卒業編
「なまえさん!卒業おめでとうございます!!」
『うわぁ〜ありがとうみんな〜!』
彩子と共に男子バスケ部の部員に囲まれたなまえを見て流川は死ぬほど大きなため息をついた。
ついにこの日が来てしまった。
「あら流川、めでたいこの日を祝う気ゼロって顔ね。」
「出来ることなら留年して欲しかったす」
「それはなまえにとっては地獄ね。」
彩子の言葉に「...す」と呟いた流川。既になまえの周りには男子バスケ部以外の学ランの男たちが集まっており寄ってたかって写真を撮ったりブレザーのボタンをねだられたりしている。
『ここのボタンならどうぞ。一応心臓に近いからここのはとっておきます。』
そのとっておいたボタンが自分の元にくるのだとわかってはいるのにやっぱり面白くなくって。卒業式だからいいだろうと普段近寄れない高嶺の花であったなまえに同級生や後輩関係なく男たちが続々と集まってくる。
これじゃ中学の時となんら変わりねーな...
流川は再びため息をついた。
「まぁいいじゃないの。アンタの彼女だからってみんな遠慮してたんでしょ。」
「...なんもよくねー...」
『おー、楓さん随分とご立腹ですね....』
ブレザーのボタンはなくなり胸元のコサージュやワイシャツのボタン、リボンまで取られたボロボロななまえがそう言った。
「...誰のせいだと」
『わかってるって。ごめんね。これ、一応第二ボタンは楓さんに渡しておかないと。』
はい、と差し出されたどこについていたのかわからないボタンを受け取ればなまえは「楓さんの学ランもボタン取られてるー!」とケラケラ笑っていた。
「ついでに取られた」
『なんのついでだよー!まだ二年生なのに...親衛隊怖すぎる....!!』
やっぱり楽しそうで上機嫌な彼女。流川はもう怒る気力もなくなり乱暴になまえの頭を撫でた。「やめてよー」なんてやっぱり楽しそうだ。
「...にしてもすげー人気だったすね、なまえセンパイ」
『あはは...なにその突然の...。わかってるから家まで我慢してね。』
相変わらず自分の気持ちを一番わかってくれているなまえ。何を隠そう今すぐこの場で押し倒して自分のものだと見せつけてやりたい気持ちでいっぱいであった。それも彼女の言葉にうまくかわされてしまう。
「さっさと帰るぞ」
『わかってる、あ...少し待ってて。ヤスー!リョータ!写真撮ってなかったじゃーん!』
さっさと家へ連れ込んでたっぷり可愛がってやろうと思った矢先、流川の手からスルリと抜けてなまえは遠くでたむろっていた宮城と安田のもとへ駆けて行った。
「おーなまえちゃーん!すげー人気だったじゃん!」
『そんなことないよ。彩子〜写真撮ろうよ〜!』
「アヤちゃん....。」
宮城はグッと掌を握りしめた。その中には自分の第二ボタンが入っており彩子に渡すため大事に取っておいたのだ。無論欲しがる女子などいなかったが。
『桜木ー!写真撮ってー!』
「お、なまえサン。この天才カメラマン桜木に写真撮影を頼むとは中々の目の付け所...!」
パシャッと音が鳴り四人での写真を撮り終えた後、宮城は意を決して彩子に腕を伸ばした。
「アヤちゃんこれ!受け取ってください!」
「?...あらボタンじゃない。ありがとうリョータ。」
「.....!!ありがとうは俺のセリフだよ...!!」
それを見た安田となまえはふふっと微笑み合いながら喜びそこにリョータが混ざり3人でワイワイ騒ぎ始めた。彩子はさっさとどこかへ消えたがその後も3人は思い出話に花が咲き一向に帰る気配がない。
「.......おい」
それを遠くから一部始終見ていた流川は永遠と戻ってくる気配のないなまえに近寄るものの、騒ぐ3人の元に今度は安西先生が出てきてさらに盛り上がる3人。
「安西先生...!」
安田が瞳をうるうるさせながら先生の名を呟けばなまえはダーッと涙を流しながら「先生.....」と涙声を発した。
『先生.......安西先生......!』
安西がほっほっ、と笑えば宮城は先生の前に膝まずく。
「安西先生...バスケがしたいです....」
『あぁー...懐かしの三井寿......』
「三井さん...」
宮城がいつかの先輩の真似をすればなまえと安田は相変わらず泣きながらもはや何に対する涙かわからないまま先輩を懐かしむ。流川はどこから突っ込めばいいのかわからず「ハァ」とため息をついた。
「なにしてるのアンタたち...」
「ほっほっほ」
たまたま見ていた彩子が呆れたように呟く。
「なまえさん!お写真いいですか?」
『晴子ちゃーん.....ぜひ....こんな顔で良ければぁぁ.....』
もはやぐちゃぐちゃでいつもの綺麗な顔は何処へやらのなまえだが相変わらず人気が高く晴子や松井、藤井からも写真を求められていた。
「...ったく...」
「で?」
『いやぁ...ついつい取り乱してしまいまして...卒業ってなんかさ、解放されちゃってさ...』
楓さんも来年わかるよ、と続けたなまえに流川は「わかりたくねーよ」と心の中で叫ぶ。
「...もう何も喋るな」
『楓っ.......、』
やっと自分だけの時間だと流川は自身のベッドに横たわるなまえに甘く口付けた。息継ぎのために漏れる甘い声にやっと心が満たされ甘く、けれども乱暴になまえを抱いたのだった。
「なまえ」
『ん?』
「卒業おめでとう」
どうして同じ年に生まれなかったのか何度悔やんだだろう(ありがとう楓さん)
(いーえ、なまえサン)
(あらっ、桜木みたいだねその呼び方)
(やめろ)