07






夏休みの補講にもバスケ部はきっちりと参加していた。流川くんにとっては睡眠でしかないだろうけど、この時期学校に来るということは......


やっぱり負けたんだなぁ、と思い出しては泣きそうになる。


海南大附属は2位でインターハイ出場を決めた。別に湘北が弱いわけじゃない。次戦ったら同じ結果にはならないだろうし、実力云々ではない。


それでも、湘北は負けた。
湘北は負けて、海南が勝った。


紛れもない現実にあの日散々泣いて水戸くんに心配されたのを思い出す。流川くんの夏が終わった。あんなに勉強頑張って、赤点逃れて、これでバスケに集中出来るね、と送り出した気持ちでいた流川くんが.........。それは私にとって涙なしには受け入れられないほどのものだった。


それが流川くんを大切に想っていることを意味するんだと、いよいよ自分でも理解し始めてきた。でもそれが「恋」かと問われれば違う気もする。なんというか...「憧れ」が近いような気もするし、今まで遠い存在だった人が急激に近い距離に現れて、それに戸惑い、どんな人なのか気になっているんだと、そんな感じもする。


しかし私の気持ちがなんであれ、席が離れ、試合に負け、夏休みに睡眠と部活の為に登校している流川くんと私には、今は何の共通点もないし、話しかける話題も、共に時間を過ごす理由も、何もなかった。それがやけに寂しくて、日常がつまらないものになったのは紛れもなく事実であった。


「なまえちゃん今日暇だったら寄り道してかねー?」
『.........ごめん、私今日は勉強して帰るね。』


そっかーと残念そうな水戸くんの声が聞こえてくる。何故だか今はみんなと楽しく過ごす気になれなかった。


流川くんの方へと自然に視線が向いてしまい、隣の席の女の子が必死に流川くんを起こそうと肩を叩いたり、多分流川くんの為にノートを取ってあげてるであろう様子を見ると「それは今まで私の仕事だったのに」と思ってしまう自分がいた。きっと今度のテストでは、私じゃなくあの子に教えてもらうのかもしれないし、2人で勉強したりするのかもしれない。別にそれは私には関係のないことなのに..........。











『あーなんかすっごいイライラするねー!』
「どうしたどうした!これでも食っとけ!」


ほらよ、と大楠くんがくれたのはチョコレート。昼休みに度々みんなと過ごしているけれどいつもみんなして優しくしてくれるから随分と甘えてしまう。「恋の悩みだな〜」なんてニヤける水戸くんは無視して、お礼にポケットから飴を取り出せば大楠くんは喜んでくれた。


『はい、リンゴの飴ちゃん。』
「出た!これ俺も大好き!なまえちゃんマジでリンゴの飴ちゃん好きだよな〜!」


いつもポケットに入ってるよな、なんて大楠くんはよくわかっている。









放課後、私は教室でひとり勉強をして過ごしていた。予定もないけど家にも帰りたくない。バスケ部の練習見たいけど、......見たくない気もする。


モヤモヤする気持ちは時間が経つにつれて増していって、イライラしながら勉強に取り組んでいれば窓の外は夏なのに薄暗くなっていた。


『えっ......うそ、帰んなきゃ.........。』


さすがにこんな時間じゃもうどこも部活終わってるだろうし......。夏休みの補講は普段の授業よりも終わるのが早いから、それに伴い部活が始まる時間も早い。こりゃ本当に校舎にひとりぼっちだったりして......。


『早く帰んなきゃ...........』


急いで片付けをして鞄を持って教室を出る。下駄箱のあたりでまだ体育館に明かりが灯っているのが目に入りつられるようにして近づいてしまった。


『まだ練習............?』


負けたからって、一体何時間やるんだ........?


そう思い僅かな隙間から顔を出せば、軽快なバッシュの音や心地いいドリブルの音が聞こえるものの人数が多いようには思えない。


『..........!!!』


そこには、ひとりでドリブルしてからシュートを繰り返す流川くんがいて。


あまりの汗だくな顔に声が出そうになってしまう。一体いつから自主練を...?!あんなに汗が出るまで.........。


何故だかそこから動けなくて、ほんの隙間から覗き見てしまう。あまりにも綺麗なシュートホーム。こんなに近くで見たのは初めてで外れることなく次々決まるシュートに拍手してしまいそうになった。





流川くんって、とっても努力家なんだなぁ......。


英語の点数で私に負けた時もすごく悔しそうだったし、相当な負けず嫌いなのはわかる。でも現状に満足せずに上を目指す志もすごいし、みんなの何倍もこうやって努力してきてると思うとやっぱり涙が溢れそうになった。


こんなにやっても、、負けたんだもん。


自分のせいだと自分自身を苦しめていないか。罪滅ぼしの為に、無心になってバスケに取り組んでいないか、なんだか不安になってしまう。


「.........ふぅ、」


流川くんは休憩に入るようでボールを一旦下に置くと体育館の出入り口へと向かっていった。こんなに頑張ってる流川くんに、どんな形でもいいから何か協力したいけれど、生憎私には勉強以外なさそうだった。たまたま水道のところに置いてあったスポーツタオルが目に入り、それがよく流川くんが使っているものだと、隣の席のよしみでわかった私は、それを畳み、その上に飴ちゃんをひとつ乗せておいた。













流川くんはとんでもない努力家です


(......リンゴの飴?)







Modoru Susumu
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