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私はとうとうこの日を迎えたのだった。


「いやぁ〜、なまえさんのお弁当美味しそうっすね!」

『よかったら、何か食べる?』

「いいんすかぁ?!」


私の目の前でお弁当を見つめるなりキラキラした瞳になる桜木花道くん。私はついに彼らの名称「桜木軍団」の「桜木」の部分であるこの赤い頭がトレードマークの桜木花道くんと仲良くなったのだ。いや、話したのはついさっき初めてで、手っ取り早いかと思い、楓を用いて自己紹介をしようと試みた私に「洋平がよく話してるなまえさんですね!」と彼の方から手を差し出してくれたのだった。


桜木くんは思っていたよりもずっとずっと可愛らしくて素敵な男の子だ。何事にも全力で、バスケ部のキャプテンの妹さんに片想い中らしい。なんとピュアな青年なんだ.....


「....花道、なまえちゃんの弁当無くなるだろ。」

「洋平....でも、なまえさんがいいって!」

『いいよ、よかったら好きなおかずあげるよ。』


何故だか「やめとけ花道」と騒がしくなる大楠くんや高宮くん。野間くんに至っては「なら俺が食べる」と言い出してこれまた何故だか洋平くんに背中を叩かれていた。うわぁ、痛そう.....。


「花道、遠慮というものを覚えろってんだ!」

「うるせぇ大楠!黙ってろ!」


相変わらずガヤガヤと騒がしくて、みんなに囲まれる昼休みはとっても楽しい。なんだかんだで桜木くんは「今度ブツブツコーカンにしましょう」と私に言って何も手をつけなかった。そうと決まれば今日よりももっと美味しくて豪華なおかずを作るのみだ。


「...そういや、この間言い忘れたんだけど。」

『うん?』


もぐもぐとご飯を食べていれば私の隣にいた洋平くんがそう口を開く。


「女の店員いたろ、なまえちゃんに話しかけてたさ。」

『....あの綺麗なお姉さん?』

「あれ、大楠の姉ちゃんなんだよ。」


一瞬脳内がフリーズしてから「えっ?!」と声をあげれば「あ、洋平のバイト先行ったの?」と大楠くんが問いかけてくる。


『うん、行ったの....たまたま通ったらお店の前で洋平くんが掃き掃除してて....』

「へぇ、なまえちゃん洋平のバイト先行ったんだぁ.....」

「へぇー.....」

「あそこのケーキが美味いんすよね。」


桜木くんがひとりで「いやクッキーも」「チョコレートもだ」とあーだこーだ呟く中、ニヤニヤと笑う高宮くんと野間くんに見つめられる。あれ?なんか面白いこと言った?


『大楠くんのお姉さんだったんだ....すごい綺麗な人だった!』

「あー、姉ちゃんね。つーかなまえちゃん、どうだったの?洋平は。」

『えっと....バイト先でもかっこよかったよ。制服も似合ってたし。』


私がそう言うと一瞬場が静まり返る。えっ、また変なこと言ったかな?!と慌てる私と「バイト先でも」だって〜とニヤニヤする皆。あぁしまった!また恥ずかしいことをサラッと言ってしまった.....


「よかったなぁー、洋平ー!」

「やめろ.........」


ぷいっとそっぽを向いた洋平くん。あぁ、恥ずかしい思いをさせてしまっただろうか、申し訳なくてなんだか......


「ねぇねぇなまえちゃん知ってる?あのカフェで洋平めちゃくちゃ人気なんだよ。」

『えっ、そうなの?』

「年上の大学生のお姉様方から大人気なんだってさ。」


よく姉ちゃんが言ってるんだよねぇとニヤニヤする大楠くん。そっか、でもすごくわかる気がするんだよなぁ....あんなに落ち着いた雰囲気の年下男子がたまに年相応の笑顔を見せてくるとか、そんなんだったら私でもきっと気にいるもんなぁ。


『さすが洋平くんだなぁ.....』

「違うよ、別にそんなんじゃない。」

「いいや、それを見越して姉ちゃんは洋平に声かけたんだから。」


聞けば洋平くんがアルバイトを探してる際に「ちょうどバイト募集してるから」と声をかけたのは大楠くんのお姉さんだったらしい。リーゼントの髪型でも帽子があるから構わないし、人懐っこくて爽やかな笑顔を持つ洋平くんならバッチリだと思ったんだとか。


「洋平ファンがたまにたむろってる。」

「んなことねぇって、デタラメ言うな。」

『洋平くん凄いね....ファンまでいるだなんて....』


私がそう言うと「そんなことないから」と謙遜する洋平くんは本当に出来た子だなぁ.....


「テメェら余計なこと言うんじゃねぇよ!」

「いや、嫉妬煽り作戦だったんだが....失敗に終わった。」

「....虚しくなることすんな、馬鹿野郎。」











「なまえさんもよかったらどうすか?」

『ごめんね、今日は用事があるんだ....』

「そうっすか、ではまた今度誘いますから!」


またがある。「また今度」。その言葉が嬉しくて桜木くんに「うん!」と微笑む。今日は珍しくバスケ部の練習がお休みらしくみんなはカラオケに行ったりなんなり放課後寄り道するんだと張り切っていた。


「また明日な、なまえちゃん。」

『うん、また明日ね!』


洋平くんに手を振られて振り返す。今日は桜木くんとも一気に距離が縮まったし、本当に充実した一日だった。


陽気に歩き出す私は気が付かなかった。そんな私の姿を見るなり、桜木軍団に近づいていくひとりの影に。


「.....おい、」

「.....なんだよ、キツネ野郎!話しかけてくんな!」

「どあほうじゃねぇ....アンタだよ。」


そう言って楓が洋平くんを指さしたことなんて、知る由もない。










私はまだ、何も知らない


(桜木くんの好きな子は楓が好きってなんか複雑じゃん....)






Modoru Susumu
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