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『.....あれ、洋平くん?』

「....あっ、なまえちゃん....。」


目が合うなり私の名前を呼んだ洋平くんは一間置いてから自分の身なりをチラッと確認した。手には箒と少し離れたところに塵取りが置いてあってどうやら清掃中らしい。私が何かを問う前に「ハハ、アルバイト中でさ...」と言ってくる。


『そっか.....ここで、アルバイトしてるんだね。』

「うん。まぁ、小遣い稼ぎ程度にね。」


駅前にあるオシャレな外観のカフェ。通るたびに素敵だなぁとは思っていたものの、一人で入るのには勇気がいるし、生憎私が入っていいような雰囲気ではないように思える。店内はいつもオシャレなお姉さんたちで賑わっていて....まさか、こんなところで洋平くんがアルバイトしているなんて....なんだか彼とは結びつかないイメージなのに、制服を着てエプロンをつけた洋平くんはとっても格好良くて、このカフェに似合っているように思えた。


ニコッと笑った洋平くんは今日も今日とて爽やかで、土曜日という学校がない日に会えたことにほんの少しだけ嬉しさを感じてしまう。


「どこか出かけるの?帰り?」

『今ちょうど買い物してきた帰りで.....』


持っていた紙袋を控えめに前に差し出せば「あぁ、そうだったんだね」と洋平くんは笑ってくれた。


『なんか、新鮮だね....。帽子被ってる洋平くん.....』

「ハハッ、いつもリーゼントだからな。」


可愛らしい淡いベージュの帽子をかぶった洋平くんは髪型が隠れている分、綺麗な顔が強調されていて。店内の店員さんもみんな同じ帽子を被っており、どうやらこれも指定されたもののひとつらしい。ぼうっと中を見つめる私に向かって洋平くんは「意外だろ?」と笑う。


「俺がこんなカフェで働いてるなんて。」

『...ううん、全然違和感ないよ。すごく似合ってるし、かっこいい。』


サラッと口にして、洋平くんが何も言わないことに気が付いて。今なんて言ったっけ、私.....と考え始めて途端に顔が熱くなる。ついつい思ったことを口走ってしまう癖をなんとかしたい.....。俯いてもうこのまま走って帰ってしまおうかと思っていたら「ずりぃや」と洋平くんが呟いた。


『えっ....?』

「....なんでもない。よかったら一杯飲んでけば?」


お仕事中にお邪魔するのなんて悪い上にこんなお洒落なところ入れないよ....と私が「いやいや!」と言えば洋平くんは半ば強引に私の腕を掴むと「いいから」と店内へ足を踏み入れた。


「いらっしゃ....っ、何?知り合い?」

「はい、高校の友達っす。」


店内へ入るなり綺麗な店員のお姉さんが洋平くんに近づいた。彼の返答を聞くと「へぇ〜」と楽しそうに笑って私を見てくる。「こんにちは...」と頭を下げれば「どうぞ、座って」と席へと案内された。


「水戸くんの友達なんだ?もしかして、みょうじさん?」

『えっ.....、あ、そうですけど.....』

「やっぱりねぇ〜!」


何故だかお姉さんはお冷を置くなりニヤニヤと笑っている。なんで名前、バレたんだろう.....私がそう思いながら彼女を見つめれば「メニューあるけど、必要ないよね」と言ってくる。


「決めなくてもきっと、好きなもの出てくると思うよ。」

『えっ.......』


意味深に笑って去っていくお姉さんの後ろ姿を見つめる。店内はあまり混んでいなくて、それでもお客さんはもっと年齢層が上でオシャレな人たちばっかり。あぁもう、私なんか場違いじゃないかな......


「.....お待たせ、なまえちゃん。」


不意に名前を呼ばれて見上げれば、そこにはトレイ片手に微笑む洋平くんがいて。うわぁ....慣れた手つきだなぁ....なんて運ばれてくるものを見つめていれば、目の前に置かれたのは私の大好きなミルクティーととっても美味しそうなミルクレープだった。


『ミルクティー....ミルクレープ....!』

「ハハッ、美味いぜ、かなり。」


どうして私の大好物がわかったんだろう....と洋平くんを見つめれば「好きそうだなと思ったんだよ」と微笑まれてしまう。その笑顔があまりにも眩しくって慌てて目を逸らした。どこからか「さすがじゃん、水戸くん」と先ほどのお姉さんの声がして、「今日はもうあがりでいいよ」と洋平くんに伝えていた。


「....っす。ありがとうございます。」

「いいよいいよ、青春は戻らないからね。」


バシッと肩を叩かれた洋平くんは笑いながらエプロンを外すと私の目の前に座った。「食べていいよ」と微笑まれて「う、うん...」とミルクレープにフォークをさす。


『.....、すごい....美味しい......。』

「だろ?一回食べさせたいと思ってたんだ。」

『....私に?』


びっくりしてそう聞けば洋平くんは「えっ...」と目を見開いて固まった後「あ、うん....」と下を向きながらそう答えた。なんだか恥ずかしくて、でもすごく嬉しくてなんて答えたらいいかわからないままミルクティーに口をつける。甘くて美味しい......。


「俺、着替えてくるから。帰り送るよ。」

『で、でも....っ、悪いよ......!』

「いいから、食っててね。」


ガタッと席を立ち上がり「staff only」と書かれた扉へと入っていく洋平くん。


『....なんでこんなに、緊張するんだろう....』


本当におかしい。洋平くんたちと友達になってから、私は何故だか洋平くんの前でだけ、どうにもこうにも落ち着かなくてドキドキしっぱなしだ。大楠くんや高宮くんと話していたって楽しいだけで終わるのに、洋平くんの前だとどうしても.....


『.....無理もない、か。』


きっと私だけじゃない。だって洋平くんはそれくらい魅力的ですごく優しい良い人なんだもん。穏やかな表情とか優しい口調とか....でも、怒るととっても怖いところとか、正義のヒーローがすごく似合うところとか...こんなの、みんな知らないだけで、私の反応は正常だと思う。


パクパクと食べ進めるミルクレープはとっても甘いのにどこか優しい味がして、まるで洋平くんみたいだなぁなんて、私の頭はおかしくなってしまったのかな。











ときめく理由をまだ知らない


(...お待たせ、帰ろうぜ)
(でも、お会計がまだっ....)
(んなのいらないに決まってんだろ、ほら行くよ)








Modoru Susumu
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