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その日俺は神さんとのご飯の約束の為、待ち合わせの駅へと向かって歩いていた。


「お、フラフラしてんな......。」


前を歩く若い女の子がやけにフラフラと蛇行しながら歩いていて。その手には大きな紙袋がいくつも握られていてなんだか今にも倒れそうで怖い。俺の予想は的中しフラッと横にずれた女の子は膝から崩れ落ちた。


「大丈夫っすか?!」


慌てて駆け寄った俺は彼女が地面に膝をつく寸前で腕を支えてキャッチし、崩れ落ちる、といった直前でそれを防ぐことに成功したわけだ。さすがは俺。反射神経は鈍ってねーぜ。


『あ、ありがとうございます.....すみません.....。』
「体調でも悪いんですか?大丈夫?」
『あ、はい。......少し足が痛くて。歩きすぎちゃったから.....。』


彼女はそう言うと手から離れた紙袋を拾い始めた。あ、俺の好きなブランドの......。そんなのが顔に出てたらしく彼女は不思議そうな顔で俺を見ていた。



.......うわっ、めっちゃ可愛いじゃん......




「....あ、そのブランド俺もよく買いに行くからさ、」
『そうなんですね。少し高いけどいいですよね!』


メンズもウィメンズも両方展開しているそのブランドを選ぶあたり趣味も合いそうだし何より見た目が超タイプだ.......。


「どこまで行くんすか?」
『駅です。』
「あ、俺も駅。よかったら持ちますよ。」


両手から紙袋を奪えば彼女は「そんなっ」と慌てたけれどそのうち「ありがとう」と一言言ってきた。



マジで...可愛い!!!!!



並んで駅まで歩く途中、高いビルの看板によく知った人物が写っていて俺はそれを口に出した。


「あ、流川。流川楓、最近結婚しましたよね。」


看板に写るスポーツブランドの広告を務める流川を見ながらそう言えば彼女は「そうですね」と笑っていた。


「俺、バスケやってたんすよ。」
『私もやってました〜!』


女の子は同じですね、と言って笑った。うわぁ、まさかの共通点まで......。やばいぞこれは.......。


『足痛いのもバスケしてたからで.....。』
「あ、そうなんですか?」
『手術とかもしてて、今日はヒールで歩きすぎちゃって.....。こんなにたくさん買い物する予定なかったんだけど.....。』


シュンとしながらそう言う姿が可愛くってたまらない。


「そっかぁ....バスケは今でも好き?」
『好きです。よく観てます。』
「俺も。高校はどこだったの?」
『翔陽高校です。高校では男子バスケのマネージャーを....。』


翔陽でマネージャーだと?!これはもう程よく近いものを感じまくってもはや運命なんじゃないの.....柄にもなくそんなことを思った俺はもっとこの共通の話題で盛り上がろうと昔話を引っ張り出してくる。


「俺海南大附属でバスケしてたんだけどさ。」
『えぇ〜!あの強豪で......。』
「四天王の桜木と流川が同い年でさ。よく試合で対戦したんだよね。試合には勝つけど勝った気がしねーんだよなー。」


俺がそう言うと彼女はうんうん、と頷いた。


『勝った試合でも負けた気分になる.......。』
「お、わかってくれる?さすが経験者。」
『あ、いやいや......えへへ.......。』


うわぁ、笑った顔も可愛い.....。


『大学ではバスケしなかったんですか?』
「してたよ。そのまま海南大。でも俺も怪我だらけでさ。それもあって今整体師になったんだ。」


そういえば、この子もバスケでの怪我だし....。と一応宣伝も兼ねて店の名刺を差し出せば彼女は俺の名刺に目を通して口を開いた。


『......きよた....のぶなが?』
「そう。信長。かっこいい名前だろ。」
『はい。すごくかっこいい!』


わぁぁ〜もう完璧だ〜こりゃもう可愛くてダメだ〜。


『今でも四天王とは仲良しなんですか?』
「あー、アイツら揃ってみんな高校出てからアメリカ行ったしな.....。顔見りゃ「お!」とはなるかもしんねーけど......仲良いとまでは......。」
『そっかぁ...でもライバルだったなんて凄いですね!』


凄いのかなぁ....?ま、一応自慢にはなってるけどでも実際流川なんて俺よりずっと凄かったからな当時から...。アイツは人気も凄かったし最近なんだか結婚したってものすごい話題になってるし、やっぱり気に食わねーやつだよ、ほんっとに。


でも流川くらいのプレイヤーになれてたとしたら、こんな可愛い子だって落とせたのかなとか思うとやっぱり才能がある奴は羨ましいと思ってしまう。くそ........


「流川なんか高校の時からすごい人気でさ。親衛隊なんかあったくらいだし海南にもファンクラブあったんだよなー。」
『えぇ......さすがですね......。』
「俺よく試合観戦いってるんだけどさ、よかったら.......」


今度一緒に...なんて言いかけて彼女を見れば何故か一点を見つめてニコッと笑っていた。その視線の先を追おうとした時「ありがとうございました」と俺から荷物を奪っていく。


「えっ.....」
『助かりました。ここで大丈夫です。』


気が付けば駅の構内に着いていた。


「あ、あぁ。こちらこそ、ありがとう。」
『お話も楽しかったです。』
「あ、うん、俺も....!」


俺も楽しかったしもっと話してたかったよ、なんて言おうか悩んでいたら彼女はニコッと笑って俺に手を振った。



『それじゃあまた。........野猿さん。』














「............え、.......」


野猿、って言ったよな今...

それって俺が高校の時によくあの赤毛猿から呼ばれてた名前で......なんでこの子が......。


ぎこちない歩き方で進んでいく先を見れば彼女は黒づくめの男の元へ向かい笑いながら話しかけていた。何故だか周りには人だかりができていてキャーキャー女の声がうるさい。













「えっ.......流川?!」


思いの外、大きく出た俺の声は構内に響き本人にも届いたようだ。流川は「ア」なんて言って俺を見ている。


「キヨタ......」
『楓ちゃんあのね、野猿さんが助けてくれたの。転んじゃって、崩れ落ちた時に.....』


隣の彼女がそう言うと流川はコツンとげんこつした。


『痛っ.....』
「むやみに転ぶんじゃねーよ」
『むやみに転ぶって何...こんなに歩くと思わなくて足が痛くて.....。』
「だから買い物なんか行くなって言ったのに。しかもヒール」
『痛っ.....もう!げんこつやめてよ〜.....』


ぷんすか怒る彼女に流川は優しい顔してげんこつを繰り返した。


えっと.....これは一体.......。


『あ、これ楓ちゃんに似合うと思って。着てね。』
「また...行く先々でメンズ物買ってくるんじゃねー」
『痛っ......なんでよ!いいじゃん!』
「毎月クレジットカードの請求に怯えてんのどこの誰だよ」


無駄遣いは禁止、と流川にまたまたげんこつされて彼女はむすっとした顔で流川を見ている。不意に彼女が動かした左手には先程までセーターに隠れていたであろう輝くキラキラしたものがついているように見えて俺は背筋が凍ったわけだ。







「もしかして、......流川の、奥さん?!」


俺がハッとそう言えば彼女は「えへへ」と笑った。


『すみません、言い出すタイミング無くって....。』
「嘘........流川の奥さんだったんだ.......そうとは知らずになんだかごめん......。」
『いえいえ、楽しかったですよ。助けてくれてありがとうございました!』


あ、いや、そんな可愛い笑顔で微笑むなよ......


ジッと視線を感じて流川を見やれば「キヨタ」とつぶやかれた。俺のこと覚えててくれたんだなぁ.....お前いい奴じゃん.....。


「世話になったな」
「あ、いや.....。そうだこれ一応。必要ねーと思うけど.....。」


俺がもう一枚名刺を出せば流川はそれを受け取って「整体師...」と呟いた。受け取ってくれんのかよ...優しいなお前変わったなぁ.....。


『体痛くなったら行きますね〜それじゃ、また!』


体痛くなったら......。それを聞いてあらぬ妄想をしてしまう俺は男子中学生か、馬鹿野郎。流川に腕を支えられて去って行ったその後ろ姿はあまりに幸せそうで俺はどの感情を持ち合わせれば正解なのか答えが出なかった。










まさかスターの奥さんだとは。


(じ、神さーん!!聞いてくださいよーー!!)
(あれノブ、なんで泣いてんの?)










Modoru Susumu
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