My Brothers
** 紳一 宗一郎 信長 で三兄弟
私の彼氏はいつも不満そうな顔をしている。
「これ、お兄さんに渡して!宗一郎さんの方!」
「信長くん、これ紳一くんに渡してくれる?」
例えばバレンタインデー。私の彼氏である信長くんはいつだって女の子に囲まれている。彼氏がモテるっていうのは嬉しいような腹立たしいような。そんな複雑な感情の狭間にいた付き合い始めて最初のバレンタイン。しかしそんな私の心は彼のため息により見事に何処かへ消えていった。
「ったく......自分で渡せよな......いつも俺が兄貴達の分まで.......」
モテるのは彼ではない。彼の大学生の「お兄さん達」なのだった。例えばそんなお兄さん達の誕生日。複数形で二人存在する兄達の誕生日、年に二回くるその日はバレンタイン同様信長くんの周りには女の子で溢れかえり、山盛りのプレゼントを抱えて帰宅することになるのだ。この間はそのお手伝いもした。実際にその「紳一さん」と「宗一郎さん」にはまだお会いしたことはないのだけれど、ここらへんでは相当な美形兄弟なんだと昔から有名だった。
私はそんな信長くんも好きだ。いつもいつも...なんてふて腐れながらもちゃんと兄達にプレゼントを届ける信長くんが好きだ。以前あまりにも文句が多いので「本人に渡すよう言って、受け取らなければいいのに」とポロッと出た私の提案に彼は少し気に入らないように返事をした。
自分で渡せないから俺を頼ってるんだろ、と。
ひとつひとつに想いが詰まってるからそんな風に断れないんだ、と。
もう一回言う。私はそんな信長くんも大好きだ。少し騒がしくてうるさくてお馬鹿で、基本お兄さん達大好きで心が優しくていつでも真っ直ぐなところが大好きだ。
「なまえ、お待たせ!」
『待ってないよ。行こ!』
新しく出来た可愛らしい外観のカフェに誘えば信長くんは少し照れ臭そうな顔をした後「なまえと一緒に行くんなら平気か」なんて答えてくれた。二人並んで歩くと自然と重なる手。信長くんは私の手を少し揺らしながら「楽しみだなー」なんて今となってはすっかり乗り気だ。
『うわっ......少し待つかもね......まだ開店前なのにすごい行列......』
「まぁ平気だろ、じゃその間これ聴いてよーぜ。」
そう言って信長くんはポケットからイヤホンを取り出すと私の片耳に勝手に差し込み音楽をかけ始めた。「これ最近出た新曲なんだよ」なんて楽しそうで、こういうところも本当に大好きなんだ。信長くんのその無邪気な笑顔が一番好きだけれど。
「意外とすぐ座れたな。」
『そうだね......うわぁ!これ食べたい!』
「俺これ頼むから半分こしようぜ」なんて信長くんはやっぱり私のことをよくわかっている。自分が頼んだものと最後まで悩んでいたもうひとつを注文してくれるあたり相当できる男の子なのだ。注文を待っている間、楽しそうに鼻歌を歌っていた信長くんは途端に騒がしくなる店内にいきなり立ち上がった。
『えっ?......ど、どうしたの......?』
「嫌な予感がするんだよ......この歓声は.........、」
突然のことに何が起こったのかわからない私をよそに信長くんはキョロキョロと辺りを見渡して何かを探しているようだった。そしてガラス張りの窓の外を指差し「やっぱり......!!」なんて半ギレで歯を食いしばっている。
「バレバレだっての...!!帰りやがれ...!!」
指差したガラスの向こうにはニコニコ笑ってこちらを見ている背の高い男の人が二人いて、よく見れば相当顔が整っている。ひとりは大人っぽい見た目にもうひとりは背が高くスッとしいて可愛らしい顔立ちだ。
店内のみならず外からも騒がしい声が降り注がれているのはその二人だとわかり、目で追えば二人は行列を無視して店内に入ってくるではないか。そして私と信長くんが座った四人掛けのテーブルへと近づくと「失礼」と言ってから勝手に座り始めたのだ。
『えっ.....?』
「ごめんなまえ......これ俺の兄貴......。」
まさかとは思ったがついに本物に会えた...?なんて状況を理解するのに必死な私に対して隣に座った可愛らしい顔つきの人が「はじめまして、宗一郎です」なんて挨拶をしてくれる。
『あ、は、はじめまして....みょうじなまえと言います...。』
「つーか、人のデート追っかけてくるとかなんなんだよ!おかげでこんなうるさくなったし......!」
信長くんはキレていた。辺りを見渡せば全ての視線は私たちテーブルに注がれている。
「勝手についてくんじゃねーよ!ったく...!」
「まぁまぁ怒るな、信長。たまたま見かけただけだ。」
「たまたま?!にしちゃ、コソコソ木陰に隠れてこっち見てたよな?!」
信長くんの隣に座った「紳一さん」が信長くんを宥めるものの図星を突かれ「バレるの早かったな...」なんて独り言を呟いていた。
「で?!何しに来たんだ?!」
「決まってるじゃん。俺らのせいで彼女が出来ないって悩んでた信長についに彼女が出来たって言うから、どんな子か確認に来たの。」
「開き直ってやがる.......!」
宗一郎さんの言葉に信長くんはため息をついた。あっけらかんとした態度の宗一郎さんは突然隣に座る私へと向くとそっと私の手を取り「よかったよ」なんて微笑んでくる。
「もしかしたら俺や兄さん目当てで信長に近づいたのかなって疑ってたんだ。」
『へっ?.......』
「なまえちゃんには信長しか見えてないみたいで安心したよ。」
こんな至近距離で手をとられてそんな風に微笑まれたら私の脳は簡単にショートしそうになった。いかんいかん!私よ!戻ってこい!
「あぁー!手ェ離せ!なまえが困ってんだろ!」
『...あ、あの...私は信長くんが好きなので...もう手を離してもらえたら......』
何故だか先ほどよりも力が入っている手。絶対離さないと言わんばかりの宗一郎さん。しかし顔は穏やかに笑っていてその意味がわからない。
「...でも俺に何の興味がないってのも、それはそれで楽しそうだなぁって思っちゃうんだよね。」
『はっ...?!』
「どう?信長なんかやめて、俺に落ちてみる?」
片方の手でふわっと頭を撫でられて「どうかな?」なんて首を傾げてくる宗一郎さん。あまりの甘い雰囲気に店内は「キャーッ!」なんて声が上がり私は容易に体温が上がってしまった。
「....ばっ、馬鹿野郎!!!何言ってんだ...離しやがれ!!!!」
信長の叫び声がものすごく遠くに聞こえる。
『あ、あの......冗談はやめて.......。』
「あれ?冗談だと思われた?さすが信長の彼女。」
やっぱりニコニコ楽しそうな宗一郎さんはとっても危険人物なんだと私の脳にインプットされた。この笑みと甘い言葉で何人もの女性が落とされたのだろうか、とても怖くて考えたくない。
「宗一郎、もうやめておけ。お前はいつも手が早いんだ。」
「なんですか、兄さん。俺らじゃなくて信長を好きだなんて兄さんも興味ないですか?」
「弟を貶すな、宗一郎。」
続けて、斜め前に座った紳一さんが私に口を開く。
「今後共信長を頼む。どんな相手と付き合い始めたのか気になって後をつけたんだ。そんな真似して悪かった。」
『あ、いえ......』
「兄貴達......俺は大丈夫っす。なまえめっちゃいい子だし、絶対幸せにします。」
紳一さんが会話に入ると途端に場が引き締まり信長くんはしみじみ感動したような顔でそう答えていた。嬉しくてニヤニヤしちゃう私の手は解放されたはずなのに再び優しく包まれる。
『えっ...』
「てなわけで、今度うちにおいでよ。たっぷりおもてなしするよ。例えば俺が体を使って....とかね。」
「お、おい!!!何言ってんだよ馬鹿兄貴!!!」
「......冗談に決まってるじゃん。それより馬鹿兄貴って何?ねぇ、信長。家帰ったら俺の部屋集合ね。」
それじゃあまたね、なまえちゃん。
宗一郎さんはそう言い、テーブルの上に一万円札を残してカフェを出ていった。その後を「すまなかった」なんて言い残して追いかける紳一さん。
『......信長くん、大丈夫?』
残された信長くんは「やっちまった...」なんてひとり震えていた。外からは騒がしい歓声が響き続けた。
二番目の兄貴は恐ろしい(......しばかれる.......)
(信長くん平気?私も一緒に家に行こうか?)
(そ、それは絶対にダメ!!!!!)
ちょうど学年がひとつずつ違うので兄弟にしちゃおうと思ってしまいました(^_^)こんな三兄弟絶対に楽しい...ちなみに名字は何になるんだろう??(笑)