05






あれから何度か流川くんに勉強を教えたり、桜木くん達とお喋りしながら勉強したり、そんな感じで過ごしてテストを迎えた。あっという間に採点されたそれは返却されて私は思っていたよりもずっと点が良くて安心した。しかし、安堵も束の間。点数を確認しなきゃならない教え子がたくさんいる。桜木くんはなんとか赤点を逃れ泣きながら報告に来てくれた。本当によかった。


隣の席の流川くんはというと、英語以外は本当にギリギリ赤点セーフだったらしく。英語だけは答案用紙を無言で私に見せつけてきた。その点は思っていたよりもずっと高くて驚いたけれど、その少し上の点をとった私の答案を見た流川くんは面白くなさそうに舌打ちしていた。その姿がなんだか可愛くて思わず笑ってしまったら流川くんはさらに機嫌が悪くなってしまい、その日は口をきいてもらえなかった。油断していたらいよいよ次のテストでは抜かされてしまいそうだ。



テストも終わり、いよいよバスケ部は県予選に向けて日がなくなっている。桜木くんがかなり自信満々で「今年もいける」だなんて言いふらしているのできっと桜木くんと流川くんなら大丈夫だろう、と私も応援に熱が入る。







県予選まで後少し、そんなある日、流川くんは授業中全てを睡眠に使い、あの力を入れている英語すらも伏せて授業を受けていた。なんだかおかしな日もあるもんだなぁ、なんて思いながら、お節介な私はルーズリーフに流川くんに渡せるようにと板書をする。相変わらず途中途中でこちらに寝顔を見せてくる流川くん。普段なら静かな寝息も今日は少しだけ荒っぽい感じがしてもしかして鼻でも詰まってるのかな?なんて余計な心配までしてしまう。


放課後、普段なら部活センサーが反応して素早く起き上がる流川くんも今日はちっとも動きがない。隣のクラスの桜木くんは先程大きな鼻声を歌いながら体育館へと向かっていったし、このまま寝たまま過ごしたらきっと厳しいで有名な部長さんに怒られてしまうだろう。名前はなんだったか.......リョー...?


『る、流川くん...?』


トントン、と背中を叩いてもちっとも反応がない。それどころかふいっと反対側に顔を向けられてしまった。そりゃ、私だって寝かせてあげたいけどさ!


『あ、あの、........。』


どうしよう、起こすべきだよね?

でも1年の頃よく噂で聞いたけど、流川くん誰かに起こされると相当乱暴に暴れるとか...。2年になってからはそれを先生達も承知しているのか誰ひとりとして寝ている流川くんを起こそうとはしなかった。正当防衛だ。


でも、確実に遅刻になるよね.........。






どうしてもこのまま流川くんを置いて帰れない私は意を決して流川くんの背中を大きく揺さぶった。


すると少しだけ反応があり、その瞬間耳元で「流川くーん」と声をかける。流川くんはゆらゆらと揺れながらゆっくり顔を上げてパチパチと瞬きしている。


『起こしてごめんね、でももう部活の時間だよ!』


早くしないと遅刻かもしれない!と早口で伝えると流川くんはジッと私を見た後にギュッと目を瞑った。


「.......頭、痛ぇ...」


頭?と瞬時に聞き返した私に小さくコクッと頷いた。でも流川くんは時計を確認すると早足で鞄片手に教室を出ようとする。私は慌てて鞄の中を漁り流川くんを呼び止めた。


『待って!!』
「........?」


不思議そうな流川くんに急いで見つけ出したソレを差し出せばジッと手元を見つめてくる。


『これ、頭痛薬。効くかわからないけど、よかったら...。』


こんなもの飲まないし、そもそも誰かにもらったものなんて疑い深くて...。流川くんならそう考えたりしそうだなぁって、断りづらいことさせちゃったかな、と不安になっていたら流川くんの綺麗な手が私に向かって伸びてきた。


「...サンキュ」


それを大事に受け取ると少しだけ笑ってそう言ってくれる。何も言い返せなくてコクリと頷くと流川くんはその場から動かずにジッと私を見ている。あれ?えっと.........、あ!


『そ、そうだよね、水!水が無いと...!』


とりあえず自分の鞄を漁るけど飲みかけのミネラルウォーターが出てきてさすがにこんなの渡せるわけない、とそこら辺に置く。


『これじゃない、えっと....あ、そうだ、確か...』


勉強教えてくれたお礼に、とかで昼休みに高宮くんにもらったリンゴジュースがあったはずだ!まだ未開封。水じゃないけど仕方ない、これを渡そう、と顔を上げた時には既に流川くんは頭痛薬を口へ運んでいた。


『......あっ、!それは飲みかけで......っ、!!』


流川くんが平然と手にしたそれは私の飲みかけのミネラルウォーターで。必死に止めようとしたものの既にペットボトルに口をつけていてゴクリ、音を鳴らして薬を飲み込んだ。


うそ.........ガッツリ、口つけてたけど......っ!







「...サンキュ」


手にしていたペットボトルを元あった場所に置いて、流川くんはそう言って教室を出て行った。廊下を走る音がどんどんと小さくなっていく。








『.....いや、待って......な、なんなの今の.....。』


信じられない。信じられないっていうか、何?!今の、何事?!流川くん、人のものとか平気で飲めちゃうの?それ親衛隊が知ったらやばいよ......。飲みかけのペットボトルの差し入れ増えちゃうよ.........。







しばらくその場から動けずに固まったままの私のため息がやけに教室に響いたのだった。















流川くんはドキドキさせる天才です

(......む、無理、もうこの水飲めない...)






Modoru Susumu
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