺を見つめた。


『なんで...?犬猿の仲なのに?』

「あぁ。それは仲が良い証拠ってだけ。みょうじは誰がなんと言おうと「俺だけ」のお姫様。」


みょうじは笑った。「やっぱり藤真さんってよくわかんない」そう言いながら笑った。


「俺海南大に行くから。たまに会えるかもしんねーよ、喜べ。」

『.......会ったら他人のふりするから。』

「は?いい度胸してんなほんと。あ、そうだ。これやるからもらえよ。俺の第二ボタン。」

『.......オークションで高く売り捌くね。』

「とか言って大事にしてくれんだろ、わかってるよ俺は。」

『......姑うるさい黙れ。』











姫を守るのは王子の仕事


(よーみょうじ、お前俺の顔見てそんな嫌な顔すんのやめろ)
(だって。私服姿とか聞いてないし)
(は?大学生なんだから当たり前だろうが)
(見慣れないの!いっつもうるさいんだから!)

(............別にかっこいいとか思ってないし!)














美雨様 (*^▽^*)

この度は企画に参加して頂きありがとうございました!!そして藤真くんのリクエスト!ありがとうございました☆あの話は思いつきでパッと描いたので続編もあまり深く考えずにギャグチックでとにかく言い合う二人を当初は描いていたのですが、、どう考えてもヒロインちゃんは藤真くんに興味がない!という設定だったので、二人の距離を縮めるきっかけを探し始め...そのうちに深く考えずにいた部分をよくよく考え始めてしまい、、「姫」と呼ばれるからには苦労してるんじゃないかと思い始めてしまい色々追加で設定を作ってしまいました(T_T)しかも何度も描き直したので時間もかかった....本当にお待たせしてすみませんでした(T_T)少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです(T_T)
いつも本当にありがとうございます!今後とも共に藤真健司を愛していきましょう!!この度はありがとうございました☆




Modoru Main Susumu
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -