06







『............』
「あちゃ〜こりゃだいぶ離れたね。」


そう落ち込むなよ、と肩に手を置いてくる水戸くん。そんなんじゃないってば。別に、そんなんじゃ...。


『別に...席順なんてなんだっていいもん。』
「ふぅ〜ん?の割には流川の方ばっか見てるけど?」
『違うし。あっちがたまたま出入り口だからでしょ。先生入ってくるの待ってるだけだよ。』


次の授業の支度をして私は頬杖をつきながら教室の出入り口を眺めていた。そこは水戸くんの言う通り、相変わらずうつ伏せにして眠っている流川くんがいる方向と同じで。べ、別に...寂しくないし、悲しくないし!席替えしなくてもよかったんじゃない?とか思ってないから。


「ま、また席替えくらいすぐするよ。俺が隣だってこと喜んでくれてもいーじゃん。」
『喜んでるよ、これでも。』
「...すっげー不機嫌そうに喜んでるんだな、器用だこと。」


ククク、と笑われてだんだん腹が立ってくる。いくら水戸くんといえど許さないぞ.......。


担任の先生の気まぐれで夏休み前に席替えをしたのはいいものの、流川くんとは正反対の位置になってしまい、1番廊下側の列の前から2番目が流川くんで、1番窓側の列の後ろから2番目が私。隣は水戸くん。


流川くんの隣には学年でも可愛いと有名な女の子がいて、それだけでなんだかモヤモヤっとするものを感じてしまう。だって流川くんかっこいいし。寝ている背中すらオーラが見えるよ。隣の子、あんなにモテるって有名なのに、流川くんの隣になれてすごく嬉しそうだし、現に今だって流川くんのうつ伏せの背中をずっと見つめているじゃないか。なんだそれは。


「そんなに見たって目に毒だ。」
『見てないってば〜!からかうのもいい加減に...』
「いい加減にするのはなまえちゃんだろ。」


何故か真剣な顔して水戸くんに言われて思わず黙り込んでしまう。でも次の瞬間には「恋する乙女」なんてフニャッとした笑顔で言われて、なんだよ水戸くんビックリさせるなよー!なんてたちまち怒りが湧いてきた。いや、今の何なの、本当に!


「つーか、土曜の決勝リーグ行くでしょ?」
『うん、だって...一番大事な試合じゃん...。』


口に出して何故だか緊張してしまう。今年は陵南高校がとても強くて既に1位でインターハイを決めており、残るひと枠を海南大と湘北が争っているのだ。翔陽は全敗で負けが決まったからいいものの、この試合はとてもじゃないが緊張無しでは見られない。次の土曜日。決戦は迫っている。


「じゃあ俺原付で迎え行くから、家の前にいて。」
『いいの?ありがとう!助かるよ...!』
「お安い御用。楽しみだな、緊張するけど。」


何だか俺らの方がドキドキしてるっぽいよなーなんて水戸くんは笑った。確かにそうだ。選手やマネージャーの皆さんはここまでくればもう怖いものはないって感じなんだけど。それはすごくいいことだし流川くんに至っては今もあんなに寝ているし。それなのに私たちときたら。ドキドキで夜も眠れない日が続いているよ。










土曜日。
水戸くんは予定よりも30分も早く迎えにきたからあーだこーだ文句言ってたら、既に会場外に観客の列が出来てるとかで急いで会場へ向かった。大楠くんと高宮くんが先に場所取りのために並んでいてくれてて、色々あったら便利なものを野間くんが買ってきてくれた。なんという連携プレー。ありがとうみんな!


「人がすげぇなぁ.....。」
「なまえちゃん、トイレ行く時俺も行くから。言ってね。」
『えっ、.......水戸くんそれはどういう意味?』
「いや、わかれよ。迷子になると困るからだろ。」


恋する乙女は流川しか見えてねーからなー?なんてからかい気味に言われたけど、水戸くんのそんな細かいとこまで行き届いた配慮が嬉しくもあり素直にお礼を言っておいた。


いや、純粋に変な意味かと焦ったけど。


「始まるぞ......花道!野猿に負けるなよ!」
「花道頑張れよ!リバウンド王!」


スタンドから叫ぶそれももはや彼に届いてるのか微妙なくらい騒がしくて仕方ない。


「おっ、オメーら久しぶりじゃん。」


ひとつだけ空いていた大楠くんの隣にスッと座ってきた人がいて、みんな怖がってるのに随分勇気あるんだなぁ、とか思ってたらどこかで見たことのある........


「お、ミッチーじゃん。」
「ミッチー言うな!......お、水戸の彼女。」
『...え?私?!』


あ、あぁそうだ。去年の3年の先輩だ!ミッチーと呼ばれたその人は確か三井さんだったかな。何故だか私に向かって見当違いなことを言ってくる。


「あれ?ちげーの?」
「ダメだよミッチー。恋する乙女にそんなこと言ったら。」
「何?恋してんの?水戸にじゃなくて?」


相変わらず意味不明なことを言っているから一発蹴り上げてやろうかとも思ったけど確か元不良だった気がするからやめておこう。あとが怖いしね。


『全部違いますから。桜木くんの友達です。』
「あぁ〜アイツのね。悪りぃ悪りぃ。」


悪気なさそうに笑うのが少しむかついたけどそんなこんなしてるうちに試合が始まり私たちは終始無言であった。無理だ、言葉を発するなんて無理。この緊張感、この空気感.........お願い、負けないで。
















流川くんはスーパースターです


(でもいくらスターでも.........負けることもあります)






Modoru Susumu
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