実習編







「本日より三週間、教育実習生としてお世話になります。藤真健司と申します。」


教卓の前で俺が深々と頭を下げれば「キャーッ!」と騒がしくなる教室内。こんなの想定の範囲内。そして...


「よろしくお願いします。」


俺のニコッと笑いかけた微笑みに青ざめた顔をする一番後ろの席の男子。奴の名は清田信長。うん。これも想定の範囲内。よし。


スーツを着て「教育実習生」として海南大附属高校にやってきたのはもちろん俺が海南大の教育学部に通っているからで。附属なんだからもちろん実習は高等部に行くわけで。何年生がいいか聞かれて「三年。清田信長のクラス。」と答えた時まさか本当に実現してもらえるとは思わなかったけど。ありがとう、先生たち。


翔陽のバスケ部に「監督」として戻りたかった俺は大学は教育学部に行くことを決意。そしてバスケットで今度は牧と同じチームでと誘われていた海南大にあっさりと進学を決めた。だって今度は仲間なんて楽しそうじゃん。別に?二年になったら実習があるし?そん時清田が高3で?メタメタにやっつけてやれるじゃん?なんて思ってねーよ?


何はともあれ、大学二年になった俺と高校三年生になった世界一大切な妹のなまえ。なんでだか知りたいけれど清田信長とは相変わらず交際を続けていていい加減にしろと思ってはいるものの。誰に似たんだかなまえは清田のこととなると超がつくほど恐ろしくて。まともに仕返ししてやれなかったんだよ。


「担当は日本史です。今日から授業もやるのでお願いします。」


だからこそ。この時をずっっっと待っていたんだよ、俺は。なまえは翔陽の三年だからな。思う存分バレないところで仕返しを........ヘッヘッヘ........。


「バスケやってるのでバスケ部の練習も見に行きます。よろしくな、清田。」


ニコッと笑えば女子たちは「清田ずるーい!」なんて騒ぎ出す。そんな周りの声すら聞こえないのか清田は目をかっぴらいてガクガク震え出した。ケッ、ざまぁみろってんだ!!











「はい、じゃあこの問題をー.......清田。」

「.......!!!!!」


適当に日本史の教科書をめくり絶対わかんないだろって問題をアイツに当てれば案の定青ざめた顔で、そして意味不明といった顔で教科書を見つめている。


「藤真先生ー... さすがに難しいと思います。特に清田は勉強苦手だし.....。」


前の席に座っていた女の子がボソッとそう呟く。は?んなことどうだっていいんだよ、黙ってろ。とは言えず。


「そうか?海南にいるんだからこれくらいはさ。センターに出るぞ、多分。」


途端に教室内は「嘘!」なんて騒ぎ始めみんなして問題の答えをチェックし始めた。


「特に清田。お前には期待している。俺もバスケ部だったけど今時バスケだけ出来ててもダメなんだよな。」


女にもモテねーしさ。なんて王子スマイルで微笑めば途端にみんなが「先生さすがー!」とか「先生バスケと勉強両立してたんですねー!」とか騒ぎ始めた。うんうん、想定内。そうだよ、俺は頑張ったんだよ。教育学部入んのだって結構大変だったんだぞ。


清田は固まったまま顔は青く「......っす」なんて呟いたような気がする。は?ちゃんと喋れ。


「そんじゃ、次の問題ー。ここを.....やっぱり清田。」

「.....グッ.....!」


今度は意味不明な声を出してやっぱりガタガタ震えてやがる。ま、こんな問題俺が高3でもわかんなかっただろうよ。でもそんなことどーだっていい。今が楽しくて仕方ねー。だってやりたい放題じゃん?!


「先生、これもセンター出ますか?」

「出る出る。めっちゃ出る。つーか清田、お前バスケしか出来ねーのかー?」


俺の言葉に清田はむっと口を閉じ黙り込んでいる。いい顔だなぁ....そうそう、お前はそうやって俺に黙らされてればいいんだよ。


「藤真先生!清田にはめっちゃ可愛い彼女がいます!」

「....バッ、馬鹿!言うな!!」


誰かの密告に俺がガタッと肩を揺らせば清田は途端にそう叫んだ。俺と目が合うと「ヒィッ」なんて声を出している。


「....へぇ、可愛い彼女ねぇ....。」

「清田に限っては勉強できなくてもバスケ出来るから勝ち組です!」

「ふぅん.....どんな子?そんなに可愛いの?」


俺がそう興味を示せばクラスメイトたちはみんな揃って「めっちゃ可愛い!」なんて言い始めた。


「海南の子?見たいな、そんなに言うんなら。」

「違うんですよー!翔陽高校の三年生です。」


お人形さんみたいに整った顔で〜、なんてあちこちから聞こえ始める。清田は絶望的な顔で震えていた。つーかなんでみんな知ってんだよ?周知の事実ってか?ふざけやがって.......


「そうなんだ.....いいなぁ清田、そんなに可愛い彼女がいるなんて。」


「 羨ましいよ 」俺がそう言って渾身の笑みで笑えば清田はその場にガタッと立ち上がり「すみませんでした!」なんて謝った。うるせーんだよ、座りやがれ!!










少しだけバスケ部に顔を出し青ざめた清田にちょっかいを出して、今日の実習の様子を職員室でまとめてから帰宅した。ただいまーと放った俺の声に母さんも姉貴もなまえすらも反応してくれなくて中からは騒がしい話し声が聞こえる。


「ただいまー........っ、は?!」


そんなにうるさくなるくらい何話し込んでんだとリビングを覗けば「おかえりー」なんて呑気に笑うなまえの隣でお茶碗片手に飯食ってる清田がいるわけだ。


.......は?!


「おまっ.....は?!なんでウチで飯食ってんだよ!!」

「健ちゃんおかえり。可愛い生徒さんになんてこと言うの。」


母さんは「ごめんなさいねー信長くん」なんて清田に謝っている。は?マジなんなの?なんでお前が俺ん家来んの?つーかなんで家でもお前と顔合わせなきゃなんねーの?!


「帰りやがれ.........!!!」

『最低。生徒に向かってなんてこと言うの?教師失格。サヨウナラー!』


シッシッと俺に向かって手を動かすなまえ。そんな言葉を聞いて嬉しそうにご飯を食べ進める清田。こんの野郎め.......!!!


「健司〜、男の嫉妬は醜いよ?信長くんすっごいいい子じゃん。変な男に捕まったわけじゃないんだし。よかったじゃない。」

「なんもよくねーよ、姉貴は黙ってろ.....!」

『信長くんおかわりする?これ食べたら私の部屋で勉強しよ!』

「お、おう....!」


..........クソ.........。さっきからなまえは俺の存在なんて完全無視だしそれに伴い清田も俺を視界に入れようとすらしない。つーか仮にも彼女の兄貴なんだし挨拶くらいしろよ、この猿め!!


「信長くんほんっとにいい子だわ...なまえのことこれからもよろしく頼むわね。」

「は、はいっ.....!!」

「私からもお願いするわ。健司本当にうるさいけど無視していいからね。なまえのことお願いね〜!」

「よ、喜んで....!!」

『えへへ....信長くんが褒められると私も嬉しいなぁ....。』















それ以来学校で会っても清田は俺を無視するようになった。問題に奴を指名すれば「わかりません」とだけ言ってあとは言葉を発しない。バスケ部の練習に参加しても俺なんて視界に入れなくて。


なまえとの関係も順調で、そして母さんと姉貴からも絶大な信頼を得た清田は俺なんて眼中に入れなくなったのだ。そして無敵と化した清田と、清田のこととなるとあまりにも恐いなまえが二人揃って海南大に進学してくるのはもう少し先の話であった。








最恐お兄様の妹はさらに最恐なのだ


(どいつもこいつも俺を無視すんなーー!!!)



教育実習の話を描きたくて追加しました(^o^)v!ゆいさん藤真三兄弟のリクエスト本当にありがとうございました〜☆






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